第33話 合格
やっと落ちついた大魔法使いがいう。
「さて、我こそが西方の守護賢者、あるいは西方の赤き竜、すなわち大魔法使いさまだ。
え? さっき言った? すまんすまん、こうみえて歳も歳なんでな。さっきの顔は最高だったぞ。ひひ、いかんいかん、がまんがまん。おまえが王女を託されたガキか。名前はジュだったな。いい感じで呪われているじゃないか」
「……なぜ、知っているんだ?」
「あほう。大魔法使いさまだぞ。それぐらい知っとるわ。いわゆる千里眼とでもいうかの。およそこの世の出来事で、しらぬことなどない。もっとも、ここ数十年、平和すぎて退屈じゃ、とか思っておったら、あれよあれよというまに王都が陥落し、廃墟になっとったがな。ひさびさにびっくりしたわな。ぎゃはは」
「ここは王国の飛び地じゃないのか。まがりなりにも王国領なんだろう?」
「そんなことは知らん。大魔法使いさまだぞ」
自信満々に言い放つ。大魔法使いさまだぞ、と言えば、なんでも許されると思っているふしがあるが、わるい人ではなさそうだ。レナのことを尋ねると、すでに招待ずみだという。
「たいくつなんでな。おもしろいやつがいたら教えるよう頼んであるんだ」
「ペテロの名前をだして申請したのに……」
「あいつか、勝手に弟子を名乗りおって。しばらく領内で暮らしていただけだぞ」
「まじないを教わったといっていたけど」
「ああ、教えた、教えた。魔法使いになりたいと言っとったが、才能がなくてな。がっかりしてて可哀そうだったから、ちょっとしたまじないを教えてやった。だから弟子か。そういう意味では弟子だったのかもな。
だが、困るのう。大魔法使いさまの弟子があの程度だと思われてはなぁ。で、あいつ、元気にやってんのか」
「殺されたよ」
千里眼などと偉そうなことを言っておきながら、そんなことも知らなかったのかとの非難を込めて応じると、大魔法使いさまは、そうか、と短くつぶやき、だから弟子なんていらないんだと顔を背けた。
「殺したのは、だれだ?」
「帝国の審問官、アリ」
そうか、と、もう一度つぶやいて黙り込んだが、わずかな沈黙のあと、こちらへ向き直ったときにはもう笑みを浮かべていた。
「それはそうと、合格だ。めでたい、めでたい。この大魔法使いさまが祝ってやろう。領内へ入ることを許すぞ。ついてこい」
さっそうと歩いていく大魔法使いに片足でついていくのは骨が折れた。追いつけないほど距離がひらいてしまう。ふりかえった大魔法使いさまは、そのときになってやっと俺が片足であることに気付いたらしい。
「どうしたんだ、おまえ。足が片方ないじゃないか」
「お気遣い、どうも。さっきからずっとなかったけどな。どっかに行っちまったんだ。たぶん、化け物の腹の中かな」
「そいつは不便だのう。よし、我のコレクションから好きな足をひとつやろう」
「好きな足って、あんた……」
「どれがいいかな。ウサギとかオオカミとか動物系もいいぞ。樹霊の宿る木から切りだしたやつとか、虫の集合体なんてのもわるくない。太古の竜の脚とか、はたまた宿主を喰い尽くす寄生生物の擬態なんてのもいいな。あ、でも、ひとつだけだぞ」
「そんな、いくつもいらんよ。そもそも、どれも欲しいと思えん」
「わがままなやつめ。よし、じゃあ、とある英雄の義手をつけてやろう」
「義足が欲しいんだけど」
「堅いことを言うな。たいして変わらんし、いいだろ?」
「いや、よくない」
「じゃあ、しかたない。義手を削って義足にしてやるか」
あれをああしてこうして、と、ぶつぶつ楽しそうにつぶやいていた。義足をもらえるのはありがたいが、少々不安でもある。




