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第3話 ゲドウ


 暴力。


 純粋な暴力は苛烈かれつな熱をおびたものだ。すでに知っていたそれを、みずからが味わうことになった。しょせん、やわらかな肉にすぎない生き物をどう料理すればいいか、屍肉しにくあさりたちはよく知っている。


 痛いよりも熱い。


 脳髄のうずいが沸騰しているかのように熱い。


 数日前まで仲間だった者たちから、殴られ、蹴られ、折られ、潰され、曲げられ、ふさがれ、がれ、刺され、斬られ、やがて殺されると覚悟はしていた。


 だが、肉の前では覚悟など鉄鍋にしく油でしかない。調味料にすらなれないそれを大事に握りしめて、俺は自分の肉が暴力にあぶられるのを噛みしめていた。


「なぁ、どこで手にいれたのか教えてくれよ」


 親しみすら感じられる声で、ボスがいう。


 情がうすく、計算だかく、利にさとい性格で、屍肉しにくあさりの獲物を横取りしようとする大人のぞくや傭兵たちにも一目いちもくおかれている。それは裏切者にたいする徹底的なやりくちからくるところもあった。スカベンジャーの多くがそうであるように、ボスの年齢も知れなかったが、十代後半くらいだったろう。名前もまた本名はしれない。さげすみをこめてゲドウと呼ばれており、それを喜んでいるところがあった。ボスの尋問は、熾烈しれつだった。


「なあ、どこで手に入れたのか教えてくれよ」


 何度目の質問かもわからない。ただ、淡々と、肉体的な拷問ごうもんをくわえながらいう。さめた物言いが、ひきだせなくてもかまわない、死ぬなら死ぬでいい、と考えていることを示していた。


 ゲドウは、例の宝石を手のひらで転がしながら、じっと眺めている。それは焚き火のゆらぎをうけて、きらきらとかがやく。宝石のなかに星々が閉じこめられている、そう感じた夜のこと、いっしょにねむった幼子おさなごのことを思いだす。……代償は、おまえの命だ。ああ、まさにそうなったよ。死んだ女性の言葉を噛みしめ、口のはしに笑みを浮かべたところを、宝石をにぎった手で殴りとばされた。


「なあ、どこで手に入れたのか教えてくれよ」


 笑っていたか、おまえ? つぶやくように問いかけながら立ちあがったゲドウが、はいつくばる俺の頭を踏みつけた。げぼげぼと歯のまじる血をはき、まわらない舌でこたえる。


「……もともと、俺のものだ」


「ジュ、ジュ、ジュよ〜。おまえはずっと屍肉しにくあさりだった。生まれたときからずっとおまえはスカベンジャーなんだ。そうだろ?」


「……俺の名は、古代語で太陽の意味なんだ」


 おまえの親は、もしかしたら、それなりの地位と教養があったのかもしれないな、と女性の声が頭にひびく。


「だから、本当は高貴な生まれなのさ」


「はは、王子さまだとでもいうのか」


 焚き火をかこみ、俺をかこむ屍肉しにくあさりたちが声をあげて笑う。笑う、笑う、笑う。それに負けぬように両ひじをついて身を起こし、


「そうだとも!」


 王子さまさ、と笑ってやる。もう一度、どっと笑いが起こった。これが俺の最期か。いいさ、笑われながら死んでやる。


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