第27話 嘘つき
「やめて!」
と、すぐにも駆けよろうとするレナを、ハインラがひきとめていた。
しかし、もはやムダなことだった。二人が捕らえられ、となりに引きすえられるまで、なにほどの時間もかからなかった。帝国兵の数は多く、キメラも無傷だ。斬りすてたはずの顎も、オオカミの首も、もとに戻っていた。その頭をなでながら、アリがいう。
「これがなんであるか、みなさん知らないでしょうね。キメラという呼び名は知っていても、どういう存在であるか知らない、あるいは知りたくない」
言いながら、キメラの脇腹に生えた小さな手をナイフで切り落とした。と、すぐに、ぶくぶくと血のあわをふきあげて再生される。
「基本的に短命ですが、強靭な生命力をもつのです。こいつはケモノなみの知性しかありませんが、ヒトなみの知性をもつ個体もいます。ずるがしこく、打算的で、執念ぶかい。うまくやれば、寿命を伸ばすこともできますしね」
自嘲的にわらいながら、切り落とした手をキメラの口中にほうりこむ。それを食う様子を楽しげに眺め、そのままレナを見つめる。
「なかなか肝心な話が出てきませんね」
ねぇ、王女さま、と呼びかける。
「自分が何者か、わからないのですか。それでは、あなたを守って死んだあの女も浮かばれない。それとも、そうあるように願っていたのか。ほろびたりとはいえ、一国の王女だったのです。伝統と魔法を担い、自分たちのいう正義を各国におしつけてきた。そのつけを払わされようとしているのです」
首を振ってわからないと応じるレナに、本当にわからないのですか、と言いながら、アリはハインラの横面を張り飛ばした。
「すみませんね。本当になにも知らない、覚えていないのかもしれません。しかし、そんな振りをしているだけかもしれない。
いえ、なに、心配無用です。いまのところ、あなたに危害を加えるつもりはありません。王家の生き残りをどうするか、帝国内でも意見が分かれてきましてね。なので、まずは死んでもかまわないものに、代わりに殴られておいてもらいましょう。もし、話す気になったら、いつでも話してくださいよ」
倒れたままのハインラに近づくと、その足を踏みつけた。うめき声をきいて、痛覚はあるのですね、と感想をつぶやく。
「そこの男とは、どういう関係なのでしょう。前回は、べつの女でしたね。とっかえひっかえ、やるじゃないですか。よしよし、左足を切りおとして男とおそろいにしてあげます。人面豚を試してみてもいい」
「やめろ! ハインラは関係ない。まだ知り合ったばかりなんだ」
「だからなんですか?」
だまってなさい、と思い切り腹を蹴とばされた。二度、三度と蹴りつけられる俺の姿をみて、レナが声をあげる。
「やめて! やめてください」
「いいですとも。あなたがきちんと話してくれさえすれば。自分が何者であるか、覚えていることを話しなさい」
「おぼえていることって……。わたしは、ジュの妹なの。お父さんもお母さんも、ちいさいころに死んじゃって。王女だなんて、そんなこと。人違いです」
「そんなふうに教えられたのですか。だとしたら、そいつはひどいウソつきだ」
俺を指さしながらいう。
「あなたたちは兄妹などではありません」
「うそ!」
「私を嘘つき呼ばわりとは、まったくもって心外です。では、おにいさんに聞いてみるとしましょう。この子は、あなたの妹ではない。そうでしょう?」




