第20話 ペテロとハインラ
現れたのは人相の悪い一団で、盗賊か人狩りか、あるいは海も近いし海賊か。いずれにしても、ろくな連中ではなかった。
一瞬、じいさんが賊とグルなのかもしれないと思ったが、その疑いはすぐに晴れた。賊の首領らしき男が、
「年寄りはいらん。若いのは二人とも生け捕りだ。あまり傷つけるなよ」
と指示していたからだ。
狩猟用のナイフをかまえ、じいさんとレナをかばって立ったが、賊は十人ちかくおり、抵抗してもムダだろう。呪いの世話にでもならないかぎり。
さて、と首領がいう。
「抵抗するんじゃないぞ。年寄りと女をまもりながらでは、なにもできまい」
「そりゃどうかな」
応える声に、われながら不思議な強さをかんじる。呪いとの対話から、すっかりそれを当てにしてしまっていた。ふところに手をいれ、黒いナイフをつかもうとしたとき、やめておけ、と、じいさんが首をふった。
「こやつら、人狩りじゃな。よけいなことをしなければ、命まではとられまいて」
よくわかってるじゃないか、と首領がいうけれど、その目はうつろで、なにも映していない。ほかの連中も同様だ。ぼんやりとした目付きで、まるで焦点があっていない。
じいさんが、にっと笑った。
「ちょいとした目くらましじゃ。はやいところずらかるぞい」
「目くらましだって? 魔法じゃないのか」
「そう呼ぶものもおるがな。師匠にくらべれば、わしの術など、ただの呪いさな」
そんなことより、と、あごで人狩りたちのほうを示してみせた。ぶつぶつとしゃべりながら、だれもいない場所に剣をふるったり、なかには服をぬいでいる者もいた。
「味見でもしようというんじゃろう。うらわかき乙女に見せておくようなものでもない。さっさと行くぞ」
じいさんは、まじない師のペトロと名乗り、自分の家へ連れていってくれた。ゆっくり休んでいけばよいと。まったくもってお人好しなじいさんだ。わけありの渉猟者を迎えいれようとは。
ペトロの家は、森の外れにあり、粗末な作りの小屋に入ると、そこには大陸の住民とは異なる肌と目をもつ少女がいた。
「この子は、ハインラという」
俺と同じ年頃の少女は、ペトロから紹介をうけても、涼しい目で、だまって俺とレナをながめているだけだった。けれど、ふと思いついたように羊皮紙をとりあげ、そこになにかを書きつけてみせる。文字だろうと見当はついた。
だが、それだけだ。いったいどういうことかと思っていると、すこしちがったような発音で、ハインラと応じた。どうやら、その文字は、彼女の名前をしめしていたらしい。
「まあ、話はあとでな」
ペトロが食事の用意をたのむと、ハインラは、どこかウサギを思わせるように、ぴょこんぴょこんと足をはねさせて歩いていった。
レナが目でたずねてくる。どうして、あんな歩き方なのかなと。
「ハインラは、あしが不自由なんじゃ」
疑問にこたえて、ペトロがいう。
「あの子は島の出身でな。人狩りにさらわれ、帝都で奴隷として売られたらしい。走れないよう、あしの腱を切られたのよ。むごいことだて。大陸の言葉は片言だが、聡明な娘で、わしらの文字は、あらかた理解しておる」




