第19話 祈り
急な旅立ちだったので煮炊きする道具すら満足になく、廃墟をあさることとした。
もはや屍肉あさりではなく、渉猟者なのだという誇りから、またレナを納得させるため、必要なものを失敬するかわりに死体を埋葬することに決めたが、それぞれの死体にレナが祈りをささげているときには、そんなことは無意味だ、死者は死ぬまでが死者であり、死ねばただの死体だと、のどまで出そうになった。
祈りをささげているレナは、聖堂に安置された彫像のように美しかった。
その美しさは、そのまま、死体をみても祈ることのできない自分との距離をしめしているにちがいなく、みとれながらも不安を感じずにはいられない。そんな思いのせいだろうか、声をかけられるまで人の気配に気付かなかった。
あらわれたのは小柄なじいさんで、おだやかな表情をしていたが、こんな場所にいるなんて、なにか曰くがあるにちがいない。有無を言わせず、ナイフをつきつける。黒いナイフとはべつの狩猟用のものだ。
「こんなところで何をしている?」
「なに、ちょいと染料のもとを摘みにな。そうしたところが、このありさまだ。むごいことだて。またひとつ集落がなくなってしもうた」
そう言うと、ところで、こんな老いぼれにいつまで刃物なんぞを突きつけておるんだと不満をもらすのだった。
「じいさん、野草でも摘みにきたのか。それは信じてもいい。しかし、そもそも、なぜこんな危険な土地にいるんだ」
「そりゃ、おまえさん方もおなじだろう。みたところ兄妹かね。そんな若い娘をつれていてよい場所ではないぞ」
ほっほっほっ、と笑う。どうやら、危険はなさそうだ。持ち物も確認したが、野草と何枚かの羊皮紙だけだった。
「じいさん、なんだいこれ?」
「羊皮紙じゃよ」
「それぐらいはわかるさ。こまかい模様みたいなもの。カビじゃないよな」
「そいつは文字だ」
「文字?」
「そうじゃ。羊皮紙を知っておるのに、文字を知らんのか?」
「羊皮紙は交易所でみたことがある。高いものだとおもったけど、文字というのか、こんな模様はなにもなかった」
「ふむ、そいつに興味があるかの?」
「いや……」
べつに興味はないと応じようとしたとき、足もとに矢が突きささった。これまた迂闊にも、何者かの接近を許していたらしい。




