第15話 もぞり
「なにが聞きたい?」
「まえの持ちぬしはどうなりましたか」
審問官のアリは、俺が死体からはぎとった宝石のことをたずねてきた。どう答えるのが正解なのか、どう答えようと正解はないのか、慎重に言葉をえらぶ。
「宝石をたくして、死んだよ」
「ほう、死にましたか。あの女がね」
ピクリとまゆをあげ、苦々しげにつぶやく。「さんざん手をかけさせられましたが、また面倒ごとを残してくれたものです。女からあなたへと宝石がうつり、さらにあなたからそれを奪った男が、おのれの才覚を過信して売りにだした。どういったものか知りもせずに」
だから、こんなざまになる。そういって、ゲドウをけりとばした。
「何年もたって、ほとぼりが冷め、自分なら売りさばけると思ったか。だが、あの宝石は、文字どおりの御宝なのです。王都陥落後、所在不明となってより、何年ものあいだ血眼になって探しつづけていたのですから」
そして、もうひとつ。
くちびるをなめるようにして、ゆっくりと問いかけを口にする。
「ほかに何か、いや、誰か、たくされなかったでしょうか。この問いには、真摯にこたえていただきたい。うそはわかりますよ」
ふるえるレナをだきしめながら、どうこたえるべきか迷う。しかし、その仕草じたいが答えとなったらしい。
「その少女が、そうですか」
はっとしたときにはすでに遅く、アリの冷たい目がレナをみつめていた。
「教えていただき、ありがとうございます。月読みの儀は縁組みをかねているとききますから、あの世で一緒に暮らせるよう……」
ともに死なせてあげましょう。と、兵士たちに武器をかまえさせる。
「あなたも幸せものですね。その狩人と王女と、花嫁をふたりも持てるとは」
狩人と王女、ふたりの花嫁だって? 狩人とはリップのことだろう。では、王女とは、レナのことなのか。うかんだ疑問を口にするひまもなく、兵士らが向かってきた。
死を覚悟し、レナをひきよせて抱きしめる。
そのとき、……この子をまもってあげてほしいのです、との言葉を不意におもいだし、むねのおくでなにかが動いたようだった。気付くと、やわらかな少女の感覚が腕のなかからきえていた。いつのまにかレナをうしろにかばい、そして、手中には黒いナイフがあった。
どこかへ消えてしまっていたナイフだ。
それをみたゲドウが目をみひらいてあとずさり、キメラの足もとに頭をかかえて這いつくばる。そんな様子は認識できているのに、からだの自由がきかない。自分のからだが自分のものでないように勝手に動き、兵士たちの剣も槌も鎧も盾も、すべてをナイフ1本で切りさいていくのだった。
驚愕の表情で、アリがキメラをけしかけてきた。
しかし、黒いナイフは、キメラの鼻さきから、すべてをまっぷたつにしていく。があがあ、ぎいぎい、胴体を共有するカラスのクチバシが、女の口が、トカゲのあごが悲鳴をあげ、俺の腕が、その血と肉にうまっていった。
「そこまでです。とまりなさい」
アリの声がきこえ、からだの感覚をとりもどす。声のほうをみると、リップとレナが捕らえられ、のどもとに剣をつきつけられていた。さらに、ほんの数秒、うごきをとめたうちにキメラの傷口が再生し、ナイフをにぎった腕ごと取り込まれてしまっていた。化け物の血肉に挟まれ、動くことができない。
首すじにヒヤリとした感覚。
ひとりの兵士が、おびえながらも俺の首に剣をあてていた。
殺せ! と、さけび声がする。アリだろうか、それとも兵士だろうか、と思うまに、剣が後方へひかれ、首にむかって振りおろされた。




