第14話 一枚の絵
ゲドウのうなずきに、俺が宝石の持ちぬしだと確信したのだろう。意地のわるそうな笑みをうかべて、アリがこちらをみた。
「あなたが、うわさの王子さまというわけですか。では、ひとつだけ教えてください。宝石を誰から奪いとったのですか。そして、そいつは死にましたか」
「……教えてやる義理はない」
「ええ、そのとおり。しかし、あなたは教えてくれるとおもいますよ」
アリが手で合図をすると、兵士たちが、おばばとレナをつれてきた。
「まずは御老人、つぎに少女を殺します」
地面をたたいてムチを鳴らすと、きれいな女の顔を生やした化け物が四肢をゆらして歩いてきた。大口をあけ、エサを待つようにする。ほぼ直角にひらいた口のなかへ、しばられたままのおばばが突きたおされた。
「話すことなどないぞ、ジュ」
化け物の舌のうえで、あおむけに転がったまま、おばばが声をあげた。それを無視して、キメラの鼻先をなでながらアリがいう。
「すなおに話せば、御老人も少女も無事でかえすと約束しましょう。私は、やると言ったことはやります」
「ひひ、だまされまいぞ。こやつは帝国の審問官じゃ。おさない大帝を隠れみのに好き放題やっておるクズどもさ」
「ひどい言われようですね」
「そりゃあそうじゃろう。わしをコンガリと焼いてくれたのは、おまえさんのお仲間なんじゃからな」
「なるほど。これは嫌われても仕方がない。魔女狩りの生き残りですか」
「そうじゃ。帝国に都合の悪いことは、すべて異教徒や逃亡民のせいにしてきたのだろう。けがれた民をけがれた化け物に処分させ、いずれ化け物も処分する。ひひ、大帝の身に……」
と、化け物の口が閉じ、ばりばり、ぼりぼり、ごりごりと音がする。トカゲじみた体表から突きでたカラスたちが、があがあとわめき、よだれを垂らす。あらい息を吐く女の顔は、獣欲と恍惚にまみれていた。
リップがその場にへたりこみ、すこし遅れて、レナの悲鳴がきこえた。やがて不快な音がうすれ、かわりにひびく嗚咽のなか、ものを飲みこむ音。
「どうですか。御老人の世迷言よりも、私の言葉のほうがよほど信頼にたるとわかってもらえましたか。私は、やると言ったことはやります」
化物の口をあけさせると、こんどはレナを舌のうえに転がした。むせかえるような血のにおいに、その顔がゆがむ。
「さあ、私の誠実さがわかってもらえるとよいのですが。どうです、この光景は。つきあかりもない夜に、人と物の焼けるにおいとひかり、うつくしいけれど魂のない女の顔、わめきたてるカラスたち、おびえた少女のすがたとが、倒錯的な美を醸しだしてはおりませんか。それも、あなたの返答しだいで少女ごと失われるわけですがね」
「よせ、やめろ! その子をそこから出せ」
「出せば話してくれますか」
「話す、なんでも話す」
「はは、御老人のときとは打ってかわってあせっているじゃないですか。妹さんですか? あるいは恋人とか? やはり、ばばあとは命の価値がちがいますか」
「いいから、はやく出してやってくれ」
「いいでしょう」
レナをそとへ出すよう兵士に命じる。「さあ、こんどは、あなたが約束をまもる番です。よけいな血をみることのないよう、正直に話してほしいものですね」




