+7 人狼の娘
剣を持つと気持ちが昂ぶる。
修練用の木剣でもそうだ。
そして別人になる。
もちろん、本当に別人になるわけじゃない。だが、ああ、来たね。自分で言うのも何だが、やさしく穏やかな性格の私は消え、激しく攻撃的で容赦のない私になる。
王国に仕える人狼を出す一族として、剣は子どもたちの遊び道具のようなものだ。幼いころから剣とともに育つ。
女でも、そうだ。
しかし、筋力が違う。いや、筋肉のつき方が違うのだ。普通であれば、いくら長子であっても、私が人狼の候補として育てられることはなかっただろう。
それが、幸か不幸か、ふさわしい年齢の子どもが他にいなかった。何年かまえに流行り病で大勢の子どもが死んだというから、そのせいかもしれない。
剣を握るのは嫌いじゃない。
本来の〈?〉おとなしい私のときには、剣を振るうことも、人を斬ることも嫌いだと言うだろう。だが、本当はどうなのか。
この私は、やはり普段の私の一面でしかないのではないか。女でありながら、剣を持たされ、厳しく稽古をつけさせられた。おとなしくしていては殺されてしまうような気がして、私は剣を握るたびに、この私になるよう、自分で自分を誘導した。そうだ、人格が変わるとか、そういうことじゃない。
ただ、命のやりとりに臆さないように。
思えば、卑怯な奇襲だった。帝国の連中は、和睦の使者をよそおって王国領内に入りこみ、クレカ・スーの魔術とキメラの軍勢によって王都を蹂躙した。
あのときのことは、思い出したくない。
もう一人の私が語るだろう。
剣を置き、私にもどる。
私は、いやな女です。
いやな役目をいつも剣の私に押し付けてきました。なにかあると、すぐに自分のなかに逃げこんでしまうのです。
ひそかに愛した男性と、親友……と少なくとも私は思っていた……の王女さまとが結婚し、子どもをさずかりました。
それはそれは可愛らしい女の子で、王都が陥落したさいには、自分たちよりもその子を守ってほしいという二人のために、私はその子を命を賭して守りました。魔剣の呪いで守らされているのではないかと思わないでもありませんでしたが、剣の私となって奮戦し、致命傷を負いながらも城の包囲を抜け、とある屋敷にひそむことができたのです。
私にとって、その女の子は、親友の娘でありながら、恋仇の娘でもあり、愛した男性の娘でもありました。その子を守ろうとしたのは、自分の意思だったのかどうか。
私は人狼になんかなりたくありませんでした。幼いころから剣の稽古をつけさせられ、痛くて、辛くて、泣いて頼んでもやめさせてくれなかったのです。
これは私の望んだ道だったのでしょうか。
私にはわかりません。わからないけれど、この子だけは健やかに生きていてほしい。そう願う心は、この心だけは、私のものだと信じたい。目覚めた時に、いや、目覚めるまでに私の命が尽きていなければ、捜索の手がここまで伸びて来なければ、屍肉あさりでもいい、誰か、この子を託せる人が来てくれれば。亡国の王都で、亡国の王女に、そんな奇跡のような出来事が訪れるならば。
そして、かなうならば、この子の未来があたたかいものであらんことを。
私は彼女の親友として、彼を好きになった女として心から願いたい。ちょっと欲張りすぎでしょうか。そんな願いを、神様、私はあなたを信じていないけれど、それでもかなえてくれるなら、私は……。
もう眠たくなってきました。
魔法の眠りが、この子と、私とを守るささやかな盾とならんことを。もし、妹がいれば、どうすればいいか占ってくれたでしょうに。
大嫌いなはずの故郷の光景が目に浮かんでくる。冷たい雪に閉ざされる辺境の地。海の生き物を殺し、野の生き物を殺し、それでも足りずに、人を殺してでも生き延びてきた人狼たちの村です。
最後に浮かんでくるのは、一年の多くを彩る雪と氷ではなく、わずかな時季だけの暖かい光に満ちた草原の広がり。
ああ、まだ会ったことのない末の弟に、いつか会ってみたかった……。
【後書き
これにて完! お読みいただき、ありがとうございました。遅々とした更新にも関わらず、根気よく「いいね」してもらえたり、やはり誰かが読んでくれているということは、それだけで励みになります。さほど広く読まれたわけではないので、同じ人だろうなと思いつつ、それがまた嬉しいのでした。感謝です。




