表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/125

+7 人狼の娘


 剣を持つと気持ちがたかぶる。


 修練用の木剣でもそうだ。


 そして別人になる。


 もちろん、本当に別人になるわけじゃない。だが、ああ、来たね。自分で言うのも何だが、やさしく穏やかな性格の私は消え、激しく攻撃的で容赦のない私になる。


 王国に仕える人狼ルーガルーを出す一族として、剣は子どもたちの遊び道具のようなものだ。幼いころから剣とともに育つ。


 女でも、そうだ。


 しかし、筋力が違う。いや、筋肉のつき方が違うのだ。普通であれば、いくら長子であっても、私が人狼ルーガルーの候補として育てられることはなかっただろう。


 それが、幸か不幸か、ふさわしい年齢の子どもが他にいなかった。何年かまえに流行はややまいで大勢の子どもが死んだというから、そのせいかもしれない。


 剣を握るのは嫌いじゃない。


 本来の〈?〉おとなしい私のときには、剣を振るうことも、人を斬ることも嫌いだと言うだろう。だが、本当はどうなのか。


 この私は、やはり普段の私の一面でしかないのではないか。女でありながら、剣を持たされ、厳しく稽古をつけさせられた。おとなしくしていては殺されてしまうような気がして、私は剣を握るたびに、この私になるよう、自分で自分を誘導した。そうだ、人格が変わるとか、そういうことじゃない。


 ただ、命のやりとりにおくさないように。


 思えば、卑怯な奇襲だった。帝国の連中は、和睦わぼくの使者をよそおって王国領内に入りこみ、クレカ・スーの魔術とキメラの軍勢によって王都を蹂躙じゅうりんした。


 あのときのことは、思い出したくない。


 もう一人の私が語るだろう。


 剣を置き、私にもどる。


 私は、いやな女です。


 いやな役目をいつも剣の私に押し付けてきました。なにかあると、すぐに自分のなかに逃げこんでしまうのです。


 ひそかに愛した男性と、親友……と少なくとも私は思っていた……の王女さまとが結婚し、子どもをさずかりました。


 それはそれは可愛かわいらしい女の子で、王都が陥落したさいには、自分たちよりもその子を守ってほしいという二人のために、私はその子を命をして守りました。魔剣の呪いで守らされているのではないかと思わないでもありませんでしたが、剣の私となって奮戦し、致命傷を負いながらも城の包囲を抜け、とある屋敷にひそむことができたのです。


 私にとって、その女の子は、親友の娘でありながら、恋仇こいがたきの娘でもあり、愛した男性の娘でもありました。その子を守ろうとしたのは、自分の意思だったのかどうか。


 私は人狼ルーガルーになんかなりたくありませんでした。幼いころから剣の稽古けいこをつけさせられ、痛くて、辛くて、泣いて頼んでもやめさせてくれなかったのです。


 これは私の望んだ道だったのでしょうか。


 私にはわかりません。わからないけれど、この子だけは健やかに生きていてほしい。そう願う心は、この心だけは、私のものだと信じたい。目覚めた時に、いや、目覚めるまでに私の命が尽きていなければ、捜索の手がここまで伸びて来なければ、屍肉しにくあさりでもいい、誰か、この子を託せる人が来てくれれば。亡国の王都で、亡国の王女に、そんな奇跡のような出来事が訪れるならば。


 そして、かなうならば、この子の未来があたたかいものであらんことを。


 私は彼女の親友として、彼を好きになった女として心から願いたい。ちょっと欲張りすぎでしょうか。そんな願いを、神様、私はあなたを信じていないけれど、それでもかなえてくれるなら、私は……。


 もう眠たくなってきました。


 魔法の眠りが、この子と、私とを守るささやかな盾とならんことを。もし、妹がいれば、どうすればいいか占ってくれたでしょうに。


 大嫌いなはずの故郷の光景が目に浮かんでくる。冷たい雪に閉ざされる辺境の地。海の生き物を殺し、野の生き物を殺し、それでも足りずに、人を殺してでも生き延びてきた人狼じんろうたちの村です。


 最後に浮かんでくるのは、一年の多くをいろどる雪と氷ではなく、わずかな時季だけの暖かい光に満ちた草原の広がり。


 ああ、まだ会ったことのない末の弟に、いつか会ってみたかった……。





【後書き

 これにて完! お読みいただき、ありがとうございました。遅々とした更新にも関わらず、根気よく「いいね」してもらえたり、やはり誰かが読んでくれているということは、それだけで励みになります。さほど広く読まれたわけではないので、同じ人だろうなと思いつつ、それがまた嬉しいのでした。感謝です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ