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+3 人狼の弟妹


 一族の集落が襲われたのは、これまでの所業への報いだと思いました。


 これは、自分たちのしてきたことです。


 冬には氷雪に閉ざされる土地に生まれ育ち、つねに、まきか、酒か、肉か、服か、金か、なにかが足りていませんでした。


 足りなければ我慢すればいい。けれど、我慢できないほど足りなければどうすればいいのでしょう。海の恵みさえ満足にうけとれない時期が続けば、よそから奪ってくるしかありません。それが道義的に良いことでないのは明らかで、一族を擁護ようごするつもりはないのですが、一族もろとも飢え死にするわけにもいかないのです。人を押しのけて生き抜いてきた後ろめたさからでしょうか、一族の祖先は狼だといわれています。自分たちで、そう言っているのです。


 狼はほこりを食ってでも生きる。


 実際にそんなわけはないけれど、それだけ生に執着し、しぶとく生き抜いてきたことを、なかば恥じ、なかば誇っているのでしょう。


 いつのことだったのかもわからないほど昔のことですが、あるとき、奪いとった獲物のなかに魔剣〈餓狼がろう〉があったのです。それがまた一族に新たな道と呪いを生むことになりました。


 ラキという名の戦士が〈餓狼がろう〉を持って集落を飛びだし、あまたの戦場を経て、王女の護衛というえある地位についたのです。一族の狂戦士バーサーカーが王国の守護者たる人狼ルーガルーとして地位と名誉を得たのでした。


 ラキの死後、一族で最も優れた剣の使い手が〈餓狼がろう〉を所有し、王女を護る人狼ルーガルーとなることが定められました。その慣習は、時が流れ、一族の属する地が帝国に統合されるに至っても続けられました。


 だからでしょうか。帝国が、盟主たる王国に叛旗はんきをひるがえしたとき、一族は帝国に従うことをよしとせず、反抗し、滅ぼされてしまうのです。


 戦争にもならない一方的な侵略、そして略奪です。私たちの父祖がしてきたことの報いをうけたのだと思いました。


 しかし、そうは言っても、むざむざ兵士のなぐさみものになりたいわけもなく、なにより、まだ幼い弟を死なせるわけにもいきません。


 赤ん坊や子どもが幼くして死ぬことの多い厳しい土地柄ゆえに、まだ名前もつけられていなかった弟を連れて私は集落を逃げだしました。普通に考えれば、女の足で、そうは戦場をぬけだすことはできないでしょう。


 けれども、私には占いがありました。


 むかし、まだ魔法が生活のなかに息づいていたころには、予知にちかい占いができる人もいたそうです。そこまでではありませんでしたが、私にもそれに似た力があり、どこへ逃げればいいか、普通の人より、すこしだけ有利だったのです。もちろん、帝国の襲撃自体を予知できていない時点で万能ではないのですが。というより、なにを占うか決めなければなにもみえない、そんな力でした。


 私がむかったのは、当代の人狼ルーガルーのもとです。そのときの人狼は、私の姉が務めていました。


 占いに特別な道具は必要なく、道端の小石や虫、動物、月日、空模様、街道で出会う人々、影の落ち方、食べ物の煮詰まり具合など、なんでも良い。そこから世界の声を聞きとる。それが私の占いなのです。


 最初の襲撃で両親は殺され、ほかの兄弟がどうなったのかはわかりませんでしたが、末の弟と私と二人で逃げ続けました。


 まだ幼ない弟を、私が背負って進みました。急なことで、食べ物、飲み物、着替えまで、なにもない旅でしたが、所詮、私も海賊の子孫ですから、足りないものは現地調達としました。


 その際も、占いは役に立ってくれました。


 しかし、占いが役に立つのは、選択肢があるときだけです。ついに、前後左右、どこへ進もうと命はないという結果がでたのです。ただし、弟を見捨てるならば助かるだろうと。


 悩まなかったといえば嘘になります。


 だれしも自分が一番大事です。弟を見捨てて生き抜くことも、ほこりを食ってでも生きる狼の子孫としては正しいことではないでしょうか。そのさきで一生後悔するとしても、後悔するだけの時間いのちは残るのですから。


 しかし、愚かな私は弟を見捨ててどこへ逃げればいいか占う代わりに、弟に与えるべき運命の名前を占いました。

 残党狩りの連中が近づいてきていることを知りながら、日の落ちかけた道ばたで、夕焼けの色合いから占いをすることにしたのです。


 そのとき、あかく染まった太陽をみて、占うというよりも直観的に名前がうかび、弟にはジュと名づけてやりました。


 あたえられるものは他になにもなく、私は何度もジュに言い聞かせました。あなたの名前はジュだと。ほかの何を忘れても、その名前だけは忘れてはいけないと。


 そうして、私たちがあとにしてきた街道のむこうから追手がきていることを感じ、自分が戦士にむいていないことを知りながら、戦うための、最後には自決するための小剣を手にして、ジュを押しやりました。


 私たちの父も、そのまた父も、誇り高き人狼ルーガルーでした。あなたの名前はジュ。あなたもまた誇り高き人狼ルーガルーの子どもです。さあ、いきなさい。すこしでも長く生き延びなさい。可能性は低くても、苦難の道だろうと、屍肉しにくあさりになろうと、生き延びるのです。狼はほこりを食べてでも生き残るものよ。


 あなたにあげられる私からの最後の贈り物。あなたの名前が、あなたに相応ふさわしい人と運命に巡りあわせてくれますように。


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