第12話 審問官
ぱちぱちと火花の舞う音がする。
リップとふたりして飛び起き、火もとへ走った。とおくで炎がおどり、やけこげたにおい、まぶしいばかりの光が夜の森にまじる。
昼間の人狩りどものしわざか?
いや、やつらにはそんな度胸も力もないはず。もえているのは、月読みの儀の終わりまで待ち人たちが宴をはる仮小屋のあたりか。あそこにはタギとレナがいる。……そこに思い至って、からだに震えがはしった。
森をぬけて、ひらけた場所へ。
もえさかる仮小屋をとりかこむのは、賊でも、人狩りでも、異教徒でもなかった。そこにいたのは、整然と統率のとれた兵士たち。そうとも知らず、無防備にとびだした俺たちにむかって、指揮官らしき男が、ほほえみながら口をひらいた。
「こんばんは。月読みの儀の参加者ですね。さて、どうしたものか」
あたりには香ばしい匂いがただよい、それがなにを意味するのか、屍肉あさりとして死体の焼ける匂いを何度もかいできた自分にはよくわかった。
仮小屋のドアには厚い板がうちつけられている。なかで、みんなが自分たちの帰りをまっていたはずだった。
全身から汗がふきだし、心臓がぎりぎりと音をたてる。むねが熱くなり、耐えがたい痛みとともに、なにかが形をとりはじめていた。
「ジュ! リップ!」
しわがれた声に呼ばれ、われに返った。おばばの声だ。しばられたレナとおばばが目に入ってくる。ふたりして涙をながしていた。ゆらぐ炎の影に、ながれる涙がきらきらとかがやき、それを美しいと場違いにも思う。
タギを殺しよった、と、おばばが叫んでいた。
非現実的な言葉が、あたまに入ってこない。それをまず理解して動いたのはリップだった。あとさきもクソもなく、指揮官らしき男にむかって、ためらいなく熟練の矢をはなっていた。しかし、のどをつらぬいたはずの一矢は、わずかにまげた男の首を裂いて飛びさった。
ふきでた血をおさえながら男がいう。
「いい腕です。大帝ほどではありませんが、私も寛大なほうですから、まだ一人前の狩人ではないとみなして、選択の機会をあたえましょう。私のもとで働きなさい。そうすれば命だけは助かります」
その返答は俺の放った矢だ。盾をかまえた兵士たちに弾かれてしまうが、つぎの矢をかまえて男にねらいをさだめる。
「選択だと? だれが親の仇のために働くものか」
「なるほど、そうですね。私はどうも人の心がわからないようです」
「なぜ、こんなことをする」
「森は悪の温床だからです。罪人や異教徒、逃亡人のはびこる森は焼きはらう。それが万民に求められるもの。私は審問官のアリ。皇帝の命をうけ、森を焼きはらい、闇をはらい、農地とするのです」
と、いうことにしておきましょう。笑いながらそう言うと、犬を連れてきなさいと続けた。兵士たちに囲まれたまま待つ俺たちの前にあらわれたのは、まさに犬のように四つんばいの人間だった。ぼろぼろの服に首輪、やせこけた顔に、目だけが異様に大きくみえている。ひどく風貌が変わっていたが、その男には見覚えがあった。




