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第114話 包囲


 さけられない戦闘をまえに、息を殺すようにしている両部隊と、逆に興奮して息をあらくしているキメラたち。それらすべてに興味もないのか、身動きもせず、無表情に玉座に腰かける幼帝。双子のように玉座の両脇に立つ二人のアリ、そして、ただ一人、愉快そうに笑っているまた別のアリが俺たちのまえにいる。


「お待ちしておりました」


 王女にむかって、壇上から慇懃いんぎんにあたまをさげ、乾いた笑い声をあげた。


「あまりにもあっさりと罠にはまるので、こちらがだまされているのではないかと不安になりましたよ。亡国の王女とその取り巻きのみなさま、なんと愚かで、なんと素直であることか。いまから、あなた方を殲滅せんめつしなければならないとは」


「降伏すると言っても……?」


 俺の言葉に、アリだけでなく、自分たちの仲間たちさえ首を振った。それは無理なことなのだ。目覚めた人々も、王女も、そのまま降伏をうけいれるには危険すぎるのだから。


「それは受け入れられませんね。これは通常の戦争とは異なる。大魔法使いの弟子たちを殲滅せんめつし、〈門〉をひらくのに邪魔が入らないようにするためのもの。そのために、わざわざ帝都への侵入を許したのですから」


「俺たちが来ると分かっていたのか」


「それはもう」


「じゃあ……」


「反乱も予想していますよ。帝都一帯には、粛清の嵐が吹きあれるでしょう」


「本当は、事前に防ぐことだってできたんじゃないのか」


「もちろんです。でも、そんなことをしたら、警戒して、帝都へ来てくれないでしょう?」


「帝国軍や帝都の住民にも、すくなからず被害があるだろうに」


「ふん、そんなことはどうでもいい。〈門〉をひらけさえすれば、それでいいのです」


「そう思惑どおりに行くかな。もしかしたら、ここで殲滅せんめつされるのは、そちらかもしれないぜ」


 剣を持つ者をまえに、中心には王女とウーシスたち魔法使いを置いて、じりじりと円をつくっていく。降伏しても助からず、戦ってもまず助からない。しかし、窮鼠きゅうそ猫を噛むことだってあるんだ。


「無駄なことですよ。これだけの兵士とキメラをまえに、あなた方に勝ち目はない。たとえ古代の剣士、魔法使いであろうと、亡国の王女であろうと、人狼ルーガルーであろうと」


「それは、やってみないとわからない」


 そう言いながら、手に馴染なじんだ感のある〈餓狼がろう〉を握りしめた。本来の使い方ではないと言われたけれど、それでも魔剣の名に恥じない力が流れ込んでくる。

 ウーシスが〈魔女の鉄槌〉を床に突き立てるようにし、オルフェが〈慈悲の剣〉を構えた。身体能力を底上げし、精神力を強化するいくつもの魔法を発動してもいるはずだ。


 無敵とは言えずとも、そう簡単にやられはしまい。しかし、また、そう簡単に勝てるわけもない。いつかのように覚悟を決めた。

 こういった場合にどうするかは、オルフェとウーシスには頼んであるのだ。すなわち最後に優先すべきは王女の身の安全だと。


 ひろい空間だとしても、こんな地下では王女の魔法もこじんまりとしたものにならざるを得ない。それも考えて、地下での待ち伏せだったのだろうが、この広間の包囲さえ破り、いままさに始まっているであろう帝都での反乱、その混乱にまぎれれば逃げおおせることも可能なのではないか。地上にでれば、派手な魔法を使うこともできる。


 魔剣の力が体中にいきわたったことを確認しながら、黒いナイフをしっかりと構えた。それと対峙するように、アリが片手を持ちあげ、あわれみをこめて言う。


「私も災難でしたが、あなたも災難でしたね。あの女に、宝石と銀貨と呪いと王女をぎとらされたがゆえに。ざんねんながら、あなたがどれだけ暴れようと、その身を犠牲にしようと、あなた方がここを抜けだすことは絶対にない。無理な理由があるのです。

 しかし、そうはいっても無抵抗に殺されようなどと、そんな救世主メシアのような行為は凡人にできるものではない」


 あなた方の死に祝福あれ。


 との言葉と同時にアリの腕が振りおろされた。それを合図に、地下墓地カタコンベへつながる扉が閉ざされ、俺たちを囲む兵士たちのあいだにときの声があがった。


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