第113話 歓迎
ねっとりとした腐臭が鼻をつく。
まともな生き物には耐えがたいような匂いがあたりに充満していた。屍肉あさりはおろか、ウジやネズミも裸足で逃げだすにちがいない。あふれだしたのは、とろりと密度のある酸鼻な匂いだ。
と、大魔法使いさまの言葉を思いだす。
地下墓地も警戒されているのではないかと思ったが、不気味なほど何もなく、誰もいなかった。待ち受けていたのは、物言わぬ遺骨ばかりだ。
魔力の痕跡をたどり、ウーシスが案内していく先は、同行してくれている〈四つ足〉のメンバーに言わせると、皇帝の居城につながる通路であるらしい。危急のさいには、脱出路として使われるものだそうだ。
大魔法使いさまのときとは違い、地下へ潜っていくのではなく、地上へあがっていくのも、それを裏付けていた。
どうやら、キメラの母体は地下墓地そのものではなく、ほど近い居城内に移されているらしい。ある程度の距離なら、魔力の供給も可能ということなのだろう。
脱出路と居城の地下とは巨大な鉄の扉で隔てられており、内側からしか開かないようになっていた。さきへ進むには、それを強引に破るしかなく、ひそかに侵入することなどできそうもない。反乱のどさくさに紛れて居城へ侵入するため、地下墓地で、そのときを待つこととした。
しかし、その無警戒さは、それ自体が罠であり、こちらの意図とは関係なく、準備が整うまえに城内へ誘い込まれてしまうこととなる。
最初に気付いたのはウーシス、つぎに俺だった。ウーシスは魔力探知により、俺は、狩人なり渉猟者としての感覚、そして不吉な空気にまじる死の匂いによる。屍肉あさりだったことは身体に刻み込まれているらしい。うれしくもないが、そのおかげで何度も死地を逃れてきたのも確かだ。
地下深くから、水が満ちるように這い寄ってきたのは凶暴なキメラの群れ。
大魔法使いさまによって、島へ押し寄せてきたキメラは殺し尽くされた。けれど、地下迷宮に押し込められた半人半牛の化物よろしく、地下墓地の奥深くには、数えきれないほどのキメラが蠢いていたのだ。
おそらく、帝国は、あるいはアリは、最初からこうするつもりで俺たちを罠にはめたのだろう。逃げ場のない地下墓地で……。扉を破って城内へ逃げ込んだところで、そこにも敵が待ち受けているに違いない。
選択肢などない俺たちのために、親切にも、地下墓地と城の地下とをさえぎる扉が内側からひらいた。そこは戦時には備蓄庫として使われる広間で、案の定、大勢の兵士とキメラとが俺たちを待っていた。
数段高くなった場所では、幼帝らしき少年が仮の玉座に腰掛けており、それを囲むように三人のアリ、さらに背後には、大魔法使いさまが〈窒息するように蠢く肉の塊〉と称したアリの母体が鎮座していた。
帝都での反乱はまだ起きず、あるいはすでに鎮圧されたのかもしれない。そう思わされるほどには準備万端だ。
突きあげるように寄せてくるキメラの群れに追い込まれ、俺たちは広間に入らざるを得なかった。網にかかった魚の気分である。
選りすぐりの部隊とはいえ、こちらは数十人しかおらず、まともに戦って勝てるわけもない。それをよく分かっているのだろう。ゆったりとした足取りで、一人のアリが幼帝のそばを離れ、壇上からこちらを見下ろす。
「ようこそ、帝都へ」




