第112話 再起
ウーシスの話を聞き終え、心なしか、警戒をといた様子のゲドウから、今日のところは休むがいいと天幕をあてがわれた。逃げるか、戦うか、明日までに決めておけという。
〈四つ足〉は、帝国に復讐を果たすためにゲドウが立ちあげた組織であり、罪人や賊、逃亡者、異教徒、はては化け物に魔女といった森の住民だけでなく、帝都の奴隷たち、東方の被征服民らとも手を組んでいる。帝国は強力な軍隊を有しているものの、島への遠征や連合軍への対応により、消耗、分散されていて、すでに東方でも散発的な反乱が起きており、この機に乗じて帝都で蜂起するつもりらしい。
その夜、俺たち同様、軍船へ戻れずに森へ逃げ込んできた敗走兵と合流し、いくらかは軍隊らしさを取り戻せた。部族を率いるハインラの姿もあり、彼女が言うには、奇襲による死者はそこまで多くなく、帝国軍は多数の捕虜を抱えて動きを鈍らせているらしい。
ゲドウに言われるまでもなく、辺境伯も交えて方針を議論することとしたが、すでに王女の気持ちは決まっていた。
アーの遺言に応えるため、アリとクレカ・スーを倒すという。元々、そのために王女になったようなものであり、当然といえば当然のことだった。ゲドウの話を聞いて、その意志を強めたようでもある。
辺境伯は、敗走兵をまとめながら北回りで森を抜け、後続の軍船と合流して帝国の目をひきつける役目をひきうけてくれた。もはや正攻法で帝国を打倒するだけの兵力は残っておらず、ディーガ辺境伯は、せいぜい引っかき回してやりますよ、とニヤリと笑っていた。
減ってしまった俺たちの部隊も、さらに人数をしぼり、魔法か剣か、いずれかに秀でたものを残し、あとの者は辺境伯に託した。
俺たちの目標は帝都の足もとにひろがる地下墓地である。〈四つ足〉の目指すものと俺たちの目指すものは根本的に異なるが、重なるところも多い。
大魔法使いさまの話では、アリが母体の核を持ちだしたようであり、母体は別の場所に隠されているのではないかと思わないでもなかったが、ウーシスがそれはありえないと断言した。魔術には燃料が必要であり、何万体もの遺骨を容易く移せるものではないと。
あとは地下墓地への侵入をどうするか。これについては、大枠はウーシスが眠りのなかで学んでおり、もうひとり、ハインラも知っていた。奴隷だったころ、彼女は帝都にいたことがあり、先代皇帝の崩御の際に起きた反乱にも関わっていたらしい。
連合軍による遠征は失敗に終わったが、まだ希望は次へとつながっている。
翌日、俺たちは辺境伯とわかれ、〈四つ足〉のメンバーらとともに深い森を抜け、迂回しながら帝都へむかった。
そのころ、帝国軍は西方の連合軍の掃討、東方の反乱に対処するのに忙しく、前線から遠い帝都周辺を警戒する余裕はなかったのだろう。まして、森の奥で起きていることに気付くのは難しかったに違いない。妨害をうけることもなく、俺たちは帝都の地下へ侵入した。
同時に、ハインラたちの部隊とゲドウ率いる〈四つ足〉とが帝都に住む奴隷たちと合流し、反乱を起こす手筈になっていた。
刻一刻と蜂起のときが近付く。
拍子抜けするほど容易に物事が進んでいくことに不安を感じるが、予定どおり、地下水路をたどって地下墓地へ向かう。閉じられた扉をひらいたさきに、無数の遺骨に覆われた異界が広がっていた。




