第11話 太陽の肉
ぴん、と、ひたいをはじかれた。
目のまえに、あきれたような照れたようなリップの顔だ。
「おい、なんか誤解してるだろ。バカ、そういうことじゃねぇよ」
「そういうことって?」
返事がわりに、いいから聞け、と、ほおをつねられた。
「おまえ、あたしの両親が屍肉あさりに殺されたのは知ってるだろ?」
「ああ、うわさ程度は」
「ほんとうは殺されたわけじゃない。ただ、助けてくれなかっただけさ」
「そうだろうな。俺たちは見送りと言っていった。いまもそうだろう」
「殺されたんじゃないって知ってたのか」
「ああ。死ぬまで待つのが屍肉あさりのやり方だ。殺さないかわりに助けない。たすけたばっかりに何もえられず、かえって自分が殺されることもある。だから待つ」
「死ぬまでか? けっ、クソみたいな理屈だな。あいつら、死んだヘビみたいな目で、じっとこっちをみてたよ。たすけをもとめる声もすがたも、なにも感じてないみたいだった。される側にしたら、殺されるより恨みが深いぜ」
どさっと寝床に身をあずけてあおむけになる。リップの片手が空へのばされていく。みえない月をつかもうとするかのように。すこしの沈黙のあと、口をひらいた。
「わかってるんだ。屍肉あさりと、ひとくくりにしちゃダメだって。おまえは、わるいやつじゃない。うけいれるには何年もかかったけどな。きょうのことも感謝してる」
だからって、なれなれしくすんなよ、とクギをさしながら手をおろし、背をむけた。
「タギは、あたしたちが一緒になってくれたらいいっておもってるみたいだな。ペア決めだって、ただのくじびきじゃない。やらせだよ。もともと決まってるんだ」
言い終わると、あたりには森の静寂がひろがった。言葉のない世界に、虫や草や獣の声がまじりあっている。
無言の時間がつづく。
しかし、リップは、もしかすると……。いや、俺に選択をあずけたのかもしれなかった。まよいを断ちきるにはサイをなげてしまうことだ。恩のあるタギの望みが、たとえ自分たちのそれと違っていたとしても、そうすることが報いることであるならば。さきほどの俺のように寝たふりをしているにちがいない彼女の背中に、そっと手をのばした。うすい背中は、あたたかく、そして、ふるえていた。
身を起こして、レナのことをおもった。……きっとこの子をまもってくれる。数多の犠牲をはらってでも……あの言葉は、いまではもう俺のなかに根をはって、おおきく枝葉をしげらせていた。それがどんな思いをすって育ったのか、自分でもわからないままに。
背をむけていたリップが身動ぎし、闇夜を透かしてこちらをみているのがわかる。その目を見返してしまえば、きっともう戻れない。たがいにそう知りながら、目をそらさずにみつめあった。
俺の目をうつす彼女の目は、きらきらとかがやき、それはまるで昼間には明るく、夜には暗く、さらによくみると、星々のうかぶ空、そこに世界がとじこめられているかのよう。宝石とは、太陽の肉であり、神の目であるという。もしかしたら……。
とりとめのないことを思いながら、どちらからともなく顔を近づけていき、くちびるがふれるかふれないかというとき。
リップの目が、手のひらからこぼれおちるようにしてあらぬほうをむいた。ひとみのなかで、ちらちらと炎がゆれる。




