第10話 墓参
遠くの怒号に思考を断ちきられた。
むかったさきで、自分の嗅覚が健在だったことをしった。逃亡兵か傭兵くずれか、いまでは人狩りに身をもちくずした連中が、そこらに転がっていた。その死体をたどっていくと、服をぬぎかけていたり、股間を勃起させたままたおれている男たちにつながっていった。つまり、ルートをはずれた若くて魅惑的な女をみつけて襲いかかり、あえなく返り討ちにあったというわけだ。
リップの気配はあるのに姿がみえない。
はげしく抵抗しながらも、そこは他勢に無勢か、人狩りの連中につかまり、やぶのなかへ引きずりこまれたのかもしれない。だが、やつらがどこに潜んでいるかは、なんとなくわかる。人は森に溶けこむことはできない。
……きわどいところを救いだしたリップは、めずらしく怯えていた。ひきさかれた服、上気したほお、すこし涙目になったすがたに心をゆさぶられる。日が落ちれば寒さを感じるころだ。防寒用の獣皮衣をわたすと、すなおに受けとってくれた。
「……たすかったよ」
ぷいと横をむきながら応じるリップの態度を苦々しくおもいながら、つい責めるような口調になってしまう。
「どうしてルートを外れたんだ?」
「どうしてって、それは……」
目をそらして、すこし考えこむようにしていたが、なにか心を決めたらしい。すそを整えて立ちあがり、ついてこいという。
かなり森のおくへ入ったところだった。
ルートからは完全に外れているし、賊や人狩りどもが使う道に近く、ふだんであれば近寄ることすら許されない。
濃い森のにおいを風がさらっていく。
葉叢がゆれるたび、リップのはおる獣皮衣に光がこぼれおちる。彼女は、胸もとから白い花をとりだすと、すっと風にのせるようにささげた。両親が死んだ場所なのだろう。みせたことのないおだやかな表情は、まるで神話の参加者のようだった。
「なんだよ?」
ふっと目をあけた彼女が、なにかおかしいかと尋ねてきた。
「いや、リップが祈るなんてね」
「あたしだって祈ることくらいある。祈ったことのない人間なんていやしないさ。それより、まさか、みとれてたんじゃないだろうな?」
にやりとしながらいう。すなおに、ああ、と認めてやると、予想外だったのか、顔をあかくして目をそらすのだった。
その日の夜、ずっと黙ったままだったリップが話しかけてきた。かれ草でつくった寝床で横になっていたときのことだ。
「なあ、ジュ、おまえは立派な狩人だ。もう屍肉あさりじゃない」
あたしも大人にならなきゃな。と、身を起こしたらしい。ごそごそと近づいてくる気配、くらく月のない夜に、ケモノと女のにおいが混じり、あたまがくらくらする。なにもみえないのは俺が目をつぶっているからだ。
あまい吐息が、ほおにかかり、そして……。




