第十六話 正義の怪物①
幼いある日、少年は偶々本棚より飛び出していた一冊の絵本を手に取った。それは皆と友達に成りたい心優しい怪物が良かれと思ってやった事が空回りし、最後は居場所が無くなり入水自殺を遂げるという悲しいストーリー。
その絵本を読み終えた少年は思った、これは自分の物語であると。人より力が強くて、走るのも速くて、大怪我も直ぐに治って、空だって飛べる自分は正しく絵本の中の醜い怪物。
そして同時に恐ろしくも成った。この世界の皆から嫌われて何処にも居場所が無くなり入水自殺を遂げる、そんな未来が自分にも待っているのではないかと考えてしまったのである。
『一人は嫌だ寂しいもん。誰でも良い、誰でも良いから僕の側に居て欲しい』
恐怖に駆られた少年は逃げ道を探す。こんな醜く欠けた自分でもどうにかして幸福と人々の笑顔に溢れた最後を迎える方法は無いかと。
そしてその答えは又しても絵本の中に見つかった。その存在は彼と同じ様に空だって飛べて、トロールの様な怪力だって持っているのに何時も人の輪の中心で笑っている。
少年が憧れた存在の名、それはヒーロー。自分の生まれ持った力で人々を守りその代償として愛を貰う仕事。
沢山調べたが怪物の選べる道はヒーローと成って人々を守る、若しくは悪者として倒されるの二つしかないらしい。
少年はどうしてもヒーローに成りたかった。だがヒーローの席は限られていて、何より少年は臆病で人の心が分からなかったのである。
だから作ったのだ、社会の為に自らを犠牲にし正義のみに従う皆の理想をそのまま書き写した偽りのヒーローとしての人格を。そして只管人々が望むまま敵を倒し、決められた定型文のみを喋る事で人々と心で繋がる事を避けた。誰かを悪にして、偽りと暴力によって自らの居場所を作ったのである。
その日から始まったのだ、非難や敵意に怯え化けの皮が剥がれる事に震えながら生きる毎日が。




