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ファニーエイプ  作者: NEOki
第一章
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第十五話 闇医者


「しッ、師匠!! おいニカッ、これ一体どういう状況だ!」


『分かんない、でも結構頭に攻撃を受けてたからそれが原因じゃないかな? それか出血し過ぎたのか、内臓が傷付いたからか………ついさっきまで話は出来たんだけど脱出に成功した途端に気絶しちゃってッ』


 入っていたパワードスーツ内のコンピューターが壊れ携帯に移った来たニカが震えながら言う。

 フートが一も二も無く駆け寄ったディックの身体は至る所がおかしな方向へと曲がり、血の混じった泡を吹き出して気絶していた。一先ず息を確認すると何とか自発呼吸は確認できた、しかしかなり細く成っている。そして次は手を握ってみたが全く力を感じられない。


「クソッ、とりあえず俺達じゃどうしようも無い。救急車は呼んだか?」


「確かママがッ………」


キキキキィィィッ!!


 フートが救急車の手配をニカに確認した所で突如背後からアスファルトを巨大な鉤爪で引き裂く様な音がする。驚いてフートが振り向くと其処には巨大な怪物が如き大きさのバンが停車していた。

 師匠が死にかけているというパニックに更に想定外の出来事が重なり、フートの脳味噌は処理落ちして固まってしまう。

 するとそんな彼の前で勢いよく車の扉が開き、その中から坊主頭の大男とたばこ臭いジャージにサングラスとビーチサンダルという風体の男が出てきた。どちらも何処ぞのチンピラかと思う様な姿である。


「ああ………テレビで見てたが今日は一段と酷いな。へッ、滑落死体みてえだ。おいジュウベイ、さっさとコイツ運べ」


「へいッ」


 気絶するディックに小男が近づき、瞼をこじ開けてペンライトの光を当てた後に何が可笑しいのか欠片も理解出来ないが半笑いで言った。そして彼の言葉に従い、ジュウベイと呼ばれた大男がディックを抱え上げようとする。


「ちょッ、ちょっと待てよ! 誰だてめえら、汚え手で師匠に触るんじゃねえよ!!」


 しかし其処で我に返ったフートが慌てて大男の腕を掴んだ。何が今目の前で起っているのかは分からない、だが少なくともディックをこの訳の分からない二人組に渡す訳にはいかないという事だけは確かだと思った。

 大男は突然自分を掴んできた手とフートの顔を交互に見た後困った顔をする。そして面倒そうに頭を掻きながら後の小男に判断を仰いだ。


「どうしようゴンベイさん………この人僕がさっきトイレで手を洗わなかった事怒ってるよ。謝った方が良いかな?」


「そういう汚え手じゃねえよ木偶の坊がッ!! 良いからさっさと連れてけ、死なれたら報酬貰えねえだろ。後車乗ったら直ぐ手え洗えよ」


「へい」


 指示を受けた大男は急に俊敏に動き、掴まれていない方の腕でフートの胸をトンッと突いた。すると棒立ち腕だけの突きだったにも関わらず凄まじい力で身体が浮き上がり、2メートル以上も吹飛ばされてしまう。

 そして力業で障害を排除した大男は打って変わりディックの身体を薄絹でも扱うかの様に抱え上げ、そして車に向い歩き出した。


「痛ってぇ……!? おいッ、ちょっと待てよ!!」


 アスファルトの上を転がされ呻き声を漏らしたフートであったが、直ぐに起き上がって大男の腰に飛び付いた。しかし大男の身体が発する馬力は人間の物とは思えず、足に幾ら力を入れても歩みを遅くする事さえ出来ない。


「ああ……あのさあ、君なんか勘違いしてない? 俺達は医者で、このオッサン助ける為に態々此処まで出向いて来たんだけど?」


 腰に抱きついたまま引き摺られるフートに小男が話し掛けてきた。まさか現実にこれ程の男が存在するのかと驚いてしまう程の胡散臭さである。


「はあ? ふざけんのも大概にしろよ、何処の世界にジャージグラサンビーサンの医者が居るってんだよ。信用出来るかッ」


「信用も何も俺達は呼ばれたから此処に居るんだよ。じゃなきゃ誰がこんな汚いオッサンなんか態々助けに来るかッ」


「呼ばれたって、誰がてめえらみたいなチンピラをッ……」


「私が呼んだのよ」


 男達の野太い怒声が飛び交う中に一際よく通る女性の声が入ってきた。その聞き覚えのある声が来た方向へとフートが顔を向けると、其処には車椅子に乗って外に出て来たミコさんの姿が。

 そしてフートは彼女の口からこの妙ちきりんな二人組の正体を聞かされる事と成った。


 この二人組はどうやら所謂闇医者と呼ばれるものを営んでいるそうだ。現在のディックの様な明らかに異常な大怪我を負った患者が普通の病院に運び込まれれば間違い無く警察を呼ばれる、其処で金で口止めが効く闇医者に頼ったらしい。そして当然闇医者を営む事は違法なので、カモフラージュとしてチンピラの様な恰好をしている様だ。

 そう説明を受けた後に見てみると、バンの中は素人目には普通の救急車と見分けが付かない位装備が整っていた。心電図やストレッチャー、AEDに輸血用のポンプまで見受けられる。どうやら本当に医者として来てくれたらしい。


 フートはその事を理解すると直ぐに手を離し、二人に謝罪しようとした。しかし二人はまるで彼が見えていないかの様にノーストップでテキパキと作業を続けディックをバンの中へ運び応急処置を施す。そして車が発進し嵐の如く過ぎ去っていった。

 あれ程大きかったバンが直ぐ夜闇に溶けて消えてしまう。残された彼ら家族に許されたのは唯ディックが無事に帰って来る事を祈る事のみであった。

  


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