第六話 プロフェッサーディックの秘密②
ピンポオォォンッ
「うおおおおおおおおおお!! …グゲェッ!!」
エレベーターが下の階に到達した事を知らせるチャイムが鳴った途端、フートはまるで目の前に人参をぶら下げられた馬の如く奇声を上げながら掛け出した。
しかしその直後彼の口からカエルが轢き潰された様な声が飛び出し、上半身が仰け反る。
「ちょっと待てぇッ!!」
扉が開いたのと同時に飛び出していこうとしたフートの襟足をギリギリでディックが掴んだのだ。彼も同じ穴の狢だから分かるのである、この男に発明品を触らせれば24時間など余裕で潰れるという事を。
しかし襟足を掴まれ首が絞まってもフートは前に行こうとする力を緩める事無く、依然とんでもない力を足に込め続けている。そこでディックは慌ててこう言った。
「ワシの発明品を見て涎垂らしてくれるんは嬉しいが、今は後回しやッ。もっと凄いもん見せたるから今は我慢せい!」
「もっと凄いもん!?」
自分の都合が良い箇所だけ切り取ってフートが反応する。そして依然足に力は込められたままではあるが、僅かに意識が後方に立つディックへと向く。
「そうや、此処にあるどんな物よりもビッグなサプライズ! 間違いなくお前の人生観に大きな影響を与えると約束するわ。この機を逃せば2度とお目に掛かれん代物、どうや見たいやろ?」
「見たいです!!」
「そうやろ、なら足踏みやめろ! 一端落ち着かんかいッ!!」
フートはまるで梅干しの様に顔を顰め、頭に反旗を翻してして今すぐ周囲の宝物達へ飛び掛かろうとする身体を何とか鎮める。そして全身をワナワナと震わせながら言った。
「分かりました、なら一刻も早く連れて行って下さい。オレがオレを抑えられる間にッ、早くゥゥッ!!」
「此処まで一直線な馬鹿やと最早清々しいな……。ほな、ちょっと急ぐか」
ディックは若干歩調を速めて歩き始める。フートは周囲360度を取り囲み自らを誘惑してくる宝物達に後ろ髪を引かれながらもそれに付いていく。
「この場所まで来るのに結構降りましたよね。なんでこんな馬鹿デカい建物を地下に作ったんですか?」
首を一瞬たりとも落ち着かせず左右へブンブン振りながらフートが言った。
「逆に此れだけデカい建物地上に作れる訳無いやん。其れに一応この国危険物の取り扱い厳しいから、此処のもん見られたら何回消防法と銃刀法違反でしょっ引かれるか分かったもんやない。後はご近所さんとの騒音問題とか、ティナが勝手に触らないようにとか色々やな」
「でもこれ並の額じゃ作れないですよね。このスペースを作るだけでも一生働いたって無理そうだ」
「会社売り払って金作った。ワシこう見えても昔は大企業の社長やったんやで。一晩で一生掛かっても使い切れん額稼いだ事もあるし、一時期は長者番付にも載っとった。どうや、凄いやろ?」
「今の方が凄いです」
フートは周囲の発明品達にすっかり頬を緩めた表情のまま、まるで明日の天気でも伝える様なテンションで言った。
「…フッ、ああワシも同意や!」
フートの言葉にディックは僅かに口角の上がった顔で応じる。
そしていつの間にか二人が歩き始めてから十五分が経過しようとしていた。エレベターで降りてきた時もその広さに驚愕したが、実際の広さは想像を更に二回り超えてくる。更にディックの言うある物も余程奥まった場所にある様だった。
しかしその時間を長いとは感じない。見る物も話題も絶える事無く、常に会話のキャッチボールを繰り返していたので体感的には五分にも満たないだろう。寧ろもう少し歩いていたいと思った程だ。
そして辿り着いた先で待っていたのはステンレスの扉。周囲を取り囲む金の塊が如きマシン達に比べて明らかに安っぽい扉であった。
この向こう側に、プロフェッサーディックの秘密が隠されているのだ。
今日もお読みいただきありがとうございます。
昨日投稿するのを忘れていたので今日は三本投稿です。一時間後と二時間後に予約投稿しているのでよろしかったら見に来て頂けると嬉しいです。
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