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ファニーエイプ  作者: NEOki
第一章
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第六話 プロフェッサーディックの秘密①

 フートは当然直ぐにディックの後を追おうとしたが、其処でまだ胸に重みが残っていた事に気が付く。

 流石にこのまま連れては行けないのでティナを優しく剥がそうとするが、吸盤でも付いているのではという力で抵抗されびくともしない。だが強引に引き剥がして怪我させる訳にもいかず、如何した物かと戸惑っているとミコさんが近づいて来てティナの脇をくすぐる。すると女の子にしては多少下品なダヒャヒャッという声を上げてティナがストンと彼女の膝の上へ落ちた。


「この子は元々人懐っこいのだけど、フート君は特別みたい。きっとお兄ちゃんと重ねているのね」


 膝の上に落ちても再び身体を登ってこようとするティナを抱き上げながらミコさんが言った。余りにも唐突にそう言われて、フートは理解するのに数秒掛かる。


「…重ねてるって、オレをティナちゃんのお兄ちゃんにって事ですか?」


 その発言にミコさんは小さく頷く。

 フートは更に質問を続けようとしたが、辞めた。瞼の隙間にこの世のどんな絵の具よりも鮮やかな色で描かれた美の結晶を穢してしまう事を恐れたからだ。

 少女が無邪気な笑みを浮かべ力の限りに腕の中で暴れている。それは自らを抱きしめてくれている存在への絶対的な信頼、何があっても自らを愛してくれるという確信を根源とする行動。

 ディックは血の繋がりがないと言っていたが、其処には間違いなく僅かな曇りすら無い母子の愛慕が存在していた。


「くちゃい所が兄ちゃんソックリ!!」


 ティナがミコさんの腕の中で元気に言った。フートは喜べばいいのか悲しめばいいのか分からず、取り敢えず無言で笑顔を返す。


「フフッ、引き留めてしまってごめんなさいね。この小さな暴れん坊は私が捕まえておくからレイトさんの後を追いなさい。お昼ご飯まだ食べてないんでしょ? 腕によりを掛けて作るから食べていってちょうだい」


「あ、はい……迷惑掛けて済みません」


 ミコさんの声に何かモヤモヤを感じた、ティナの声にも。フートはこの感情を上手く言語化する事が出来ない、そしてこの瞬間の正しい反応も分からなかった。

 もっと正しい反応、ミコさんの望んでいた反応が別にあった気がする。少なくとも済みませんでは無かった気がするのだ。だが同時に自分では幾ら考えた所で分かりようが無いという確信もあり、思考を打ち切り足を動かす事にする。

 

「遅いで。全く最近の若者は気が抜けとるな~、そんなんやと広い社会に出てから置いてかれるで」


「はい、狭い家で助かりました」


「お前ッ」


 フートがディックの背中が消えていった方へ向かうと、階段下の戸棚の所で彼は待っていた。そして嫌味を言ったところまさかのカウンターを貰い、目を白黒させながら言葉に詰まる。


「所でこれですか、オレが弟子入りを認めて貰う為に見なくちゃいけない物って」


「……いいや違う、全ッ然違うで!! お前今言った言葉一言一句覚えとけや、メモしとけメモ! ワシのマイホームを小さいだの狭いだの凄くないだの言った事を後悔させたる」


 フートの思わぬ反撃に一瞬固まったディックであったが、その後の言葉を受けて何故か急に勝ち誇った様な表情になる。そして彼は勢いよく戸棚を開けた。

 戸棚の中は何も変わった点が見受けられない掃除用具入れ。しかし中の物を全て退け、仕切りになっていた木の板を外すとその下から丸いあなが出てくる。更にそのあなへ指を掛け引っ張ると、戸棚の奥に当る部分の板が外れ銀色の扉と下矢印型のボタンが現われた。


「エレベーター、ですか?」


「そうや。今から予言しとくで、フートお前は今から数分後驚きの余り腰を抜かし数々の無礼をワシに平謝りする事になる」


 そう言ってディックがボタンを押すと扉が開き中の様子が明らかになる。エレベーターの内部は全面ガラス張りになっており、内側から外の様子が見える構造に成っていた。だが肝心の周囲は全て趣も何も無いコンクリート打ちっぱなしの壁に覆われており薄暗い。

 しかしエレベーターが動き出した数秒後、フートの心臓は突如跳ね上げられる事となった。


「すッ、凄えェェェェェェッ!!」


 コンクリートの分厚い層を降りていったその先で途轍もなく広い空間に出た。そして目に飛び込んで来たのはとてもこの世の物とは思えぬ光景、プロフェッサーディックのイカれた発明品がその広大な空間に所狭しと並んでいたのである。

 先ず目に留まったのは全長四十メートルは優に超える巨大ロボット。そしてその横には銀色のウイングを纏うまるで地球儀の様な形状の球体が音も無く浮遊している。更にその横には馬鹿みたいに銃火器を取り付けられた大型バイク、ロケット付きの二つの輪と接合された巨大な樽が並んでいた。


 どれ一つとっても一日中眺めても眺め足りぬ魅力を放つ至宝の数々。そして其れを前にしてニヤけが止まらない自分はやはり純粋に発明が好きなのだと分かり嬉しくなった。

 自分も何時かこんな物を作りたい、いやッ作るのだという思いが溢れてフートは拳をギュッと握る。


「フフン、そうや凄いやろ。ワシの基地は凄いやろ!! さあ先程の発言に関し、て………………まあ、ええか」


 ディックはエレベータの前で言った通りフートに先程の発言を謝罪させようとしたが辞めた。

 目を見て分かったのだ、今自分がこの青年に何を言った所で声が耳に届くことは無いと。そして自分の丹精込めて作った発明品達を前にしてこれ程目を輝かせ、涎を垂らし、心臓の高鳴りが収まらんという反応を示してくれた事が唯嬉しかったのである。

 思い返してみれば初めてだったかも知れない、今まで散々人々に罵倒されてきた発明品をこれ程純粋に凄いと言って貰えた事は。見返りは求めないと決めていた筈なのに、たとえ年下の子供からであっても認められたのが嬉しかったのだ。


今回もお読みいただきありがとうございます。

小説は書けば書くほど筆が早く成っていくものだと私は思っていたのですが、最近むしろ一話上げるのに掛かる時間が増えて来ている事に気が付きました。凝るのも良いですけど、ある程度は割り切りが出来なきゃダメですよね。


感想やアドバイスをお待ちしています。ダメ出しででも大歓迎ですので、お気軽に送って頂けると嬉しいです。

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