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ファニーエイプ  作者: NEOki
第二章
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第十六話 中心の椅子②

 屋上を冷たい夜風が吹き抜けていく。

 フートはもう次動けば勝敗が決するまで止まる事は出来ないと悟り、幾度も死の横を擦り抜けて昂ぶり熱く成った自らの頭に冷静さを取り戻させる。そして集中力を再度研ぎ澄まし、完全な臨戦態勢に入った上でバルハルトへと話し掛けた。


「おいおい№2ヒーロー、随分と静かに成ったじゃねえか。さっきまでの威勢は何処へ行ったんだ? もしかしてあの馬鹿みたいなエネルギー兵器を連発し過ぎてガス欠が心配とか言わねえよなァ!」


 それはフートが先程数多の攻撃を掻い潜る中で描き出した勝利への道筋。奴の放って来る攻撃はどれも必殺級で、掠っただけでも命に関わりかねない威力が一発一発に込められている上射程も連射速度も常識外れだ。

 だがしかしそんな攻撃が無限に撃てて良い訳が無い。あの様なエネルギーを何に乗せるという訳でも無く唯そのまま塊としてぶつけるだけの燃費が悪い攻撃、躱し続ければ何時か必ず限界がくる筈。そしてその時こそ自分に本当のチャンスが回ってくる筈なのだ。


 そしてそれを裏付ける様にフートが放った言葉に対してバルハルトは無言のまま立ち尽くしている。だがもう心が折れ負けを認めるかと思ったその時、バルハルトの口から何かボソリとした声が零れた。


「………度し難いな」


「なんだ、良く聞こえねえな? 命乞いなら聞こえる様大きな声で言ってくれねえか??」


「フッ、唯幸せそうで何よりと言っただけだ。井の中の蛙大海を知らずとは言うが考えてみれば其れほど恵まれた生は無いな。常識に、正論に、自分の中の当たり前に世界の方が従ってくれると思っている訳だ」


 バルハルトは口の中に皮肉な笑いを含み、そして同時に怒りの色を醸しながらそう言った。


「心配させてしまったのなら申し分け無い。ならば今ッそのちっぽけで甘えに塗れた世界観を破壊し、貴様にも絶望を与えてやろうッ!!」



キュィィィィッ バジッバジュンッ、ドゥオオオンゴロ”ロ”ロ”ロ”ロ”ッ!!!!



 その声の後を引き継ぐようにバルハルトのパワードスーツがさながら目前に落雷が降ってきたかの如き轟音と衝撃波と共に変形。蛇腹状のパーツ一つ一つがスライドし生まれた隙間から蒼光を放つ下部機構が覗き、周囲の大気を振動させる程のエネルギーが放出され始める。

 それはフートの期待していたエネルギー切れ目前の姿とは程遠く、一体何が有ればこれをゼロに出来るのかという唯向かい合っているだけで押し潰されてしまいそうな程のエネルギーが奴の中で渦巻いていた。しかしそれを前にした絶望を腹の中へ押し殺し、フートは無理矢理意地で笑顔を浮かべてみせる。


「み、見た目が多少派手で騒がしく成ったくらい何だってんだ。そんなのヤンキーが改造した車と変わらなッ………」


ドオゥオ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”ンッ!!!!!!


 まるでその反応を分かっていたかの様にバルハルトが放った攻撃は、フートの減らず口を強制的に閉じさせる。それはこれまで彼が肉眼で見てきた如何なる攻撃をも一瞬で霞ませてしまった巨大なプラズマ砲の光。その閃光は遙か上空まで一直線に貫き、彼らの頭上を覆ってた巨大な雲を跡形も無く四散させてしまった。

 しかも、その平気で巨大なビル一つを焼き払ってしまえそうな一撃を放った直後でも奴の身体に纏う蒼雷には僅かすら陰りが見えない。そのまるで悪夢でも見ているかの如き二つの現実を前に、フートは言葉を失ったのである。

 何という理不尽、何という不平等、何という非常識。


「……さあ、どうする? 一つ命乞いでもしてみるか?」


ヒュオンッ


 バルハルトのまるで雲の上から天啓でも投げかけているかの如き声に返答する代わりに、フートは瞬間移動で彼の背後を取る。それは先程この攻撃が有効だったのだから次もそうだろうという殆ど無策と言って差し支えない、気後れしかけた自らに対する焦りに突き動かされた行動。


ドオオオンッ!!


 だがそうしてブランクディガ-を使いバルハルトの背後へ出た直後、巨大な鼓が打ち鳴らされた様な重低の破裂音と共に凄まじい衝撃波がフートの身体を包んだ。そしてそのエネルギーは彼の身体を容易に弾き飛ばし、フートは振り上げた拳を届かせる事すら出来ぬままバルハルトの遙か後方に存在していた貯水タンクへと衝突させられる。


「認め難いだろう、お前のその奇妙な瞬間移動も圧倒的な攻撃範囲とパワーの前には無力。だがそれが現実だッ」


「………ッうがあああああああああッ!!」


 余裕が一切崩れないバルハルトとは対象的に、フートはもうヤケクソとしか言い用のない猪突猛進でバルハルトへと再度向かっていく。

 その余りに不用意な行動に対して鋭い反撃を返し咎める事は彼にとって造作も無い事。しかしバルハルトは彼に更なる絶望を与える為、あえて攻撃を身動き一つせず受け止めた。


「あああああああああああああああああッ!!!!」


ズダアンッ!! ドウンッガン! ダンッダンッダァン!! バシュッ、ズダアアアアアンッ!!


 フートは悟ってしまった圧倒的な実力差を脳内から追い出そうと藻掻き苦しむ様に攻撃を放つ。止まる事無く殴打し蹴りを入れ、ハンズクラッパ-のエネルギー弾を至近距離で打ち込み更にはソキッドガスでハンマーを生み出しそれをバルハルトの脳天へと一切の手加減無く振り下ろした。

 だがそこまでしても、目の前の敵は蹌踉めき一つ反応一つしてはくれない。


「クソッ、馬鹿にしやがって!! おいニカ、リミッターを外せェッ!!」


 間違い無く相手に嘗められている。しかしその油断の隙を利用し、両腕を組んだままピクリとすら動かないバルハルトの前でフートは己の放てる最大の一撃の準備を始める。バイオスーツが生み出す事の出来る全エネルギーを両手のハンズクラッパーへと流し集め、それを爆発という形で掌から一気に放出するのだ。

 これは本来個人に対して使う目的で加えた機能ではなく、通常の手段では対応できない戦車等の巨大兵器を破壊する為に生み出した奥の手中の奥の手。それを今バルハルト・マクエロイという個人に向けるのだ。


「死ね、ヒーロォォッ!!!!」


ッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!


 フートはそう叫ぶと同時に掌底を放つが如く両手を突き出し、掌がバルハルトの全身を覆うパワードスーツに触れた途端一気に其処へ蓄えられたエネルギーを爆発へ変換。攻撃を放った側のフートまでもが吹飛ばされてしまう程の反動と共に、敵影は視界一杯を覆う程巨大な爆煙の中へと呑み込まれ消えたのだった。



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