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ファニーエイプ  作者: NEOki
第二章
129/156

第十三話 ファニーエイプ

「フート兄ちゃん! ちょっとちょっとこっち来て、何か凄い事に成ってるよ!!」


「………ん”~?」


 マクエロイコーポレーションでの事件を超えた翌朝、歯ブラシの動きに合わせ痛みを発する身体に呻き声を上げながら歯を磨いていたフートをティナが呼んだ。3年前前に引っ越してきた家での穏やかな早朝の空気に似合わない大声である。


『どれがフートなの?』


「ほら、これフート兄ちゃんじゃない? 昨日の事件の事が書かれてるし」


『ほんとだ。って、何よこの名前』


「凄いや、流石フート兄ちゃんだ。たった一晩でこんなにッ」



「いでで……おーい、どうしたティナ。何か面白い事でもあったのか?」


 昨日の今日でまだ受けたダメージが回復しきっておらず、全身を湿布が覆うミイラ男の様な身体を引き摺ってフートがティナとニカの前へと現われる。そしてその痛みで老人さながらに擦れた声へティナは首だけで振り返り、目前の画面を指差しながら言った。


「フート兄ちゃん。ほらこれ、見てみてッ!!」


「ん? パソコンの画面がどうした…………………ってジュッ、18位ッ!?」


 ティナが見せて来たデスクトップ画面を見たフートは一瞬怪訝そうに目を細めたが、その数秒後彼の口から漏れたのは驚愕の音であった。

 画面に映っていたのはアープマガジン社のホームページで、そこには更新されたばかりの最新ヴィランランキングが掲示されていた。そしてそのページのかなり上位、18位の欄にフートの写真が掲載されていたのである。

 彼は何かの見間違いかと思い自然と2,3度見をしたがやはり自分の写真で間違いない。フートは一晩の内にランキング持ちのヴィラン、しかもいきなり上位ランカーへと上り詰めたのだった。


「え、これマジッ!? 一気に18位かよ、ついにオレが世間に見つかっちまったな!!」


『何こんな低俗な物に乗って喜んでるのよ。それじゃあの自称ヒーロー達と何も変わらないでしょ』


「………ああ、別に嬉しくない、嬉しくないけれどもッ。いや~18位か、オレ様にしては低すぎるなー!!」


『めちゃくちゃ喜んでるじゃない。それよりもほらこれッ、あんた勝手に変な名前付けられてるわよ!!』


「え? 名前?」


 それまで自分の横に付けられた順位のみに目が行っていたフートであったが、ニカのそう言われてそれ以外部分にも目を送る。すると順位の横に書かれたヴィランネームの欄に、『ファニーエイプ』という見慣れぬ名が書かれている事に気付く。


「ファニー、エイプ………?」


『フートあんた自分の名前を名乗るの忘れてたんじゃないの? だからこの会社に勝手にヴィランネーム付けられたのよッ』


「確かに2代目プロフェッサーディックって名乗るの忘れてたな。ええッ、でもファニーエイプって…愉快なお猿さんって意味だろ? 流石に酷くない? 泣いちゃうよオレ」


『アープマガジンは昔からそんな品も格もない雑誌よ、確かパパの名前を付けたのもこの会社だった気がする。まあパパのより良い名前貰えたんだから良かったじゃない。改めて考える何よプロフェッサーディックって………』


「ん? どういう意味なんだプロフェッサーディックって、オレに詳しく教えてくれよニカ」


『ぶっ殺すわよクソセクハラ野郎』


 ニカの本気の殺意が込められた言葉を聞こえないふりしてフートは自らの名前をクリック。すると何とファニーエイプについて書かれた専用のページまで出て来たのである。

 しかし其処に書かれていたのは、素直に喜んで良いのか分からない内容。


『第18位には昨夜のマクエロイコーポレーションでの事件で水星が如く現われ新聞の一面を埋めたこの男がランクイン!! 分かってる、真っ昼間からこんな何の生産性もないサイトを閲覧しているブラザー達ならたった一件の事件のみでこの順位を与えるのは買い被り過ぎだと言ってくれる事は良く分かってる。だがしかし、此処で

我がアープマガジン社はとある情報筋から特大スクープを入手したッ! 詳しくは言えないが内部の人間から入手した情報によると、どうやらこの男実は単独でパワードスーツが隠された装備保管庫の内部へと侵入し盗み出す寸前まで至っていたらしい。しかもその上で予想外に遭遇したドレッドタイガーと戦闘に成り、たった一人でフューリー含む完全武装したメンバーをたった一人で殲滅した。その明らかに下位や中位のヴィランの範疇には収まりようがない戦闘能力とマクエロイコーポレーションの社長であり№2ヒーローのバルハルト・マクエロイに喧嘩を売ることも厭わない命知らずな凶悪姓を顧みてこの順位が妥当であると私は判断した!! しかしこの男突如として現われた為ランクへ乗せるにも名前が無い、そこで我が社伝統のヴィランに対する勝手に命名式を行いその監視カメラに残されていた猿が樹上を自由自在に跳ね回るが如き一風変わった戦闘スタイルから着想を得て名をファニーエイプと名付けさせて頂いた次第ッ。読者諸君にとっても、そして私自身にとっても非常に今後が気に成るヴィランの一人であろう。これからも期待の新人、ファニーエイプの活躍から目が離せないッ!!


P,S  この映像を見て私の脳内にウォールマスターベーターという最高にクールなヴィランネームが真っ先に思い浮かんだが流石に下品過ぎると編集長に止められた。そこで此処にせめて筆跡だけでも残そうと思う。

                         

                         ライター;J,D マクスター』



 記事の一番下には分厚い装備保管庫の壁をブランクディガ-を使って抜けようとするフートの動画が貼り付けられていた。しかし何故かその監視カメラの映像ではそこだけホログラムによる姿の透過が切れていて、壁越えに失敗し圧死する事に対する恐怖から必死に身体を壁に擦り付けている姿が映っている。

 これだけなら別に何ともない映像だ。だがあの下品過ぎるP,Sを見た後ではもうナニしている様にしか見えないではないか。


「最低だな、この会社」


『ええ、最低ね。潰れた方が良いわ』


「そう? ティナはこっちの方でもなんか、ダースベーダ-みたいで格好良いと思うけどな。このウォールマスッ…」


「『ティナ読んじゃいけませんッ!!』」


「ん?」


 クソ企業のせいでティナが危うくとんでもない言葉を発しそうになりフートとニカが慌てて止めた。彼女は穢しては成らぬ聖域なのである、ニカやその他の人間にセクハラするのとは訳が違う。


 酷い、とても成人した人間が考えたとは思えない名前だ。だがこの酷い名前や師匠がつけられたプロフェッサーディックという名前を経て自分が付けられたファニーエイプという名前を見ると案外悪くない様に思えてくるから不思議である。そしてもうこの名前でランキングに載ってしまった以上もう自分はファニーエイプとして世間に認知されてしまう、そうフートは諦める以外無かった。


「はぁ……正直もう少しカッコいい名前にして欲しかったが、こっちの最低な方の名前に成らなかっただけマシか。まあこれで次の作戦にも名のあるヴィランとして泊が付いたしな」


『次の作戦って………あんたもう次の事考え始めてるの?』


 勝手に名付けられた新しい歯の詰め物が如くまだ体に馴染んでいないファニーエイプという名前を一先ず受け入れ、フートがさも当然如く発した言葉にニカは眉間へ皺を寄せる。だが、その彼女の顔に浮かんだ不安その物をフートは何の躊躇いもなく口にしてきた。


「ああッ。昨日までで必要な物は揃った、それにこの街の頂点までの距離も大凡計れた。たった一回の事件で此処まで順位が跳ね上がったんだ、1位の椅子までだってそう遠くない筈だ。だから此処からも段階を踏む気は無い、次の行動で一気にこの街の頂点へ大手を掛ける」


『そ、そんなに急がなくても………時間ならたっぷりッ』


「いいや違うな。オレ達は急ぐべきだ」


 フートはそう言って近くのテーブルに置かれていたリモコンを手に取り、テレビの電源を付けた。そしてその画面に映っていたのは午前のニュース番組、報道されていたのは昨夜フートが解決したと言っても過言ではないドレッドタイガーのマクエロイコーポレーション襲撃事件について。




『昨夜のマクエロイコーポレーション襲撃事件で新たに3名の死亡が確認され、これで今回の一件での死者数は32人と成りました。此処まで被害が巨大化した一因は警察の事件対応の遅さと襲撃予告が出ているにも関わらず業務を続けたマクエロイコーポレーション側の対応の甘さにあると見られており、近年増加の一途を辿る凶悪事件の発生に対して当局は何も有効な策は取れていないというのが現状です。コメンテーターの皆様は如何お考えでしょうか?』


『近年は犯罪件数増加の対策としてヒーローに更なる権利を、何て議論が大真面目に議会へ提出されていますが私はこの件を見ていると如何も疑問に思わざるを得ない。何せハルトマンから直接後継者として指名されたバルハルト・マクエロイが自分自身の会社が襲撃されているというのに外国へ商談へ行って不在だったというのですから。やはり所詮ヒーローなんて趣味の延長でしかないんですよ』


『激しく同意ですね。ヒーロー等という中途半端な存在に頼る時代はハルトマンの引退と同時に終った。あの時代を良い時代だったと振り返る人間もいるが、言ってしまえば彼が作った過度な2極対立で正しさを押しつける風潮の反動が今の不安定な治安を作り出したんですよ。これからは警察の権限を強化、もしくは別の更なる犯罪抑止力の設置が何よりの急務だと思いますね』




 テレビではアナウンサーの読み上げたニュースの内容について2人の何やら偉そうな肩書きの付いたコメンテーター達が好き勝手に持論を述べている。だがどこの番組でも共通して言われているのは、今のヒーロー頼りな体制からの脱却と変化の必要性。

 そしてその世論を元に、フートは自らに与えられた使命について語り始めた。


「社会が変化を求めてるんだよ。ヒーローを中心とした社会が、正義を中心とした社会が限界を迎え始めている。夢と希望の限界に人々が気付き始めたのさ。夢は何時か覚める物、そんな不安定な概念を軸にしているから社会は不安定に成る。だが恐怖は永遠だ。人は泣きながら生まれ絶望しながら死んでいく、寝ても覚めても悪夢は終らない、ならその永遠を中心として社会を再構築すべきだ。そしてそれが出来るのは唯一プロフェッサーディックから次を託されたヴィラン、このファニーエイプだけなんだよ! オレ達が傍観している間にも正義の為に人が死んでいる。オレ達が行動しなかったせいで人が苦しんでいる。だから1秒だって足を止めている事は許されない、一刻も早く人々を恐怖で支配してあげなくちゃいけないんだッ」


 フートはそれまでのフワフワした様子から急にスイッチが入り、師匠が亡くなってから再び歪みだした己の思想を吐き出し始める。

 しかしニカは知っている、彼の言うそれが父親の言っていた物とは何もかも根本に存在する心情さえも異なるという事を。プロフェッサーディックは本当に心の底から社会を良くしようという思うを軸に行動していた。だがフートと繋がりスーツ越しに流れ込んでくる感情は全くの別物、彼は大義名分として社会だの人々だのと言っているが実際には…………


『せめて身体の痛みがとれるまでは待ってちょうだい…その後なら私も手伝ってあげるから』


 しかしそれをフートに伝える事は無く、ニカは自らの目的のままに彼の暴走を放置した。彼が選んだ道に先など無いと知りながら。そう遠くない未来に彼が二度と立ち上がれなくなる程の挫折を味わう事になると知りながら。

 そうして各々のドロドロとした思惑が渦巻く中、フートは次の起すアクションの照準を定める。


「分かった。じゃあ作戦開始は一週間後、狙いは再びマクエロイコーポレーション。一気に頂点の椅子へ座りに行くぞッ」


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