表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファニーエイプ  作者: NEOki
第二章
124/156

第十一話 フューリー③(内容追加版)

ズッドオオオオオオオオオオオン!!


 とても拳が人体を捉えた音とは思えぬ空気が破裂する音を上げてフューリーのパンチがフートを直撃。

 その威力は前に喰らった裏拳の非ではなく、二重にクロスした両腕の防御を貫通し心臓を一瞬止める。そして全身がガチガチに固まった状態で為す術無くフートの身体は斜め上方へ吹飛ばされ、そのまま天井と衝突し床へと弾き返された。


「……………………ガハッ、ハア…ッ!!」


『フートッ!! 大丈夫?』


「大丈夫じゃねえけどッ…覚悟の範囲内だ。右腕は終ったがそれ以外はかろうじて壊れ、てねえ。まだやれる」


 フートは一度裏拳を喰らい破壊されかけた右腕を十字の上にし、その直接パンチのエネルギーを注ぎ込まれた右腕は現在痛みと痺れと熱が混じった感覚に覆われていた。ほぼ確実に骨が折れている、ニカによる痛みの中和とスーツの補助を受けかろうじて動かす事は出来てももう武器としての使用は不可能。

 だがそれで済んで儲け物と思う程凄まじい一撃であった。


ッダン!!


 この一瞬の内に受けた痛みと恐怖について語るには四百字詰め原稿用紙十枚は掛かる、だが次の危機は此方の都合など関係無く押しかけてきた。フューリーがようやく身体を起したばかりの標的へ追撃を行わんと力強く床を蹴り込んだのだ。


(まだブランクディガ-は冷え切ってないッ、何とか時間を稼がねえと!!)


 此れだけ絶大なダメージと引き換えに稼いだ時間がたった数秒という残酷過ぎる現実にフートは歯軋り。しかし泣き叫んで如何となる訳でも無く、彼は少しでも足掻くために左手を前に突き出し応戦する。


デュッ、ドドドドドドドドッ!!


 腕に装着していたソキッドガスの缶から高粘度のトリモチ状の物体を敵の足下へと連射。一直線で距離を詰めてくる敵の動きを少しでも阻害し時間を生み出すつもりであったが、事はそう上手く運ばない。

 フューリは足に張り付き歩みを阻害するソキッドガスをその常識外れな脚力で振り払い、十二分に人を跳ね殺すに値する速度で突っ込んで来たのだ。そしてその勢いのまま依然ダメ-ジの余韻から立ち直れぬフートへと衝突。



ドオオオオオォォォォォォンッ!!



 時速100キロの2トントラックに正面衝突されたが如きインパクトが身体を貫き、フューリーのショルダータックルを喰らったフートは抵抗さえ許されず10メートル近く後方へと弾き飛ばされる。

 その攻撃は点ではなく面で彼の全身にダメージを刻んだ。


「ゲホッ…グゥ、ゲホッゲホッ」


 またも派手に弾き飛ばされてしまったフートは同様に直ぐ立ち上がり次の攻撃に備えようとる。しかし左手を突いて半分ほど起した所で上半身の力が抜け、そうして再び床に伏した身体はそのまま何かに接着されているが如くビクともしなく成ってしまった。

 上半身の隈無くが痛みを発し、強い衝撃でパニックに陥った横隔膜が咳を引き起こす度に内臓がキリリと痛んで身体の力を奪い去っていく。先程のパンチ直撃レベルに深刻なダメージは無い。だが突き抜けていった衝撃により細胞一つ一つに蓄えられていた体力が攫われ、さながら燃料タンクに穴が空いた様に身体の動きが一気に鈍くなる。


ザッ、ダン!!


 そんな獲物が晒した致命的な隙をフューリーが見逃してくれる訳が無く、寿命を迎えアスファルトの上へ落ちた蝉の如く藻掻くフートへとトドメを刺しに動く。亀裂が走る程力強く床を踏み込み、その一蹴りで標的を右腕の射程範囲内へと入れた。



ヒュオンッズッドオオオオオオオオオオオオン!!



 つい0,1秒前まで標的が存在していた空間を蒸気蒼雷を纏うガントレットが叩き潰す。フートはまたもブランクディガ-に命を救われ九死に一生を得たのだ。

 そして右腕一本と全身の痛みを引き換えにしてまで稼いだクールタイムを使い込んだフートは、泣き言をいう身体を黙らせて起き上がり血走った目で打開策を考える。


「クソ………全然勝ち筋がッ見えねえ!! このまま同じ事を続けていたら何時か致命傷を貰う。クソがッ!! 考えろッ、考えろッ、何か手をッ…………」


…ドン! ドゥン! ッドゥン!! ズドォォンッ!!


 しかし今までに感じた事の無い濃密な死の匂いに思考がブレ、考えが何一つ纏まらない彼の耳がその音を捉えた。

 フートは他の何よりも時間を欲し、その目的を最大限叶える為ニカが半径十五メートルの範囲内でもっとも多くの壁でフューリを隔てられる部屋へと飛ばしていた。その彼を守る壁の枚数は五枚。そして恐らく、いや間違い無く空耳であろうが、今四度壁が何か絶大な力によって突き砕かれる音が聞こえた気がしたのである。


………ッドオオオオオオオオオオオオオオン!!!!


「嘘ッだろ…………………」


 視界の中へ突如割り込んできた怪物の姿に、フートは魂が抜けた様な声を漏らした。フューリーがその桁違いなパワーにより五枚の壁を突き破って有り得ない速度で彼の前へと姿を現したのである。

 そのホラー映画さながらの余りに絶望的過ぎる光景に思考停止したフートの顔を、フューリーの巨大な掌が包み込んだ。



ダァンッ! ダァンッ! ダァンッ! ダァンッ! ズダァ”ァ”ン”ッ!!!!



 伸ばした手で標的の顔を鷲掴みにしたフューリはその状態で更に突進を続け、フートの身体を衝突させながら壁を突き破っていく。そうしてしゃち海豹あざらしを弾き飛ばし海面へ衝突させ体力を奪う様に抵抗できなくした後で、ボロ雑巾の様になったフートの身体を床に叩き付ける。


「グガ…ァ…ッ……………ガァァ…………………」


(身体がッ、動かねえ…!! 声すら出せねえ…ッ!! 全身が痛えッ、手足が痺れてるッ、ブランクディガ-も使えないッ)


 自分の命がこれ以上無い程危険な状況にある事はフートも分かっていた、そして何とかしてこの状況を打開しなくてはいけないという事も。だが身体が物理的にピクリとも動かず何も出来ないのだ。

 そしてフートは床を背に絶望に染まった瞳で標的へのトドメとして振り上げられていくフューリーの右腕を見詰める。その瞬間彼の目には、ガントレットが放つ鈍い金属光沢が自らへ死刑を執行するギロチンの如くに映っていた。


(終った……死ぬッ)


 実際にはほんの一瞬だっただろうが全神経が生存の為に総動員された世界の中でゆっくりとそのギロチンは上がっていき、無機質にフートの命へ振り下ろされた。




「グゥッ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」




 しかし拳がフートの頭を叩き潰す寸前でピタリと止まり、それまで標的を殺す為に作られたマシンの様だったフューリーが一転頭を抱えて叫び声を上げた。その声は悲鳴の様にも痛みに悶えている様にも聞こえ、結果的にそれで救われた形と成った筈のフートでさえも身を抉られる様な寒気を覚える。

 だがその異変はそう長くは続かず、落ち着くというより感情が再消去されると言った方が正しい様子で叫び声が次第に収まっていく。そして今一度純粋な殺人マシンへ戻ったフューリーは冷淡に標的を押さえつけ、右腕を振り上げ、その急所目掛けて拳を振り下ろした。


ズドオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


「……………ハアッ、ハアッ、今のは本気でヤバかった…!!」


 範囲のギリギリ15メートル先へと飛んだフートは体力消費の意味だけではない、死を現実として直面した者のみが零せる荒息を上げた。フューリーが何故か手を止めてくれたお陰でブランクディガ-のクールタイムが終り、あの死地から脱する事が出来たのである。

 神はどうやら彼に味方してくれていたらしい。しかし、同様の幸運がこの先もう一度起こると期待出来る程馬鹿には成れない


『フート、体中ボロボロになってるよ? もう満足したでしょ? こんな見ず知らずの場所見捨てて一緒に逃げようよ』


「………………………………いや、まだだ。プロフェッサーディックの後継者がこんなやられっぱなしで終われるかッ」


『…………………そう』


 フートは意地と自棄を握り締めてこの戦いを投げないと宣言。しかし逃げようとニカに言われてから返答を発するまでの間隔、それが彼の中で振子ふりこが如く揺れていた感情を物語る。

 そしてまた同時に、自らが伸した泥濘へと引き摺り込まんとする手を弾かれてニカが生み出した沈黙と温度が消えた『そう』という音、それが彼女の中で渦巻く醜い欲望を外界へ僅かに漏らしていた。



(けど、どうするッ。結局どうやってあの化物を倒すのか全く手立てが思い付いてねえじゃねえか! もう考えてる時間なんて無い。でも考えねえと。直ぐにアイツがこっちへ向かってくる。とにかく立たねえとッ)


 だが威勢良く啖呵切ったは良い物の、フートの脳内は先程ボコボコにされていた時と変わらず竜巻でも起こっているかの様な精神統一とは程遠い状態であった。意識が四方八方へ飛び、単発の閃きが散り散りに浮かび、焦りだけが刻一刻増していく。

 更には脳内だけでなく身体の方も状態は最悪で、焦りに突き動かされて立ち上がったフートは直ぐに踉けて床に引き戻される事となる。


「クソッ」


ドン………ピシィッ


 這いつくばる無様な姿に怒りを覚え、ランダムに瞬間移動して出たガラス張りの床で反射する自らへとフートは拳を叩き付ける。するとそのスーツによって強化された腕力によりガラスの床へ走ったひび割れが、彼へ運命的な閃きを与えたのである。

 嘗てナノバイオスーツに残された師匠とハルトマンの戦闘データを見た時の記憶、それが脳内ライブラリより浮かび上がって現在と繋がっていく。


ドオオオオオオオオンッ………パラパラパラ……………………………


 閃けば後は早いフートがその掴んだ発想で如何にあの怪物を打倒するかという道筋を描ききったその時、まるでタイミングを見計らったかの如くフューリーが壁を突き破り姿を現す。

 ついさっきまでその姿が小便チビってしまいそうな程恐ろしかった。だが不思議と今はその山の如き体格も、その重戦車を思わせる歩みも、その死が形を得た様なガントレットも、見ていると何故か恐怖と同時に熱さを覚えたのである。


「ニカ、この後如何成っても良い。だから今だけ身体を動くようにしてくれ」


『………何か思い付いた見たいね。どうせまた危ない事するんでしょ?』


「ああ、分かったんだよ。オレには師匠みたいに正面から一本勝負出来る様な技術力は無い」


 そう言ってフートはソキッドガスの缶を開け、飛び出した煙で自らの命を預ける武器を生み出す。それは彼の身長と変わらぬ長さの棒の先端部に長方形の重しを付けた不格好な即席ハンマー。


「だから無様に正々も堂々もなくジャラジャラぶら下げたアイディアで戦うのさ。それがこのオレ、悪の王フート様の戦い方だッ!!」


 そう力強く啖呵を切り、フートは勝利も敗北も此処で決すると腹を決める。そして重心を落として力強く床を蹴り込み、今まで尻尾巻き逃げ回ってきたフューリーへと最後は自ら突っ込んで行った。



第七話に少し内容を追加しました。読まなければ物語が理解出来なく成る程の追加ではありませんが、興味のある方は目を通して頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ