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ファニーエイプ  作者: NEOki
第二章
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第四話 スーパーパーフェクトAI①

「おいッ…………これ、本当に上手くいくのか?」


『上手くいくに決まってるでしょ。このスーパーパーフェクトAIのニカ様が導きだしたセキュリティーを抜ける為の最適解なんだから』


「最適解じゃなくて良いからッ、こんな昔のバラエティー番組みたいじゃなくもっと安心感がある奴が良いんですけど!」


『文句言わない。ほら、気を抜いて中途半端に飛んだら100メートル真っ逆さまよ』


「くそッ、もうやるしかねえのか……!!」



 現在6月17日午後9時、ドレッドタイガーが襲撃予告を出した日の前夜。フートはパワードースーツを纏い全ての道具を身に着けたフル装備で、マクエロイコーポレーションから200メートル離れた全く無関係なビルの屋上に立っている。 

 一体何故そんな場所に立っているのか、それはニカが潜入に先立ちマクエロイコーポレーションのサーバーに侵入し盗み出した情報より発覚した面倒なセキュリティーシステムが原因であった。


 現在どうやらあのビルでは犯行予告を受けた事で警戒が強まっており、幾つかの特殊な防犯設備が働いているらしい。そしてその中で最も厄介なのがビル全体隈なくを覆う防犯センサー。

 そのセンサーは窓ガラスが割れたり強い力を外から受ければ勿論、外壁に10分以上登録されていない物体が接していただけで警備部門に連絡が行くという最強の門番であった。更に敷地内では30を超す警備員と50を超す防犯カメラが絶えず警戒しており、外部からの侵入はほぼ不可能な死角のない鉄壁要塞と化している。


 だがしかし、その要塞を突破する方法をニカはたった一晩の内に編み出したのである。それは題して『人間パチンコ大作戦』。

 この作戦の肝は如何にしてセンサーも監視カメラも警備員の目も搔い潜ってビルの内部へと侵入するのかという事。ヘリや飛行機では目立ち過ぎで確実に見つかってしまう。地下から穴を掘るにしても目当てのパワードスーツは地上47階に保管されているので下から行くのはかなりリスクが大きい。変装して忍び込もうにも47階に入る為には特別な検問が存在しセキュリティーカードと指紋認証が要求されるらしく不可能だ。

 つまり侵入する為の条件は、目立たずに音も立てず一瞬の内に何とかしてフートの体を直接47階へと放り込まなくてはいけない。その大命題を元にニカの超高性能な頭脳が導き出した回答こそがパチンコだったのである。


 内容は至ってシンプル。マクエロイコーポレーション周辺に存在するビルの中で最も高い屋上へと上り、其処へ特別頑丈に制作した二本のパイプを突き立てた。そしてその頂点へレッドスターの金による研究開発により実用レベルにまで改良された個体・液体・気体その他諸々自由自在に性質を変える発明品『ソキッドガス』をロープ状にして付着させる。後はその強度を高め弾性を加えゴムの様に成ったそれをパワードスーツの力で引き絞り反動で身体をパーンと打ち出す。

 馬鹿みたいだが、これがフート達の計画その全てであった。


「ニカッ、未だか…………腕がぁ千切れるッ!!」


 スーツの力をフル活用して引っ張られたゴム状のソキッドガスがギリリリッと音を上げる。そしてそれは特殊な器具でフート腕に固定された缶へと繋がり、負荷は彼の両腕へと集中して襲い掛かっていた。


『もう少し我慢して、後2センチッ!』


「ぐうう……うおおおおおおおおおおッ!!」


『まだ…まだ………今ッ!!』


 歯を食いしばり渾身の力で身体を引いた事により遂にゴム状のソキッドガスへ目標まで届きうるだけのエネルギーが蓄えられた。そしてニカの声を合図とし全身の力を抜いたフートへと一瞬の内にそのエネルギーが乗り移り、力を伝え終えた両手のソキッドガスが再び気体へと戻ることで解き放たれたその身体は凄まじい勢いで宙へと射出される。


「ッあああああああああああああああああああああああああ!!」


 その様は正しくパチンコに込められた鉄球の如くで、ニューディエゴの夜空を貫きながら200メートルの距離を瞬く間に飛び越え目標のビルが迫ってくる。そしてその外壁に衝突し赤い染みになる寸前、右手首の裏に付けられた瞬間移動装置ブランクディガーを使用。



ヒュオンッ………………ドウッ、ゴンッゴロン、ガッ、ゴツン!!



「ああああああああッ、ごふッ、がはッあがあ、いッ、いでえッ!!」


 瞬間移動によってセンサーも壁もすり抜けたフートの身体は狙い通り目標のパワードスーツが保管されている地上47階へと到達。

 しかし瞬間移動したと言っても纏っていたエネルギーが消える訳ではなく、フートの身体は壁を越え移動した先の廊下を空を渡ってきたそのままの速度で吹っ飛ぶ事となる。結果スーツ越しでも消しきれない衝撃に苦悶の音を漏らし、天地が幾度も入れ替わるソニックザヘッジホッグも真っ青な大回転を行った果てに漸く身体が停止したのだった。



「はあ…はあ……しッ、死ぬかと思った…………」


『何よこの程度で、男の癖に情けないわね。私の計算通り無事上手くいったでしょ?』


「これが成功だったら交通事故は大成功だよッ」


 嫌味を言いながらフートは未だゾワゾワした感覚が抜けず心臓が高鳴ったままの身体を起こし、全身を触って怪我がないかを確かめる。そして体中隈なく痛かったが絶妙な加減で骨や後に響くようなダメージは一つもない事が分かった。これがニカの言う計算通りという事なのだろうか。

 人間が思い描くスマートさとはまた違った、ある最低限の条件の中で見かけや固定概念に縛られず最善策を選ぶ。そんな彼女の非人間的な視点がこの瞬間僅かに垣間見えた気がした。


 だが何はともあれ、最大の関門であった地上47階への侵入成功である。

今日から毎日投稿の本編に加えて番外編の『フートの過去』を投稿していこうと思います。番外編はワンシーンを切り取ったとても短い内容と成っており、読んでいなくても本筋の流れが分からなくなる事はありませんが後々本編と繋がる伏線が隠されておりますので新聞隅の4コマ漫画感覚で暇つぶしにでも追って頂けると嬉しいです。

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