第一話 三年後の世界②
「マジだ…普通に人が歩いてるし、像の足元でホームレスがテントまで張ってるぞ」
『フート、あんた犯行予告送り忘れたんじゃないの?』
「んな馬鹿な。オレは間違いなく役所と警察署、それにテレビ局にも像を爆破するって郵送と電子メールで送っといたぞ。メールの方は履歴も残ってる」
「じゃあ、なんで?」
ティナの言葉を受け、慌ててコックピットに取り付けられた対地カメラのモニターを覗き込んだフートはそれが冗談ではない事を確認する。モニターに映っていたのは夜間故に人出は少ないが、少なくとも爆破予告がこの場所に出ているとは思えない日常の延長線上の光景。
ではそれは一体何故か、その何より重要なあと一歩が出ず三者一様に沈黙する。
「……………………………………とりあえず、ホームレスごと吹っ飛ばすか」
『ダメに決まってるでしょッ、そんなの!!』
「そうだよフート兄ちゃん。テレビ局が来てないんだから今やっても宣伝効果が薄いよ!」
『ティナ、そういう問題じゃない…』
フートの思考を放棄した発言にニカが全力でつっこみ、その直後に発されたティナの賢く成りすぎて斜め上に振り切れた発言に絶句する。だがそのワンクッションを置いたことで漸くまともな案が出る。
「じゃあとりあえず今回は爆破無しでオレだけ地上に降りてみるよ。んであそこに居るホームレス達に爆破予告の事知らないのか聞いてみる」
『そうね。此処まで準備して何も収穫なしは勿体ないし、せめて何が原因だったのかだけは確かめないと』
「よし、じゃあティナはオレが降りたら一先ず基地に戻って待機しててくれ。燃料代勿体ないし」
「ティナだけ留守番?」
「ごめんって。オレ達も聞き込み終わったら多分直ぐ帰るから、さッ!」
そう言葉の尻を吐くのと同時にフートは躊躇なく体を空中へと放り出した。まるで天の川が如く煌めくニューディエゴの都市光を眼下に強烈な風圧を受け、落下しているというのに空へ浮かび上がっているかの様な感覚を味わう。そしてそこから両手を体の側面へ張り付けて一気に加速し急降下、地表ギリギリでニカがパラシュートを開き最低限の減速だけを行って着地させた。
着地の衝撃で地面に亀裂が走り轟音が轟いて土煙が上がる、我ながらド派手な着地であるとフートは思った。そして役目を終え上から覆いかぶさってきたパラシュートを振り払うと、着地点の近くに座っていたホームレス達と目が合う。
驚かせてしまっただろうか、そう思い彼らの方へ体の正面を向けたフートへと再び耳を疑う様な発言が飛んできた。
「おお、こんばんわ」
「………………………こッ、こんばんわ」
突然空中から凄まじい速度で降ってきたピエロマスクの様な物を被った男へと、ホームレスの一人が平然と挨拶してきたのだ。
今の自分の姿は傍目に奇妙な不審者以外の何者でもない筈なのだが。一瞬そう思ったフートであったが彼らの手に握られた酒の缶を見てこの異様にフレンドリーな様子が酔った勢いなのだと理解し、此方からも挨拶を返す。
そしてそれなら寧ろ好都合だと此処へ降ってきた目的を果たす為彼らに歩み寄り話し掛けた。
「すみません。ちょっとお聞きしたいんですけど、今日この像へ爆破予告が出てる………みたいな話って何か知ってますかね?」
自分の出した爆破予告の事を知らないかと聞く事に対して僅かな恥ずかしさを感じながら尋ねる。
フート自身この質問に対して返ってくるリアクションは驚きか、不審か、馬鹿馬鹿しいと笑われるかのどれかだと予想していた。しかし実際に返ってきた反応はそのどちらでもなかったのである。
「爆破予告? おいお前ら、何か知ってるか?」
「知らねえ。知ってたとしてもんなもん一々気にしてらんねえよ」
「ギャハハッ、違いねえ!! 予告の爆発気にして避けた先で今の爆発に巻き込まれてたら世話ねえやッ」
現在自分達が立ってる場所へ出されている爆破予告に対して何か知らないかという質問に対して、三人のホームレスはまるで道でも尋ねられたかの様に笑いながら答えたのだ。信じていないというより、もし真実であったとしてそれが如何したといった様子である。
「爆破予告なんぞ気にしてたら今のニューディエゴじゃ生きていけねえ。警察も今起こってる犯罪の対応で手一杯だ。この街じゃゴミ箱も車もトイレもマンホールも爆発するんだよ」
「オレぁ昔から元々爆発するもんだと思って電車に乗ってるぜ。この街で爆発しない物と言えばてめえの糞くらいだ」
「いいやこの街じゃ糞も爆発するぜ。俺の親父はそれであの世へ行った」
「はえ~、味の濃いもん好きだったもんなぁ」
「ああ、肝臓悪くすると結局皆最後はそれでお陀仏さ」
後半は何を言っているのか分からない酔っ払いの戯言に変わってしまったが、前半の話で何故自分たちの計画が狂ったのかをフートは察した。どうやら自分達の知っているニューディエゴと現在のニューディエゴが知らず知らずの内に乖離してしまっていたらしい。
「なあ兄ちゃん、その爆破予告ってのはお前さんが出したもんかい?」
「………………えッ!? いや、それはッ」
酔っ払いの一人がそう尋ねてくる。あまりに鋭く図星を突かれフートがしどろもどろに成っていると、彼は回答など何でも良いといった様子で話を進める。
「残念だったが今のニューディエゴは爆破予告程度じゃ誰も動いちゃくれねえよ。この街の治安は今過去最悪だ。三年前のプロフェッサーディックとハルトマンの戦い、それに触発されたヴィラン擬きとヒーロー擬きが溢れ自分勝手に暴れ回って収集が付かなくなっている。それにハルトマンとデルモント家が別々の後継者を擁立したせいで派閥争いが発生し治安維持どころの話じゃなくなっているのさ。兄ちゃんもヴィランとして名を売りたいんならもっと目立つ事しなくちゃ駄目だよ。そうだな、腕に覚えがあるならヒーロー狩りやら要人暗殺なんてしたら良いんじゃない? ハハハハハハハハッ!!」
フートは親切心か唯の酔狂か求めていた全ての情報を教えてくれたホームレス達に感謝の言葉を述べた。しかしその言葉はもう此方に興味を失い熱に浮かされ自棄になった様に笑う彼らの耳には届かない。
そこで彼らと元々爆破する筈だった巨象に背中を向けて足を動かす事にする。
「ニカ、ちょっと帰るの遅くなるぞ」
『分かってる。爆破予告で誰にも相手されないレベルの治安なんて…一体どんな状態に成ってんのよッ』
兎にも角にも怒号とサイレン鳴り響く街へと向かう事でフートとニカの認識は共通していた。師匠から譲り受けたニューディエゴが今果たしてどんな状態に成っているのか、それを先ずは自らの目で確かめねばならない。




