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ファニーエイプ  作者: NEOki
第一章
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プロローグ 意味なんか無くとも①

 金の匂いって、分かるか?

 もしも俺と似た境遇、極限の貧困を味わったことのある人間だったら分かるはずだ。嗅いだだけで理性がぶっ飛んでドラッグなんか屁じゃない幸福感と飢えを与えてくれるあの匂いだよ。


 十歳の頃、オヤジが有り金ぜんぶ持って何処かへ消えた。殴る蹴るは当たり前の最低野郎だったから物心付く前に母親も失踪している、つまり俺は孤立無援の捨て子に成った訳だ。

 初めはそんなクソ父親が居なくなって済々したよ。でも直ぐに地獄を味わう事になる。金がない、そんなたった四文字で表せる事がどれ程最悪で致命的かという事を思い知らされた。


 家には食える物何て碌に残っておらず、直ぐに凄まじい空腹に蝕まれる事になる。 

 だが俺は度し難い事に街へ出て助けを求めれば、手を伸ばせば優しい誰かがその手を掴んでくれる何て幻想を抱く甘ったれたガキだった。結果は当然権力も金もない子供の貧相な手など誰も掴んではくれず、水道水だけのゲロに塗れて転がる汚いガキなんて街行く大人達は視界にさえ入れようとしなかったのだ。


 しかしそんな絶望のただ中で最後に縋ったモノがあった。昔拾った漫画に描いてあったのである、本当に苦しい時空からヒーローがマントを翻かせて舞い降りどんなピンチからも救い出してくれると。


 まあ、それは結局フィクション世界の中だけの話だった訳だが。


『マネージャー、この書類のチェックをお願いします』


 あの時どうやって生きながらえたのかは意識が混濁していて明確では無いが、確か金持ちの家の飼犬と喧嘩して餌を奪ったんだった気がする。

 だが別にこれを悲しい身の上話として話すつもりはない。寧ろ今は感謝してる位だ。


 重要なのは二つ。一つがそれのお蔭でこの世は金が全てであると気付けた事。もう一つが十数年が過ぎた現在、街の一等地に聳え立つビルにオフィスを構える外資系金融にて使えない部下と不本意な残業をしているという事だ。

 三秒で渡された書類に目を通し、赤ペンで不適切な箇所に線を引いて改善案を示し部下に突き返す。


 目の前の女性はつい数日前に研修を終えて自分の部署に配属されてきた新人。どうやら幼少期に事故に巻き込まれて下半身不随になったらしく、現在は車椅子で勤務している。

 正直容量が悪くて困っているのだが、ハンデキャップ持ちという事もあって他の者達では厳しく指導する事が出来ない。其処でマネージャーである自分が嫌われ役、そして共に残業をしてロスの穴を埋める役を買って出ている。

 上が評価するのは部署全体の成績であり、その成績が悪かった場合に責任を取らされるのは部署の長である自分。それ故正直全て自分でやった方が早いのだが、一刻も早く他部署に戦力的差を付ける為睡眠時間を新人教育に捧げているのだ。


 手段を選ばず畜生以下の生活をして命を繋ぎ、奨学金を奪い合う血みどろの戦いを制して大学に入学し今の職に就いた。そして邪魔する者を迷わず排除し一人で道を切り開いて手に入れた史上最年少マネージャーの肩書き。

 その今までの過酷な日々を思い出せば、残業の疲れも多少和らぐ気がした。


 趣味はと聞かれれば年収を上げる事だと答える、特技はと聞かれても年収を上げる事だと答える。座右の銘はリッチオアダイ、タイムイズマネー。年収だけが唯一人間を客観的に測る事の出来る指標。この数値を上げる以外に生きる理由など存在するのだろうか?

 此れは復讐である、あの時手を掴んでくれなかった世界に対する。小銭一枚でも多く金を稼ぎ、一人でも多くの人間を見下してやるのだ。その為に手段は択ばない、他人を蹴落としのし上がる。


 だが一先ず今は、明日のプレゼンに使うパワポや資料を人前に出せるレベルまで修正しなくてはならない。

 本当に無能な部下を持つと大変である。






ッドオオオオオオオオオオオオオォォォォォン!!


 突如ビル全体が上に跳ね上げられる様に揺れた。

 

今日から毎日投稿を行わせて頂くNEOkiです。

以前から何度か連載はさせて頂いていましたがまだまだ経験不足で、スキルを積むという目的でこの小説を書かせて頂いています。その為どんなアドバイスでも喉から手が出る程欲しく、ダメ出しであってもコメントを頂けると嬉しいです。勿論唯の感想なども大歓迎です。

この小説が少しでも皆さんの暇つぶしに成る事を願っています。読んでくれてありがとう。

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