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くしゅくしゅ

作者: 十一橋P助

 一ヶ月ほど前、妻がこの家を出て行った。それからは男手一つで七歳になる息子を育てている。掃除に洗濯に料理と、それまで彼女に任せきりだった俺は、慣れない家事に悪戦苦闘の毎日だ。

 それを見兼ねたのか、最近息子は俺を手伝ってくれるようになった。料理はまだ無理だが、簡単な家事なら器用にこなす。

 今夜も夕食を終えると、息子は自ら進んでシンクの前に立った。

「今日は僕が洗うから、お父さんは洗濯物をたたみなよ」

 生意気ながらも頼もしい口ぶりに思わず笑みがこぼれた。今回は少し手のかかる洗い物が多いのだが、せっかく言ってくれたのだから任せることにしよう。

「じゃあ、お願いしようかな」

 俺は取り入れたままソファの上に放り出していた洗濯物を手早くたたんでいく。

 重ねたタオルを洗面台の戸棚に仕舞いにいくついでに息子の手元を覗き込んだ。

 泡の消えかかったスポンジに洗剤を継ぎ足そうとしていた。

「おいおい」

 手を止めた息子はなんだと言いたげに俺を見る。

「洗剤を足す前に、くしゅくしゅしてみたか?」

「くしゅくしゅ?」

「スポンジにちょっとだけ水をつけて、こうしてみ」

 右手でにぎにぎするジェスチャーをして見せた。

 息子がその通りにすると、スポンジから泡が溢れてくる。

「ほら。そんなに洗剤つけなくても、泡は復活するんだぞ」

「ほんとだ。いつもいっぱい使ってたよ」

 どうりで最近減りが早いはずだ。

 目を輝かせ、しばらくくしゅくしゅしていた息子が、不意に俺を見た。

「ねぇ。今度お母さんに会ったら、くしゅくしゅしてみようか?」

「は?どういうことだよ」

「そうしたら、お父さんと復活するんじゃないかと思って」

 それを言うなら復縁だよ。と心の中で突っ込みながらも泣きそうになった。どうやら息子は子どもながらに俺の気持ちを理解してくれていたようだ。

 何も言えないでいる俺を気にする風も無く、息子は洗い物を続けた。

 




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