どこか胡散臭い者達
光が収まり目を開けた時、そこは全く知らない場所だった。
神殿のような場所で月明かりが上から差し込んでおり多くの柱が建っている。
部屋の中心には大きな水晶が浮かんでいた。
私は部屋の奥にある柱の裏に倒れていたが、黒い馬の前に居た男女は部屋の中央に倒れている。
周りを観察してみるとこの部屋には他に誰もいないようだ。
しばらく周りを観察していると遠くから足音が聞こえて来た。
ガチャ。ギィィー
大きな扉が開く音がした。
「やりましたよ!3人も!少し乱れがあったので心配していたが大成功じゃ!」
1番に入ってきて興奮気味に話すのは黒いローブを着た老人だった。
3人と言ったので私のことには気づいていないようだ。
後ろからドレスを着たとても可愛らしい女性、いかにも王子様といった雰囲気の顔の整った男性、ひげの生えた王冠をつけた老人と騎士のような恰好をした人達が入ってきた。
その騒ぎによってようやく倒れていた3人が目を覚ましたようだ。
「…ここはどこだ?」
男の子が先に目覚めた。状況が把握出来ず困惑しているようだ。
「わしはノーマン・セルリダス。ここアーセルス王国の宮廷魔術師です。
皆様を召喚したのはわしですじゃ。よくぞいらっしゃいました勇者の皆様」
「僕は第1王子のオルガ・フォン・アーセルスです。勇者様どうぞよろしくお願いします!」
「私は第1王女 レベッカ・フォン・アーセルスです。私たちは今魔王との戦いによりこの国は最大の危機を迎えております。多くの民が苦しみ、惨殺されております。どうかお救い頂けないでしょうか。お願い致します。」
「余はマルクス・フォン・アーセルスだ。この国の王である。
勇者よどうかわしらを助けて貰えぬだろうか・・」
私たちはアーセルス王国の王族によって召喚されたようだ。彼らの表情はどことなく胡散臭い。
面倒くさそうなので、より見つかりづらい位置に移動して気づかれないようにすることにした。
一緒に召喚された3人はしばらく黙っていたが、急に騒ぎ出した。
「早く帰してください。これは誘拐ですよ!」
「なんなんだよ!いったい!意味がわかんねー」
「わ…私…家に帰りたいです…」
「残念ながら今そなたらを帰すことは無理じゃ。その方法は魔王が持つ古代遺跡にあるのじゃ・・」
「勇者様には強い力が備わっていて特別な能力が備わっていると聞いておりますわ!
変える方法を探すためにも力は必要だと思いますの。ぜひ調べさせてもらえませんか?」
能力を調べるために水晶に手を触れてステータスと唱えるように勧めている。
王族に対して失礼な言動をしているにもかかわらず誰も顔色1つ変えないのは少し違和感がある。
「帰れねーなら俺は喧嘩とか好きだからいいけどよ」
男の子が立ち上がり水晶に触れてしばらくすると半透明な板のようなものが現れ彼のステータスが表示された。
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剛力 健吾 18歳
種族:人間
HP:50
MP:30
STR:90
INT:10
【固有スキル 】
狂戦士
【スキル】
異世界言語、大剣使い、肉体強化
【称号】
異世界の勇者
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「HPは体力、MPは魔力、STRは力、INTは賢さとなっておる。
固有スキルは他の人にはないその人だけの特別な能力なのじゃ。
ほとんどの人は持っておらん!固有スキルを持った人は皆とても強い!」
「俺様にピッタリじゃねぇかよ!」
「流石勇者様ですわ!!貴方のようなお強い方にあえて光栄です!!
騎士や冒険者でも最大値は40くらいなのです!
私達を魔王の手からお救いいただけないでしょうか・・?」
「姫さん可愛い顔してんな~気に入った!俺が守ってやる!」
レベッカ王女に手を握られ見つめあいながら彼はにやけながら嬉しそうにしている。
二人はそのまま盛り上がりながら楽しそうに話し続けている。
次に少しキツい目をした黒髪の女の子が立ち上がった。
見た目から彼女は言いたいことははっきり言う少し男勝りな生徒会長という印象を受けた。
「帰るためにも行動する必要があるようですね。私にも確認させてください」
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須藤 杏華18歳
種族:人間
HP:40
MP:90
STR:20
INT:25
【固有スキル 】
不死鳥の舞
【スキル】
異世界言語、中級炎魔法、簡易詠唱
【称号】
異世界の勇者
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「Lv1で既に中級魔法が使えるだと!?素晴らしいのじゃ。
君ならわしよりも素晴らしい魔術師になれるじゃろう…。
是非、共に魔法を極めてこの国を救ってくれんか?」
「私にそんな力が……私にできることがあるならお手伝いします!」
宮廷魔術師ノーマンの言葉で彼女もまた協力することを選んだようだ。
最後に残った女の子は自信なさげに座ったままだった。
そこにオルガ王子が近寄っていった。
「とても可愛らしいお嬢さん。僕らの事情に巻き込んでしまって申し訳ありません…
もし貴方が望むのならばこの城で戦いが終わるまで何もせずに暮らして頂いてもいいのです‥
いつまで安全なのか保証は出来ませんが、この僕ができるだけ貴方をお守りしましょう」
「あ…ありがとうございます…わ…私なんかにできることはあるでしょうか…?」
「もし貴方のような素敵な方が僕と一緒に戦ってくれるのならそれはとても嬉しいです」
手の甲にキスをして彼女の眼を見つめながら王子は言った。
女の子は顔を真っ赤にしながら王子に付き添われて水晶に向かい合いそっと水晶に触れた。
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飯田 佳奈18歳
種族:人間
HP:35
MP:90
STR:10
INT:20
【固有スキル 】
治癒空間
【スキル】
異世界言語、中級回復魔法、簡易詠唱
【称号】
異世界の勇者
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「可憐なあなたにピッタリな能力だね。僕や僕の民が傷ついたときその力を使ってもらえないか?」
「わ…私に出来るなら頑張ります…貴方が傷つくのは嫌なので‥」
佳奈という女の子はオルガ王子のために戦いに参加することを選んだようだ。
「皆が我々と共に戦うことを選んでくれてとても光栄だ。これからよろしく頼む。」
「そうじゃった!1度水晶に触れた者はここの中でステータスと唱えるだけで自分のステータスを見ることが出来るのじゃ。これからよろしくな」
休むための部屋が用意していると勇者と呼ばれた3人は案内されて部屋からでていく。
最後に残った騎士が部屋にカギをかけていったようだ。
1人残された私は全ての足音が聞こえなくなるまでおとなしくしていた。
あの水晶は何だろうか?水晶には触れずステータスと心の中で唱えるだけではだめなのだろうか?
・・ステータス・・・
心の中で唱えてみると頭の中にステータスが表示された。
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神宮 夢姫18歳
種族:人間?
HP:100
MP:100
STR:100
INT:100
【固有スキル 】
悪夢の悪戯
幻想の嬉戯
【スキル】
異世界言語、鑑定、詠唱破棄
【称号】
神に招かれた者、悪夢に愛された者
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他の3人のように回りに見えるような形ではなく、私のステータスは私の頭の中にだけ現れた。
あの水晶はみんなに情報を見せるためのものだったのだろうか?
ステータスが先程の3人とは異なっているところが多いようだ。
分からないことだらけだが考えても解決しないので、この場所からでるためにとりあえず固有スキルが発動できないか試してみることにした。
悪夢の悪戯というスキルに鑑定を唱えた。
この固有スキルは人を眠らせ悪夢を見せたり、今まで自分が見た悪夢を現実にすることができるようだ。いろいろ考えているとふいに頭の中に呪文が浮かんできた。
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我 夜を旅する者なり。あまたの存在に恐怖を与える時来たり
我が望む悪夢の中で恐怖することを許さむ
悪夢の悪戯
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呪文が終わると黒い煙が現れそこからとても綺麗な黒いペガサスが現れた。
少し時間が経ち黒いペガサスは私にゆっくりと近寄づいてくる。
よく見るといつも悪夢に出てくるあのペガサスにそっくりだった。
近くなるにつれて黒い煙が再び現れペガサスを包んでいく。
私の目の前まで来た時には、黒い煙がすべて消えペガサスだったものは黒髪の青年になっていた。
「やっとお話することができるのですね。この日を心待ちにしておりました私の幻想…」