オカシラ様
少し過激な表現があるのでお気を付け下さい。
とある女性が体験したお話です。
あるところに、とても有名な女優がいた。
昔は"トップ3"と言われる超売れっ子女優だった、、、が今は歳も歳なので、テレビの出演数は年々減っていった。
そんな彼女はとても美容に気を使っていた。眉毛の一本一本まで細かく整え、シワがあろうものなら超高級な化粧水を1日かけて肌に染み込ませた。ここまでするのは、彼女にとても大切な人が出来たからである。結婚生活も順風満帆だったが、美に対する意識は日に日に過激になっていき、髪の毛が決まらないだけで仕事を休むようになっていた。
そんなある日。彼女は占いをやっている友達から妙なことを聞く。
「どんな願いも叶えてくれる『オカシラ様』という神様がいる」
彼女はその話を詳しく聞き、早速家に帰った。
教えて貰った儀式を行う為、材料を集めた。
『トカゲの頭、鳥の頭、ムカデの頭、死んだ犬の脳みそ、蜘蛛の頭部』
これらを、薪の上に焚べる。
そうするとモクモクと、どす黒い紫色の煙が出てきた。
『私を呼んだのはお前か』
彼女は驚きのあまり一瞬怯んだが
「え、えぇ。そうよ。。。お願いがあるの! あなたはどんな願いも叶えてくれるのよね?!だったら私を若返らせて!美しいあの頃に戻して欲しい!もし戻れるのならっ、、!!」
彼女は「何でもする」と言いかけたが、直感で【良くない】と感じそのまま飲み込んだ。
「、、っお願い!」
『よかろう、、』
とだけ言い、スっと暗闇に消えた。、、不気味な笑みを残して。
「、、、ん?、、え?もう終わり??、、何よ!何も変わってないじゃない!!」
その場に座り込む
「はぁ、、こんなの信じる方が馬鹿だわ。」
あれは幻覚か何かだと思うようにし、その日は眠った。
ー数日後ー
仕事の集合場所に向かう途中、工事現場でクレーン車が運んでいた鉄板が、風に煽られて彼女の右腕に直撃した。
べしゃん!
あまりの痛みと、ぐちゃぐちゃに潰れた自分の"元"身体を見て彼女は気を失った。
━━━
「、、ん」
目を覚ます。
「ここは、、」
「お、目が覚めましたか。 ここは病院です。あなたは事故にあって気を失っていたんですよ。」
と白衣を着た中年のおじさんが言った。
「え、、?」
事故の記憶が蘇ってくる。
あの時の恐怖や痛みを。
「はっ!」
と彼女は自分の右腕が地面で潰れていたのを思い出す。
青ざめた顔で右肩辺りを、恐る恐る触ってみる。
すると
ムニッ
としたモノが手に当たった。
「ん?!」
彼女の右腕があったところには赤ちゃんの腕があった。
身体から生えている様にも見える。
「いやぁぁあ!!!」
彼女は叫んだ
「落ち着いてください!これは私共も驚いているのですが、あなたは再生したのです!しかも赤ちゃんの状態から!これは大発見かもしれません!不死を可能にしたかもしれません!」
「若返った、、」
物は言いようで、美や若さを追い求め過ぎた彼女は恐ろしい事を思い付いた。
『自分の身体を切り刻めば全身赤ちゃんになれる。そのまま成長すれば若い身体が手に入る。』
次の日、彼女は病院を抜け出しホームセンターへ向かった。
電動ノコギリを買った。
夜になるまで街を徘徊し、建設途中で中止になったビルに忍び込んだ。
照明がないのでスマホのライトで照らした。
電動ノコギリは右手がない状態での扱いは難しかったが、足を使って何とか電源を付けることが出来た。
そしてどうにか脚の付け根を紐でキツく縛り上げた。
あとはスイッチをONにすればいいだけ。
冷や汗が止まらない。鼓動が大きくなり、呼吸が荒くなる。
自分の脚を見つめる。キツく縛ったせいで、血が止まり赤紫色に腫れ上がっている。
彼女は覚悟を決め目を見開いた。
スイッチを入れる
ヴィィィィィィン!!!!!
「う゛ぅ゛っ、、ふっ、、ぐぅっ、、あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」
辺りが飛び散った血で真っ赤に染った。
左脚が身体を離れたところで、気を失った。
目が覚める。
急いで自分の左脚付近を確認してみると、やはりあった。赤ん坊の脚が。
これは間違いないと確信し、もう片方の脚も同じように切り落とした。
右手両脚が赤ん坊になり、バランスを保つのが難しくなり、起き上がることが出来なくなった。
女優として自分が一番大事だと思っている顔。ここだけは何としても若返らなければ。
ただその為には首を切り落とさなければならない。
自分で首を切り落とすのは難しいだろう。何か方法はないか。
彼女はもう冷静では無くなっていた。
電動ノコギリの刃を下にしてONにした状態で、少し大きめのコンクリートをその上から乗せる。そして電動ノコギリを持ち上げてその下に頭を入れる。ホチキスのような形になった。
あとは手を離せばいいだけ、、
彼女は目を瞑った。
ぱっと手を離す。
途端に激しい痛みが首を襲う。
目が勝手に開く。限界まで開く。
口の中に鉄の味が広がる。
『プツンッ』
急にテレビを消した時のように暗くなった。
何も感じない。
、、何も、、
━━━ チュンチュン
朝日が廃ビルの中を照らしていた。
昨日の晩に電動ノコギリの音が響いていた部屋には、無惨に転がっている両脚と首があった。
彼女の肩から上には、赤ん坊の顔が生えていた。
そしてその顔は目を開き、不気味な笑みを浮かべ言った。
『忠告してやったのに』
数十年後。
路地裏にとてもよく当たる有名な占い師がいるという噂を聞き、やってきた女子大生。
彼女は占い好きで、毎日の星座占いは欠かさずに見ている。
「あった。あれだな。」
教えて貰った場所の薄暗い路地裏に、ひっそりと佇むテントがあった。
看板には【あなたの願いを叶える方法をお教えします】と書かれてあった。
「そんな上手い話あるもんかなぁ、、」
と呟きテントの中に入った。
真ん中に大きな壺のようなものがあった。
その奥に一人の女性が座っていた。歳は30代半ばと言ったところか。
彼女は案内された椅子に座った。
フードを深く被った女性は
『ようこそ。まずはどんな願いも叶えてくれる【オカシラ様】のお話を致しましょう。』
とフードをおろしながら言った。
その時一瞬、ちらっと見えた手。
左手だけ骨と皮しかない老婆のものだった。
最初に女性は『右腕』を失い、そこに生えてきた赤ん坊の腕を見て若返ろうと決心しました。
そして最終的に左腕だけを残し、両脚と首を切り落としてしまい絶命するのですが、【オカシラ様】に乗っ取られた後の身体はそのまま成長し、今度は『左腕』だけが残り、それが逆に老いたものになってしまった。
という残念なお話です。