1話 絶望
「エリク、良い職業に就く事を祈っているわ」
「ありがとう母さん。じゃ行ってくるね」
エリク15歳。
この異世界では成人となる年齢である。
エリクは母親と二人暮らしであり、父親は冒険者のためエリクが小さい頃に家を出て旅を続けているようだ。
15年前、エリクは田中剛と言う名で前世を生きていた。
どこにでもいる普通のサラリーマンで年齢は30歳だった。
剛はゲームが好きで、平日は仕事から帰宅後すぐにゲームを始めて日付が変わる頃まで熱中し、休日になるとどこにも出かけずにゲーム三昧の日々を過ごしてい。
定かではないがゲーム中にこの異世界へ転生されたと記憶している。
今日はエリクにとって人生最大のイベントがある。
この世界では15歳になると鑑定を受けることになっており、その鑑定結果によって職業が決まるのである。
エリクは鑑定を受けるべく、町の広場へと向かっている。
(職業は勇者かな、それとも賢者か、いや魔法剣士ってのもカッコ良いな)
転生されたからにはそれなりの上位職に就くことが出来るとエリクは考えており、何年も前から鑑定を楽しみにしていたのだ。
ヴァスタート王国領に属しているこの町ヘンリルは、人口1000人程の小さな田舎町である。
この町の中心にある広場で鑑定を受ける人たちと国のお偉いさんと思われる人たちが集まっている。
今年鑑定を受ける15歳は8人になる。
小さい町なのでエリクは7人全員と顔見知りなのである。
「ではヘンリルでの鑑定を始めるとする。名前が呼ばれたら前に出てきなさい」
国から派遣された黒いローブを着たおっさんは水晶が置かれたテーブルの前に立って鑑定を始める。
鑑定の魔法を持っていなければ鑑定はできないことをエリクは事前に調べていた。
「ドレイク、前に出て水晶に手をかざしなさい」
武器屋の息子であるドレイクのことはエリクもよく知っている。
小さい頃には木で作った剣で剣士ごっこをよくやったことを思い出した。
ドレイクは緊張した面持ちで水晶に手をかざした。
『鑑定』
黒のローブを着たおっさんが魔法を放つと水晶が淡く輝き出した。
『ディスプレイ』
続けて魔法を放ち、鑑定結果が見えるように透明感のある画面をドレイクの前に表示させる。
【初級鍛冶師】
「ほっ。良かった~」
上級鍛冶師の父親の店を継ぐためには鍛冶師にならなければいけなかったため、ドレイクは鑑定の結果を見て安堵の表情へと変わった。
(表示されるのは職業だけか)
上位の鑑定魔法だとより詳細なステータスを確認することができるはずなので、このおっさんは初級の鑑定魔法を使ったのかとエリクは思った。
上位の職業へ転職するにはある程度のレベルにまで達する必要があり、教会にいる神官が転職の儀を執り行うのである。
もちろんエリクはそのことも知っている。
「次はリリア」
次々と鑑定が進められてゆく。
小さい頃から魔法職の冒険者を目指していたリリアが呼ばれる。
『ディスプレイ』
【魔法使い】
「やった!」
リリアの表情はは満面の笑みに変わり跳び跳ねて喜んだ。
この後も順に鑑定が進められ自分が思っている職業とは違う職業になった人もいれば、思っている職業になった人もいる。
7人の喜怒哀楽な表情を目にし、最後にエリクの名前が呼ばれる。
「最後はエリク」
エリクは緊張しながら水晶の前に立ち、手汗をにじませながら水晶に手をかざした。
緊張よりも期待を胸に自信満々な表情で鑑定を受ける。
『鑑定』
(大丈夫。俺は転生者だ…)
エリクは転生前に転生して無双する物語を数多く目にしてきた。
転生はあくまでも物語で実際に転生するというのは架空の話しである。
実際に転生されてしまったエリクは自分も目にしてきた物語のように無双できる職業になると信じている。
『ディスプレイ』
エリクの前に鑑定結果の画面が表示される。
【遊び人】
(あれ?遊び人?何かの間違えじゃ…)
画面に表示されたのは【遊び人】という職業だ。
広場に集まっている人たちも聞いたことが無い職業なのか辺りがざわつき始めた。
「遊び人という職業は初めて見たな。名前からして遊び惚けていれば良いのか。わっはっはっは」
周りに集まっていた人達もおっさんの戯言に釣られて笑いが上がる。
中には哀れな目でエリクを見る者もいる。
(こ、こんなはずでは…)
鑑定したおっさんにバカにされたエリクは青ざめた表情に変わり、その場から走って逃げだしたのであった。