第85話 負の遺産
前回のあらすじ
国内で行方不明事件が起こっている事を知ったユーマ達は、捜査に加わる事を決意する。
城で国王と再会するが、第1王子のヘラルに因縁をつけられるも、国王によって難を逃れる。
しかし、ヘラルが先生と呼ぶ、かつての軍務大臣、ヴィダールがヘラルの教育係であった事を知る。
「まず王族では、複数の子がいた場合、第1王子が王位継承権を優先的に得る傾向がある」
王族などには王位継承権という物があり、その継承権は第1王子が1位となり、第2王子が2位、第3王子が3位という風になり、王女がいた場合は第1王女の順位は最後の王子の後という風になる。
「勿論、第1王子に内面性、つまり学力や人間性と言った部分に問題があった場合、王位継承権は第2、第3王子や第1王女などに移る事がある」
その内面性や実績などを考慮して国王が王位継承権を考え、場合によっては第1王子よりも第2、第3王子や第1王女などが上になる事もあるそうだ。
「現在私達には2人の王子と1人の王女がいます。その内の1人がヘラルなのですが、ヘラルは昔からとんでもない我儘で、何でも自分の思い通りにならないと気が済まない性格でした。対して第2王子のルドルフ、第1王女のアンリエッタは非常に優秀で、この2人が継承権第1位の有力候補と言われていました。しかし、ヴィダールを始めとする過激派は、第1王子だからという理由でヘラルを次期王にしようと彼を持ち上げ、ヴィダールは自らヘラルの教育係に強引に就いたのです」
この話を聞いただけで、もう先が見えてきた。
それは皆も同じだった様で、皆同じ様な反応をしている。
「ユーマさんとラティさんはもう知っていると思いますが、ヴィダールはアルビラ王国が世界を統一するべきだと主張し、他国に戦争を仕掛けようとする過激派の筆頭でした。そして、そのヴィダールの教育を受けた結果、ヘラルのあの性格に拍車がかかってしまい、あの子は度々王都や街に出てはあちこちで揉め事を起こし、第1王子の権力でそれを揉み消してきました。」
「更に頭の痛い事に、ヘラルはヴィダールを心から尊敬し、自分が国王になったらこの世界を統率するべく各国に戦争を仕掛けると豪語するまでになってしまった。国内で好き勝手にふるまい、あちこちで問題を起こす奴に王位を譲る事は出来ない為、現時点では第2王子のルドルフが継承権第1位となり、それに次いで第1王女のアンリエッタが第2位、ヘラルは第3位となっている。そこにヴィダールがあの一件で失脚し奴隷落ちとなり、ヘラルは尊敬する人物を失った事で、あいつはその原因の一つでもあるユーマを憎むようになった」
つまり、あの王子はあの大臣の理想が遺した負の遺産ってやつか。
本当に頭の痛い結果だな。
聞いてただけで、僕も頭を抱えてきたくなってしまった。
というか、それだけの問題っぷりで、よく勘当されていないな。
「あの、それだけの事をしているなら、どうして彼を勘当しないんですか?」
コレットが代表して尋ねた。
「ウム。かつてヴィダールが起こしたユーマ達への襲撃事件を機に、ヴィダールを始めとする過激派の大半は奴隷落ちになった。だが、逆に言い返せば、まだ過激派の者は少数ながらも残っていて、彼らがヘラルを持ち上げており、今あいつを勘当すると彼らが暴走してクーデターが起こる可能性がある為、我々も迂闊に勘当できないのだ」
「あれ? なんかデジャヴかしら? そんな状況、私もつい最近体験したような……」
「コレットさん、きっとレイザードの事よ」
「ああ、成程!」
この状況がつい半年程前までコレットが体験していた状況に似ていたから、コレットとラティはその事を思い出し納得していた。
「だがまあ、今は過激派も迂闊な事は出来ない為大人しくしている。そして当のヘラルも今さっきの件で暫く部屋に閉じ込めておくので、当分は問題が起こる事はないだろう」
だといいんだけどね。
だが、この時の僕の中では妙な胸騒ぎがあった。
その時、玉座の間への扉が開き、2人の男女が入ってきた。
年は12歳程、外見はそっくりで男性は茜色で女性はブロンドの髪、それ以外はほぼ同じ顔、どうやら双子の様だ。
「父上、先程兄上が引き摺られていくのを見たのですが」
「またあの人が何かやらかしたのですか?」
「おお、ルドルフ、アンリエッタ、ちょうど良かった。今お前達を呼ぼうと思っていたのだ」
「こちらの方達に、あなた達を紹介しようと思いましてね」
2人は入ってきた人達を連れてきて、僕達に紹介した。
「紹介しよう、こちらは第2王子のルドルフ・フォン・アルビラ、そしてその双子の妹の第1王女のアンリエッタ・フォン・アルビラだ」
紹介されたルドルフ王子は、さっきのヘラル王子と違って僕達に左胸に右手を置き丁寧にお辞儀をして挨拶した。
「初めまして。アルビラ王国第2王子のルドルフ・フォン・アルビラと申します」
続いてアンリエッタ王女が両手でドレスの裾を掴み、軽く頭を下げて挨拶した。
「皆様、初めまして。アルビラ王国第1王女、アンリエッタ・フォン・アルビラと申しますわ」
僕達も返しで自己紹介した。
「初めまして、王子殿下、王女殿下。冒険者パーティー、銀月の翼のユーマ・エリュシーレと申します。こちらは従魔の竜神のアリアです」
『初めまして。アリアです』
「同じく、銀月の翼のラティ・アルグラースです。こちらは従魔のグリフォンのクルスです」
「グルルゥ」
「クレイル・クロスフォードです。こっちは従魔のフェンリルのレクスです」
「オン」
「コレット・セルジリオンです。こちらは従魔のティターニアのアインです」
「初めまして、アインよ。よろしくね」
「皆様の事は、父上からよく聞いています。特に、ユーマさんとラティさんは、父上が後ろ盾になっていると聞き、是非1度お会いしたいと思っていたのです」
「皆様とは、これからも良きお付き合いが出来ます事をお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。」
この2人はさっきの第1王子と違って、とても話が通じそうだ。
「処で父上、先程の兄上の事ですが、今度は何をやらかしたんですか?」
ルドルフ王子、既にあの王子が原因だと言う事が前提で聞いてきたな。
余程家族からも信用がないみたいだな、あの王子。
国王と王妃が2人にさっきのヘラル王子のやらかした事を話すと、2人とも怒りと呆れが混ざった顔になりながら、僕達に頭を下げてきた。
「申し訳ありませんでした! 我が愚兄がその様な事をしたなんて!」
「本当にごめんなさい!」
2人はまるで自分がやらかした以上に謝罪してきた。
成程ね、これ程に自分の家族が犯した事に責任を感じるその誠実さ。
そして王族であるのに平民に頭を下げる程の謙虚さ。
これが第1王子よりも王位継承権を持つのに相応しいと言われる所以か。
「頭を上げてください。別に、私達は直接危害を加えられた訳ではありませんから」
僕の言葉に、2人はゆっくりだが頭を上げて何かを決意した様だ。
「ユーマさん、これから先兄上が何を言おうと、私とアンリエッタは必ずユーマさん達の味方になります。何か困った時には、ぜひ私達を頼ってください」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
僕はパーティーを代表して、ルドルフ王子と握手した。
同時に僕達は、王族から心強い味方を得る事が出来た。
「そうだ、陛下。先程の第1王子の事で話が逸れてしまいましたが、今回こちらのクレイルとコレットの事で、お願いがあるんです」
僕は陛下に半年前のエリアル王国であった騒動の事を話し、クレイルとコレットはロンドベル国王の後ろ盾を得て、アベルクス陛下にも後ろ盾になってもらいたい事を話した。
一応手紙でその事を書いてはいたが、ちゃんと口でお願いするのが礼儀という物だからね。
「ふむ、話は分かった。他ならぬユーマの頼みならば、聞かなければならぬ。よかろう。このクレイルとコレットにも、私が後ろ盾になる事を約束しよう。何より、あの手紙でそうする事を決めていたのでな」
陛下はそう言い、ホマレフ宰相に僕とラティが貰ったアルビラ王家のメダルを持って来させ、2人にメダルを渡した。
「ありがとうございます。それからもう1つ、伝えておきたい事があります」
僕はお父さん達から聞かされた、行方不明事件の事も話し、お父さん達は大物貴族などが情報操作している可能性があるという事を伝えた。
「成程。その行方不明事件なら、当然私達の下にも話が入っている。しかし、半年経っても何も手掛かりが得られない事で、徐々に国民にも不安が広がっているのは確実だ。こんな時何も力になってやれないのは、王族として情けない話だな」
陛下や王妃、ルドルフ殿下やアンリエッタ殿下は何も手掛かりを知らないみたいだった。
しかし、王族にまで情報が入ってないとすると、やはり貴族や裏組織が関わっている可能性が高くなってきたな。
「では、明日から私達も捜査に加わります。何か手掛かりを見つけたら、ギルドに報告しますので、それを陛下達にも知らせるよう、お願いしますから」
「分かった、宜しく頼む」
僕達は王城を後にし、軽く王都で買い物をした後、家に戻った。
家に戻った後、お父さん達に第1王子の事を話したら、どうやらお父さん達もあの王子の滅茶苦茶っぷりの事を知っていたらしく、「あれはもう、どうしようもないかもな」とか呟いていた。
あの第1王子、もしかしたら、もう引き返せない所まで堕ちているのかもしれないな。
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その夜、とある場所のとある部屋で、1人の人間がある男の下に来た。
「報告します。本日城に訪れたあの4人の平民は、明日から行方不明事件の調査を行うらしいです」
「そうか。このタイミングであの平民共が帰って来たのは予想外だったが、まさかこの事件の調査に加わるとはな」
「調べによりますと、竜神を従魔にしている方の雷帝という男は、かなり聡明な男だという情報があります。このままではいずれ、足を掴む可能性もなくはありません」
その言葉を聞いた男は苦虫を噛み締めた様な表情になった。
「それは絶対にダメだ。半年掛けてやっとの事でここまで計画を進めて来られたのだ。今ここで実行者共の所まで辿り着かれると、全てが水の泡だ。何としても、奴らに先を越されてはならん」
「お任せ下さい。私共がこれまでと同様変わらず情報操作をし、あなた様より先に辿り着かない様にしますので」
「任せるぞ」
「はい」
その男は部屋から去り、残ったのは報告を聞いた男だけになった。
「何としてもこの計画を成功させるのだ。この私が次期王になる為にも」
その男――ヘラルは窓から月に照らされた夜空を見上げて、そう呟いた。
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次回予告
事件の情報を求め、王都のギルドを訪れる銀月の翼。
そこで、事件の成り行きを聞かされる。
次回、情報収集




