第84話 王城で
前回のあらすじ
実家へ里帰りしたユーマ達は、久し振りに再開した家族や仲間と団欒の時を過ごす。
そして、銀月の翼の噂が一部尾鰭がつきながら、アルビラ王国にも届いている事を知る。
「行方不明ですか?」
「ああ。半年程前――丁度ユーマ殿達がエリアル王国のスタンピードを鎮圧させて暫くした頃から、この王都を始めとした各街で行方不明者が出ているのだ」
ゼノンさんから告げられたのは、行方不明事件だった。
「その街の冒険者や騎士達も協力して誘拐の線も含めて捜査しているんだけど、その人達の行方は未だに不明でその足取りも掴めないの」
「俺達も調査に加わってはいたんだが、手掛かりは何も掴めなかった」
「Sランクの俺達でも足取りが掴めないという事は、おそらくかなりの大物貴族とかが裏で手を引いている可能性が高い」
お父さん達の調査結果や、ダンテさんの推測を纏めると、確かに大物の貴族や裏組織なんかが絡んでいそうだな。
「分かりました。明日、王城で国王陛下に会った時に、一緒に聞いてみます。何か情報があるかもしれないし、その後は僕達も捜査に参加します」
『私達にお任せ下さい』
「あたし達の故郷で悪さするなんて、絶対に許せないわ!」
「グルルゥ」
「ユーマ達の故郷なら、家族の俺達が手を出さない訳ないしな」
「オン!」
「私達も協力しますよ!」
「あたし達なら必ず見つけられるわ!」
僕達は捜査の協力を引き受けた。
「ありがとう。ユーマ達が一緒なら心強い」
こうして、僕達は里帰りして早々に今後の予定を決めた。
――――――――――――――――――――
翌日、僕達は王都に行き、王城へ赴いた。
門番には、僕とラティが持っているアルビラ国王のメダルを提示した事で、すんなりと城に入る事が出来たので、僕達は玉座の間へと通された。
そこには、アルビラ国王と隣に茜色の髪をした女性の姿があった。
「おお、ユーマにラティか。久し振りだな」
僕達は国王の前で膝をつき、挨拶をした。
「お久し振りでございます、国王陛下」
「お久し振りでございます」
クレイルとコレット、それにアリア達従魔組も頭を下げ、国王に挨拶をした。
「ウム、お主達の活躍は聞いているぞ。エリアル王国を救った英雄と呼ばれているらしいので、後ろ盾となっている私も誇らしくある。そして、友であるロンドベルを救ってくれて、感謝する」
すると、先ほどの茜色の髪の女性が国王の傍にやってきた。
「あなた、挨拶はその辺にして、私も自己紹介をしてよろしいでしょうか?」
「おお、そうであったな。紹介しよう。私の妻であり、アルビラ王国王妃、ヴィクトリア・フォン・アルビラだ」
「初めまして、ヴィクトリアと申します。ユーマさん、ラティさん、漸くお会いできましたね」
確かに言われてみると、王妃に会うのはこれが初だな。
アリア達の事で後ろ盾になって貰う為に始めて国王に会った時も、旅立ちの前のあの過激派大臣の件で会った時も、いずれも王妃の姿はなかった。
「初めてなのも仕方ないですわ。何しろ、あなた達がここを訪れた時はいずれも、私は子供達を連れて他国へ赴いていたのですから」
ああ、そういう事か。
確かにそれなら、会えなかったのは納得だな。
それに、子供も一緒だから、今までは国王だけにしか会っていなかったという訳か。
「だからこうして、あなた達に会えて嬉しいわ。これからもよろしくね」
この王妃様はかなり親しそうに接してきて、僕達に手を差し出した。
僕達はそれに応じて、順番に握手をして、各自自己紹介をした。
その時、玉座の間の扉が勢いよく開かれた。
……なんだろう、今デジャヴを感じたぞ……。
現れたのは、国王と同じブロンドの髪を後ろに1本に纏めた16歳程の裕福そうな身なりの男だった。
だが体形は、所謂甘やかされボディという奴で、服越しでも腹がかなり出ているのが分かる。
「父上!!」
突然怒鳴り込んできた男を見て、国王も王妃も揃って額に手を置き、溜息を吐いている。
それに、いま彼が言った「父上」という言葉から察するに……
「何だ、ヘラル?」
「『何だ?』ではありません! この神聖な城に、何故薄汚い平民の冒険者を招いているのですか!!」
ヘラルと呼ばれた男の返事は、いきなりの暴言だった。
しかも、そいつは僕達を、正確には僕、ラティ、アリア、クルスを見ると、僕には憎悪の籠った視線を、ラティ達には欲望の籠った視線を送り、再び僕に憎悪の視線を向けて怒鳴ってきた。
「貴様だな! 伝説の竜神を従魔にしただけではなく、ヴィダール先生を鉱山行きにした卑劣なる平民というのは!」
彼の口から出て来た人物の名前は、僕達にとって色んな意味で忘れられない名前だった。
ヴィダール、かつてはこのアルビラ王国の王家に仕える軍務大臣で、アルビラ王国こそがアスタリスクを統一するべきだと戦争を主張する過激派の筆頭だった男だ。
彼は僕らが5歳の時に従魔召喚で出会ったアリアとクルスの存在に目を付け、2匹を軍事利用しようとしたが、既に僕達の後ろ盾となる事を決めていた国王によってその目論見は打ち砕かれた。
だが、彼は諦める事無く、10年後に僕達が冒険者登録をした後、僕達に接触して僕達に奴隷の首輪を嵌めてアリア達を手中に収めようとしたが僕達に返り討ちに会い、最後は国王の言葉に背き、更には国民を愚弄するなどの多くの罪で身分を剥奪され、鉱山奴隷となった。
そして、この男はヴィダールの事を「先生」と言った。
という事は、彼と彼あいつの関係は察するに……
「本来なら極刑にしたい所だが、そこの女と、竜神、特異種のグリフォンを私に差し出せば、特別に許してやろう」
……は?
この男は今何を言ったんだ?
「その女は体つきは中々の逸材だ。夜は存分に可愛がってやろう。それにその竜神とグリフォンはとても知能が高いと聞く。私が有効に使ってやろう。無論タダで渡せとは言わん。代金として白金貨30枚を払ってやろう。どうだ?」
男は勝手に話を進めて好き勝手言ってる。
まだ僕は返事をしていないのに、このヘラルという男は一方的に話を進めた。
国王と王妃も何かを言おうとしたその時、
「おい、いきなり出てきて、他人の婚約者と従魔を差し出せとか、あんた何様だよ」
クレイルが睨みつけながら前に出て来た。
普段なら揉め事は僕やコレットが止める所だけど、今回は僕もかなりイラついてきたので止めずにいる。
「貴様! 薄汚い獣人風情がこの私に対して、その口の利き方は何だ! 私はこの国の第1王子のヘラル・フォン・アルビラだぞ! 本来なら、貴様らの様な生きる価値のない薄汚い冒険者如きが見る機会すらない存在なのだ! 分かったらとっとと跪け!」
やっぱりこの男の正体は王子、つまり王族だったのか。
それならこの横暴な態度はあらゆる面で納得できる。
でも、それをあの王が許すかどうかは話が別だ。
「いい加減にせんか、ヘラル! さっきから黙って聞いていれば、その態度は何だ! それに人の婚約者である女性を奪い取ろうとするとは、それが一国の王子のする事か!」
案の定、国王が彼の行いに憤り、強く怒鳴った。
「そうですよ。しかも、他人の婚約者と従魔をお金で奪い取ろうなどという考え、その様な非道が許されると思っているのですか?」
王妃も正論を突き付け、ヘラル王子は一瞬怯んだ。
「ちっ……父上、母上、何故その者を庇うのですか? その平民はあのヴィダール先生を冤罪で奴隷落ちにし、更に平民の分際でEXランクの竜神を従魔にするなど、とても許せるものではありません! なのに何故!?」
この男、頭の中はどうなっているのかな?
僕があの大臣を冤罪で奴隷落ちにした?
それはとんでもない誤解だぞ。
よく見ると、国王は頭を痛そうに抱えている。
「その事にはもう何度も説明をしたのだがな……こうなってはもう何を言っても無駄なのかもしれん。だが、今はこの事が先だ。ヘラルよ、お前に暫くの謹慎を言い渡す! 誰か! ヘラルを今すぐにここから連れ出せ!! そして暫く自室から一歩も外に出すな!!」
国王の言葉と共に、兵士が数人現れ、ヘラル王子は彼らに両脇を抱えられ連れ出された。
その動きには迷いが一切なく、容赦なくにだ。
まるでヘラル王子には忠誠を誓っていない様にも見える。
「離せ貴様ら! まだ話は終わっていないのだぞ! ええい、離せ!」
ヘラル王子が連れだされ、漸く静寂が訪れた。
同時に、国王と王妃が深い溜息を吐き、僕達に頭を下げた。
「ユーマよ、まずは私達の息子が迷惑を掛けた事をお詫びする。申し訳なかった」
「本当にごめんなさい」
なんだか、国王の王妃もあの王子にかなり悩まされている様だ。
「あの、あのヘラルってどんな人なんですか? ヴィダール元大臣の事を先生って言っていたし、僕が彼奴を冤罪で奴隷落ちにしたって」
「うむ。まず先程奴が言った通り、ヘラルはこの国の第1王子だ。そして、ヴィダールはこの国の元軍務大臣であると同時に、ヘラルの教育係でもあったのだ」
なんだか、行方不明者の調査をする前に、また面倒な事に巻き込まれそうな予感がする。
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次回予告
国王から王家に関する事を聞かされるユーマ達。
そして、第1王子とヴィダールの関係を聞かされる。
次回、負の遺産




