幕間 その頃 アベルクス国王
ユーマ達がロストマジックの修行を開始して数日、ユーマ達銀月の翼の活躍は、瞬く間に世界各地へと広がっていた。
中でもそのスタンピードが起こったメビレウス大陸内にある国は、特にその噂が広がるスピードが早かった。
その噂は、アルビラ王国の王城にも届き、この男の耳にも入っていた。
「フム。エリアル王国で発生したスタンピードは、古竜の三つ首竜を始め、総勢1万を超える魔物の軍勢だったが、エリアル王国に訪れていた4人の英雄によって鎮圧。その英雄は、伝説の竜神、フェンリル、ティターニアの3体のEXランクの魔物に加え、Sランクのグリフォンを従魔にしていて、見た事もない魔法の数々で魔物を一掃、加えてそれぞれが各所の遊撃に回り、グリフォンを従魔にした人族の少女が3体のキング種を、フェンリルを従魔にした狼人族の少年がハイミノタウロスを、ティターニアを従魔にしたハイエルフの女性が5体のトロールを、そして竜神を従魔にした人族の少年が古竜の三つ首竜を単独で討伐。これらの活躍により、此度のスタンピードでは死者を0人にして鎮圧に成功……か」
その男、アルビラ王国国王、アベルクス・フォン・アルビラは手元の報告書に目を通し、内容を声に出して読み上げた。
「左様でございます。更に、ロンドベル国王はその褒美として、その英雄の後ろ盾になる事を公表したとの報告も上がっています」
報告書を持ってきた宰相のホマレフは、英雄のその後の事も報告していた。
「フム。ホマレフよ、この4人の英雄の内、竜神とグリフォンを従魔にした人族の少年と少女だが、やはり私の予想通りだろうな」
「はい。陛下の予想通り、ユーマ様とラティ様で間違いないでしょう」
「やはりそうか。だが、それもそうだな。グリフォンなら兎も角、世界に1体しか存在しない竜神を従魔にしている者など、ユーマしかいないしな」
アベルクスの脳裏には、自分が後ろ盾になると宣言し、数カ月前にその後ろ盾を意味する王家のメダルを授けたユーマとラティの姿が浮かんでいた。
「あの2人は心の優しい者達だ。おそらく、この死者0人も、彼らが誰1人死なせないという決意と覚悟の下にできた結果なのだろう」
「そうですね。しかし、アリア殿とクルス殿の正体を公にするという代償を払った以上……」
「無論、それを利用しようとしたりする輩が現れるだろう。だが2人はそれを承知の上で2匹の正体を明かしてまで戦い、そしてこの結果を出した。2人には後悔などないだろうな」
まさに2人の事を理解しているが故の推測をしたアベルクスだった。
「しかし、この報告にあった獣人の少年とハイエルフの女性は、2人の仲間なのだろうか?」
「はい。別の報告書によりますと、その獣人の少年はヴォルスガ王国で御二方と出会い、親睦を深めた事で仲間になり、ハイエルフの女性はその獣人の少年の知り合いで、その方の許を訪ね、パーティーを臨時的に組んだそうです」
「成程な。確かに仲間でなければ、従魔に秘密を抱えたあの2人がパーティーを組むというのはまずないだろう。それに、フェンリルとティターニアは竜神と同様EXランク。その共通点があれば、2人の仲間になるという選択肢も生まれたのだろう」
アベルクスはその報告書にあった獣人とハイエルフの男女、クレイルとコレットの情報も頭に入れつつ、ユーマ達の仲間になった経緯を推測していた。
「して陛下、こちらはそのユーマ様から届いた手紙でございます」
「ほう、そうか! では早速読むとしよう」
「陛下、報告書の方は?」
「そんな物、とっくに全て目を通し終えた。さあ、手紙をこちらに」
アベルクスの机の上には、目を通した報告書とまだ見ていない報告書の、2種類の山が積まれていたが、ホマレフが気付いた頃には全て読み終えた方だけの山が出来上がっていた。
「いつの間に……ですが、全て読んだのならいいでしょう。ではこちらです」
アベルクスはホマレフから受け取った封筒を開き、中の手紙を広げて読み始めた。
「フムフム」
手紙は全部で4~5枚の便箋だったが、アベルクスは僅か3分程で読み終え、手紙を綺麗に折りたたみ机へと置いた。
「陛下、どうでしたでしょうか?」
「私の推測通りだった。この手紙には、その獣人のクレイル殿と、ハイエルフのコレット殿の事が書かれていた。2人共、同じEXランクの魔物と適合したという共通点からユーマ達と仲良くなり、先日まで臨時パーティーだったコレット殿も今では、ユーマとラティのパーティー、銀月の翼に正式に加入したとの事だ」
「そうでしたか。では陛下、もしユーマ様達がこの国に帰ってきたら、そのクレイル様とコレット様の後ろ盾にもなるのですか?」
「無論だ。従って、ホマレフよ。いつでもユーマ達がここを訪れた時の為に、王家のメダルを2人分、用意しておいてくれないか」
「畏まりました」
ホマレフはその部屋を去り、アベルクスは1人、静かに椅子に座っていた。
「しかし、あの2人も立派になった様だな。初めて会った時はまだ小さい子供だったというのに……」
アベルクスは瞼を閉じながら、ユーマとラティと初めて会った時の事を思い出していた。
「また再び会える時を楽しみにしているぞ。ユーマ、ラティ」
アベルクスは2人と再会する時を楽しみしながら、暫くして次の仕事に取り掛かるのであった。
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