第75話 全力の拳と爪
前回のあらすじ
デスペラード騎士団と合流したラティは、途中3体のキング種と遭遇する。
騎士団を別の戦場へ移動させたラティとクルスは、3体のキングに圧勝する。
クレイルside
皆と別れた俺は、レクスと一緒に戦場をあちこち走り回っては魔物を仕留めてはまた走り、仕留めてはまた走ると言った事を繰り返している。
レクスもその前脚の鋭い爪を振るう度に、次々と魔物を両断して仕留めている。
レクスは俊敏性が高い狼系の魔物で、更にEXランクのフェンリルだから大概の魔物は一撃で倒せる。
俺も得意の身体強化と無属性魔法の加速魔法の重ね掛けでの超加速で、オリハルコン級に硬質化させたメルクリウスで打ち付けると、一撃で頭を潰せて仕留められるから、俺達は一撃離脱を繰り返して戦場を走り回っている。
その際メルクリウスの魔力回復効果で、俺は魔力の消費を一定に維持した状態で戦えている。
「しかし、この辺りははっきり言って雑魚ばっかだだな」
「ウオォン(そうだな。もっと手応えがあるのと戦いてぇ)」
「ああ。せめてキング種位じゃないと、俺達も燃えてこないな」
そう言いながらも、俺とレクスは戦場を駆けながら遊撃を続けていた。
そして大分奥まで先行した時、俺の前方にある魔物が目に入った。
「レクス、あそこに何かでかいのがいるぞ」
それは、牛の頭に筋骨隆々の体を持つ、4メートル近くはありそうな人型の魔物だった。
「こいつは確か、ミノタウロスだったか? でもこいつは話で聞く奴とはなんか違うな」
ミノタウロスはBランクの魔物で、強靭な肉体による圧倒的なパワーと、突進力による直線的なスピードに優れた魔物だ。
しかも知能も発達していて、手に持った棍棒で攻撃もして来るからその分かなり厄介な魔物だ。
だが、こいつが持ってるのは棍棒じゃなくて斧……確か、バトルアックスだったか。
しかも4メートルはあるあの巨体に見合う巨大な斧。
そして何より、ミノタウロスは確か3メートルくらいの筈なのに、こいつはそれよりも大きかった。
「ウオォン!(こいつはただのミノタウロスじゃない! より知能が発達したミノタウロスの上位種、ハイミノタウロスだ!)」
成程、ミノタウロスの上位種か。
確か、このスタンピードで発生した魔物の中には古竜がいるって話だった。
という事は間違いなくその古竜が最強の魔物だから、こいつは少なくともそいつよりは下って所だな。
それでもこのスタンピードで発生した中では、一際強い奴だってのは確実だ。
「決めたぜ。こいつは俺達が貰う」
「オン!(そう来なくっちゃな!)」
俺とレクスの気迫を感じたハイミノタウロスは、フェンリルのレクスがいるのにも関わらずにその馬鹿でかい斧を振り被って、そのまま振り下ろしてきた。
俺達は難なく躱したが、その斧が振り落とされた場所はそこを中心に巨大な亀裂が入っていた。
「おいおい、初撃でこの威力か。こりゃ、上位種だって事を踏まえても、確実にAランクはあるな」
それに、俺がもう1つ驚いているのは、自分より遥かに上位の、それも最強ランクのレクスがいるのにも関わらず、こいつは恐れを抱かずに攻撃してきた事だ。
そういえや、コレットが言ってたな。
スタンピードで発生した魔物は破壊衝動しか持っていなくて、それ以外の感情は持っていないって。
つまり、こいつには恐怖心なんて物はないから、レクス相手にも全力で攻撃できるって訳だ。
「まあ、俺達的にはかえって好都合だな」
「ウオォン(そうだな)」
こいつは恐怖心がない分、俺達から逃げるなんて事はない。
つまり、負けそうになっても後退したりしないで何度でも向かってくるって事だ。
だから、レクスも俺も思う存分暴れられる。
「レクス、久々に本気で行くぜ。思いっきりやれ!」
「オン!(その言葉を待ってたぜ!)」
俺とレクスはハイミノタウロスに向かって駆けだし、途中俺は加速魔法の3段階まで加速した。
レクスも本気で走ってるから、そのスピードはまさに神速だ。
ハイミノタウロスは目の前の俺達の姿を捉える事は出来ず、俺の加速した右ストレートとレクスの爪による切り裂きで、左肩に強い衝撃と右腰を切り裂かれて2回に分けて吹き飛んだ。
だが、奴の鎧の様な筋肉のお陰でレクスの爪を受けてもある程度は平気だったのか、斧の柄を杖にして立ち上がった。
それでもレクスの爪撃の効果はあり、裂かれた腰からは滝の様な血が流れ、俺に殴られた左肩は完全に砕けている様だった。
その証拠に左腕が肩からブラーンと下がっている。
奴は片手で斧を短く持って突進してきた。
成程、ああして斧を短く持つ事でリーチを削った代わりに片手で振り抜ける様にして、俺にダメージを与える算段か。
やっぱ上位種だけあって、その辺の知能は高いようだな。
「いいぜ。なら望み通り、真っ向から受けてやるよ!」
その宣言と同時に、俺は全身に炎を纏った。
「バーニングエンチャント!!」
俺はユーマの十八番の複合強化(炎属性バージョン)を発動させた。
実はこのヴォルスガ王国を出てから、俺はユーマに頼んで複合強化を教えて貰っていたんだ。
俺の戦い方は複合強化とも相性が良さそうだったからな。
結果は予想は的中し、こいつを覚えたら俺の戦闘力は益々上がって、それからあいつにみっちり叩き込んで貰った。
ユーマは自分に最も適性のある雷属性の複合強化だが、俺の場合はスピードは加速魔法で補える為、パワー重視のバーニングエンチャントを多用している。
俺はメルクリウスに魔力を流し、オリハルコン級まで強度を上げ、その右手に炎の魔力を籠めて炎の拳を作り上げた。
そして、奴の斧と俺の拳が激突する。
「イグニートブラスト!!」
紅蓮の炎を纏った拳が奴の振り下ろされた斧と衝突して、辺り一帯に衝撃が走った。
イグニートブラスト、バーニングエンチャントで強化したメルクリウスで攻撃する、打撃系の攻撃魔法だ。
俺達の一撃は一瞬だけ拮抗したがすぐに決着が着いた。
奴の斧の俺の拳が当たった箇所に亀裂が入り、そのまま斧は粉々に砕け散り、俺の拳は降り抜くと同時に奴の鳩尾にめり込んだ。
その一撃で拳から奴の骨を砕く感触が伝わってきた。
一旦腕を引きバックステップで下がると、ハイミノタウロスは今にも倒れそうだったけど辛うじて立っていた。
だが、既に意識は朦朧としいた。
「この一撃を受けてまだ立っていられるか。でもな、もう終わりだぜ。レクス、止めを刺すぞ!」
「オン!(了解!)」
俺は先に走り出したレクスに続いて駆けだし、レクスは俺が今一撃を入れた箇所に魔力を流した爪を振り下ろし、そこに左から右斜め下へと真っ二つにするくらいの深い爪痕を入れて、ハイミノタウロスの体はギリギリ背中の皮膚だけで繋がっている状態だった。
更に時間差でそこから大きな血飛沫が上がった。
「これで最後だ!! メテオストライク!!」
さっきのイグニートブラストよりも炎の勢いも熱量も上の、更に加速魔法による超速の正拳を繰り出し、その爪痕に追い打ちをかける様に決まった。
メテオストライク、イグニートブラストと同様にバーニングエンチャントによる打撃系の魔法だが、加速魔法による超速の勢いが追加されて、威力を倍増させた、俺の最強魔法の1つだ。
ハイミノタウロスの体を貫通する様な衝撃が走り、ハイミノタウロスは遂に傷口から胴体が半分に千切れ跳び、真っ直ぐに吹き飛ばされ、辺りにいた魔物も巻き込んでいった。
追いかけてみると、そこには完全に息絶えたハイミノタウロスの死体があった。
その周囲に吹き飛ばされたこいつの上半身と下半身に巻き込まれた魔物の死体が転がっていた。
「よし。どうやら完全に死んでいるみたいだな」
俺は必要ないと思ったが、念の為に指で体を突いたりして、ハイミノタウロスが完全に死んでいるかを確認した。
まあ普通なら死んでいるのは誰でも分かるが、中には体を切断されても生きている魔物もいるくらいだからな。
「とりあえず、こいつは俺の収納魔法に入れておこう。ユーマなら、こいつの肉を上手く調理してくれる筈だからな」
「ウオォン!(こいつはきっと脂がのっていて美味いと思うぜ!)」
俺は収納魔法にハイミノタウロスの上半身と下半身を入れて、ついでにこいつに巻き込まれた魔物の死体も収納した。
「これで良しだ。魔物の数も大分減っているな。このまま一気に片付けるぞ!」
「オン!(オッケー!)」
俺とレクスは再び駆け出し、遊撃を再開した。
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魔物情報
ミノタウロス
牛の頭部と人型の体を持つ獣種の魔物。Bランク。筋骨隆々の体に相応しいパワーを持ち、その強さはBランクの中でも指折りの強さを持つ。武器に棍棒を持ち、加えて牛の突進力を持っており、その強さは直線的な能力で発揮される。討伐証明部位は角。
ハイミノタウロス
ミノタウロスの上位種でAランクの魔物。通常のミノタウロスは3メートル程だが、ハイミノタウロスは4メートルの巨体を持ち、武器も棍棒ではなくバトルアックスになっている。知能も発達しており、常に自分の力がフルに生かせる戦い方を考える事も出来る。討伐証明部位は角。
次回予告
エリアル王国騎士団と合流して戦うコレットとアイン。
2人の前にも特に強力な魔物が複数現れる。
次回、規格外な魔法




