第74話 キング×3
前回のあらすじ
仲間と別れたユーマはアリアに乗って最前線のど真ん中へと飛ぶ。
冒険者の人達を助けつつ、アリアと共に下級竜種を一掃する。
ラティside
ユーマくん達と別れて、あたしはクルスに乗ってデスペラード騎士団の人達と合流して魔物と戦っている。
「シャイニングジャベリン!!」
今目の前にオークが現れたけど、あたしの放った光の槍に喉を貫かれて仕留められた。
「グルルルルルルゥゥゥ!」
クルスも身体強化でオークやコボルトの群れに飛び込み、その爪や嘴で首を刎ねたり、心臓部の魔石を貫いたりして仕留めている。
「クルス、そのまま辺り一帯の敵を薙ぎ払って!」
「グルルゥ!」
クルスは翼を大きく羽ばたかせて竜巻を発生させ、辺りにいた魔物を真空の風で切り刻んでいった。
「すまない、助かるよ」
側にいたデスペラード騎士団のエルフ隊の隊長のエルフの男性が声を掛けた。
「気にしないでください。それよりも、この辺りにゴブリン、コボルト、オークがこんなにいるなんて、おかしくありませんか?」
「そうだな。しかも、君のグリフォンが今倒した中には上位種もいる。これはもしかすると」
「隊長! 敵の中から一際大きな魔力反応が3つ確認されました!」
隊長の近くにいた探知魔法の使い手の騎士が報告したのと同時に、あたし達はその方角に警戒を強めた。
すると、魔物の群れから姿を現したのは、ゴブリンキング、コボルトキング、オークキングの3体のキング種だった。
「くっ……!? まさかと思っていたが、よりにもよってキング種が固まって行動していたとは!?」
確かに、ゴブリンキングとコボルトキングは共にBランク、オークキングはAランク、しかも3体の周りには各種のジェネラルが付き従って、その総数は30程。
これは普通ならかなりヤバい状況よね。
でも、あたしとクルスなら。
あたしとクルスは騎士団の人達の前に立ち、杖を構えた。
「皆さん、ここはあたしとクルスが引き受けます。皆さんは他の所に援軍に行ってください」
「馬鹿な!? 君1人に任せるなんて、そんな事できるものか!」
「心配しないでください。あたしなら大丈夫です。それにクルスもいますから」
「グルルゥ!」
クルスも自分に任せろと喉を鳴らして主張した。
「……分かった。でも、決して無理はするな。本当に無理だと分かったら、すぐに離脱するんだ。無理をして命を落としては何もならんからな」
「分かりました。後はあたし達に任せてください」
「グルゥ」
隊長さんは部下を纏めて他の押されている所に向かって移動を始めた。
キング達はクルスがいるのに関係無しに武器をかざして突撃してきている。
「クルス、ジェネラル達を先に片付けましょう。あなたは同時にキングを牽制しつつ、適当にあしらって」
「グルルゥ」
クルスはあたしの無理難題ともいえる指示に頷き、キング達に向かって飛び掛かった。
キング達はジェネラルをけしかけて来たけど、クルスは身体強化を掛けた状態で突進してきたから、ジェネラル達は止める事が出来ずキングへの接近を許した。
「隙だらけよ! クリムゾンヘルフレア!!」
クルスによって陣形がガタガタになった隙を狙い、あたしは火属性の最上級魔法を唱え、紅蓮に燃え盛る炎の波がジェネラル達を飲み込んだ。
クリムゾンヘルフレア、炎属性の最上級魔法で、極限まで高めた火属性の魔力を解放して放った、紅蓮の炎の波で辺りの物を全て焼き尽くす魔法よ。
その炎に何とか飲み込まれずに済んだゴブリンジェネラルとコボルトジェネラルが手に持った剣と槍を構えて向かってきたけど、完全に回避できなかった様で、体の一部が燃えて焦げていた。
「残念だけど、これも想定内なの! 止めよ! グランドスネーク!!」
あたしはエンシェントロッドを地面に突き刺して魔力を流し、地中から飛び出した岩でできた大蛇がゴブリンジェネラルの首に噛みつきその肉を噛み千切り、続いてその牙がコボルトジェネラルの首を貫いた。
グランドスネーク、土属性の最上級魔法で、地面に注いだ魔力で辺りの大地を操作して生み出した土と岩でできた大蛇で攻撃する魔法よ。
2匹は何が起こったのか分からないまま、大量出血で絶命した。
「これで残るはあの3体ね」
視線をやると、そこにはクルスに翻弄されて、更に連携も碌に取れていない3体のキングがいた。
「でもまあ、クルスを相手に引け腰にならず戦っている辺りは、流石はキング種といった所ね」
クルスはSランクのグリフォンで、更に特異種だからランクが1つ上がりそのランクはEXランク。
通常種とは力も魔力も桁違いだから、それなりの知能を持った魔物ならその迫力に負けて逃げる筈だけど、スタンピードで生み出された魔物は破壊衝動しか持っていないってコレットさんから教えて貰っているから、あのキングには恐怖心なんてものはないのね。
だから配下のゴブリン達も恐れを抱かずに向かってきたり、クルスを迎え撃とうとした。
それに、破壊衝動しかないから、女のあたしを見ても、ゴブリンキングとオークキングは盛ったりせずにクルスと戦っているのね。
「でも、配下が全滅した今、あたしも思いっきりやれるわ!」
あたしはエンシェントロッドに魔力を籠め、魔法の発動準備に入った。
この戦いでは最初の一撃に最強魔法の八岐大蛇を使い、それからも最低でも中級以上の魔法を連発している。
そして今の最上級魔法の2連発で、あたしの魔力は尽きようとしている。
魔力を回復しようにも、敵もポーションを飲む様な隙を与えてくれる訳じゃない。
だけどここで、あたしは無属性の固有魔法、貯蔵魔法を使う。
メインの魔力が満タンになった後に溜まる、予備の魔力タンクから魔力を流すイメージをしたら、あたしの尽きようとしていた魔力が復活し、また魔法が撃てる様になった。
だからまだまだあたしは戦い続ける事が出来る!
「クルス、下がって! クリムゾンヘルスピア!!」
さっきジェネラル達に放ったクリムゾンヘルフレアの魔力を圧縮して形成した紅蓮の槍を無数に放ち、クルスはそれに合わせてあたしの所に後ろ向きに、つまりバックステップで跳んで戻ってきた。
それと同時に3体のキングに滅多打ちで魔法が命中し、爆炎の中から体の半身が炭と化したキング達が現れた。
まだ生きているけど今の魔法がかなり効いているようで、腕や足が吹き飛んだり息も絶え絶えだった。
「グルルルゥ!」
クルスは自分が止めをして来ると言わんばかりに駆けだそうとしてるけど、あたしはクルスの頭に手を置き撫でながら制する。
「待ってクルス。折角だから、あたしが止めを刺すわ」
「グルゥ」
あたしはクルスの前に立ち、杖を構えた。
「仮にも、あなた達はキングと呼ばれている存在。だからそれに敬意を表し、最高の魔法で終わらせるわ」
エンシェントロッドに流した魔力を圧縮し、巨大な魔力に集束した。
「ニブルヘイム!!」
杖から触れただけでも一瞬で凍り付きそうな冷気の魔力波が放たれ、3体のキング、それからその後ろにもいた後続の魔物達を飲み込んだ。
ニブルヘイム、氷属性の最上級に位置する凍結魔法。
辺り一面にある草木や生物を一瞬にして凍結させる魔法で、その凍結速度から防御が難しい強力な魔法。
加えて凍結した生物は一瞬にして心臓が止まる為、相手からすれば何が起こったか分からないまま絶命してしまう恐ろしい魔法でもある。
魔法の放出が終わると、そこには魔法を受けた時の姿勢のままのキング達の氷像が出来ていた。
ついでにその後ろも後続の魔物達の氷像が縦にズラッと並んでいた。
この方角には味方はいなかったから放てた為、ニブルヘイムを放った場所は氷の世界へと変わっていた。
「あっ、いけない!」
「グルゥ?」
あたしの声にクルスが「どうしたの?」という感じに鳴いた。
「この魔法だと倒した魔物の素材が取れない。キングの素材、それも3体分が駄目になっちゃった」
そう、氷属性の魔法、特に凍結系の魔法は確実に魔物を仕留める事は出来るけど、その代わり外側と内側を完全に凍り付かせてしまうから、素材をダメにしてしまう事が多い。
だから唯一無事な魔石は回収できるけど、皮や鱗、それにお肉といった素材は取れない為、凍結系の魔法は直接仕留める事には向いていない。
氷属性の魔法での戦闘で素材も確保するなら、氷の槍とかそういう氷でできた武器で倒すしかないけど、
「まあいいか。キングの死体は回収して、後で魔石を取り出せばいいかな」
あたしは気にも留めず、すぐに3体のキングの氷像を収納魔法に収納した。
「これで良しと。さあクルス、このまま一気に残りの魔物を殲滅するわよ」
「グルルゥ!」
あたしはクルスの背に乗って、さっきのデスペラード騎士団の人達を追う事にした。
それからは、負傷した人達を回復魔法で治しつつ、攻撃魔法で魔物を仕留め、魔力が減ってきたら貯蔵魔法で回復したりと、その繰り返しであたしは戦っていた。
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魔物情報
ゴブリンキング
ゴブリンを統率するキング種のゴブリン。Bランク。本来のゴブリンは1メートルほどの大きさだが、ゴブリンキングは3メートルに達する大きさを持ち、知能や力もそれ相応に発達している。また生殖能力もずば抜けており、ゴブリンキングの納める集落に連れて来られた女性は最悪の一言という事になる。討伐証明部位は右耳。
オークキング
オークを統率するキング種のオーク。Aランク。5メートルを誇る巨体を持ち、手にはその巨体に合った巨大な武器を持っている。生殖能力はゴブリンキング以上で、オークキングが納める集落に連れて来られた女性は、抱かれるくらいならと自害してしまった実例も存在する。討伐証明部位は下顎の牙。
ゴブリンジェネラル
ゴブリンキングの側近を務めるジェネラル種のゴブリン。キングほどではないけど、それでもその大きさは2メートルに達する。知能も優れており、キングからの命令を忠実にこなす事が出来る。討伐証明部位は右耳。
オークジェネラル
オークキングの側近を務めるオークの指揮官的な存在。Bランク。津城のオークより1回りから2回りほどの大きさを持ち、自身も戦闘力が高く、知能も発達し、集落の規模によってはオークのリーダーである場合もある。討伐証明部位は牙。
次回予告
レクスと共に各地を回りながら遊撃を繰り返すクレイル。
やがて2人は特に強力な魔物を発見し、それを仕留めるべく戦う。
次回、全力の拳と爪




