第73話 最強の援軍
前回のあらすじ
スタンピードの戦いに参加したユーマ達は、自分達の持てる力をすべて出す決意をする。
そしてユーマとラティの最強魔法と、正体をさらしたアリアとアインによって、1万はいた魔物を500未満まで減らす事に成功する。
僕はラティ達と別れて、アリアと共に敵のど真ん中に向けて駆け出した。
その時、アリアが走ってる僕にこう言ってきた。
『ユーマ、私にお乗りください。それで一気に敵の中心に突撃します』
「分かった」
僕は身体強化でアリアの体を駆け上り、その背中の上に立った。
思えば、アリアに乗って戦うのはこれが初めてだな。
『行きますよユーマ。振り落とされないように気を付けてください』
アリアは巨大な翼を広げて飛び上がり、魔物の上空へと移動を始めた。
「やっぱりアリアの背中は風が気持ちいい。まるで昔を思い出すよ」
僕は修業時代に、休日や実践訓練でアリアに騎乗して移動した事があるが、ここ最近はアリアに騎乗する事はご無沙汰だった為、改めてその感覚に浸っていた。
『どうですか、ユーマ? 久し振りに私と一緒に風になった気分は?』
「凄く気持ちいいよ。この戦いが終わったら、また昔みたいに一緒に空の散歩をしてみない?」
『いいですね。では、その時はラティ達も一緒に大空を飛んでみましょう』
今とても重大な戦いの時だというのに、僕とアリアはそんな呑気な会話をしていた。
『……っと、そろそろ戦いの中心部です。私達の戦場はここにしますか?』
その言葉と共に、僕達は再び真剣な表情になり下を見た。
下を見てみると、そこには多数の冒険者や騎士が魔物と交戦している光景が広がっていた。
「大丈夫だよ。味方の人達が魔物に押され気味だ。だから僕達が加勢に行こう」
『承知しました。ここから魔物だけを狙えますか?』
「問題ないよ。確かに普通の人なら魔物だけでなく味方も巻き添えになると思うけど、僕の魔法なら魔物だけをピンポイントで狙える」
『それもそうですね。では行きますよ!』
アリアは地上へ向かって下降した。
それとほぼ同じタイミングで、僕はアリアの背から飛び降りた。
「サーチ、マルチロックオン! サンダージャベリン!!」
僕は落下しながら探知魔法を応用して編み出したホーミング魔法を発動し、冒険者や騎士団の人達が戦っている全ての魔物に雷の槍を放った。
その槍は周囲にいる魔物に目掛けて軌道が曲がり、辺りにいる魔物を纏めて仕留めた。
「大丈夫ですか?」
風魔法で落下速度を軽減して着地した僕は、その場にいた人達に声を掛けた。
皆突然間の前の魔物がやられた事に、少し固まっていたが、僕の声にすぐに我に戻った。
「あ……っ、ああ。俺達は大丈夫だ。それより、今のは君がやったのか?」
「はい。何だか押されていた様なので、僕が魔法で援護しました。もしかして、余計でしたか?」
「いやいや、そんな事はない。はっきり言って、君のお陰で助かったよ。君の魔法が無かったら、俺達はやられていたかもしれないから。だから余計な事じゃないよ。ありがとう」
そう言って貰えると、正直嬉しい。
前世だと、善意で動いてもお礼を言って貰えないどころか最悪罵倒される事もあるから、こうしてはっきりとお礼を言われると僕も助けられる事ができて本当に良かったと思う。
「ん? よく見ると君は、さっきあのとんでもない魔法を放った子供の1人じゃないかい?」
別の騎士の鎧に身を包んだ男性が僕に尋ねた。
その「とんでもない魔法」とは、おそらく雷龍と八岐大蛇の事かも知れない。
雷龍を放った僕を見たという事は、おそらくあの場の近くにいたんだろう。
「はい。僕は銀月の翼のユーマです。相棒の従魔に乗ってここまで飛んできたら、皆さんが戦っているのが見えて加勢する為に降りてきました」
「そうか。ありがとう。ところで、君の従魔は何処に?」
『私でしたら此処です』
その時、アリアが上空から降りてきた。
「こ……っ! この竜はさっきの!」
やっぱりアリアがフォトンバーストを放つ姿も見ていたのか、騎士の人はすぐに気づいた。
『私はアリア。こちらのユーマにお仕えする竜神です』
しかもアリアさん、あっさりと自分が竜神だとバラした。
まあ、アリアを本来の姿で戦わせるというのを発案したのは僕だから、とやかく言うつもりはないけどさ。
そういえば今思うと、アリアは初めて出会った時もお父さん達――僕以外の人がいるのにも関わらず、自分が竜神だってバラしていたな。
そう考えると、アリアって、そういう認識が甘い面があるのかな。
『ユーマ、今何か失礼な事を考えてませんか?』
「いえ! 何も考えておりません!」
僕の心が読まれたのか、アリアに軽くジトッと睨まて、僕はすぐに否定した。
ふと周囲を見渡すと、皆唖然としていた。
「り……っ、竜神って……」
「嘘だろ……竜神っていえば、伝説の竜の事じゃないか……」
「そんな凄いのと従魔契約しているのか……」
「でも、この子はそんなくだらない嘘をつく奴には見えないし、という事は本物の竜神なのか」
なんか僕の第一印象と、僕がさっき助けた行動だけで、アリアが竜神ですなんて話が信じて貰えている。
まあ、信じて貰えるのは逆にありがたい。
「僕とアリアも参戦します。だから一緒に頑張りましょう!」
「聞いたか! 俺達の所に最強の冒険者とその従魔の伝説の竜神が援軍に来た! これなら俺達もいける! 頑張るぞ!!」
『おおおおおおお~~~~~~~~~~!!!」
僕達の参戦が伝わり、この一帯にいる人達の士気が上がった。
これならいける。
というか、最強の冒険者って、ちょっと持ち上げ過ぎじゃないですか?
『ユーマ、前方から魔物が多数接近してきます。あれは下級竜の翼竜に走竜です』
アリアの言葉に反応して前を見ると、そこには地上に前世の恐竜でいうオルニトミムスの様な外見にデイノニクスの特徴を合わせた様な竜と、上空に腕が翼になっている竜、前世で言うワイバーンが沢山いた。
下級竜種は竜種の中でも特に数が多い竜だ。
主に古竜や竜王の眷属として行動して、眷属以外では群れを成して生息している竜だ。
「アリア、翼竜は僕がやる。君は走竜を頼む」
『分かりました。ではユーマ、もう1度私の背に。皆様も今から私の前に出ない様にしてください。でないとどうなるか、お分かりですね』
アリアの忠告に、周りは一斉にアリアの後ろに回った。
伝説の竜神の攻撃の巻き添えを受けたらどうなるかを想像したんだろう。
「僕とアリアで翼竜と走竜を迎え撃ちます。皆さんは取りこぼしたのをお願いします!」
「分かった!」
僕は再びアリアの背に立ち、上空にいる翼竜に対してエンシェントロッドを抜いて構えた。
「サーチ、マルチロックオン」
今ではすっかり十八番となったホーミング魔法で翼竜達を捉え、雷の魔力を溜めた。
「サンダーレイン!!」
魔法名を唱えると同時に上空に巨大な雷雲が現れ、そこから無数の雷が翼竜に目掛けて降り注いだ。
サンダーレイン、僕のオリジナルではない元々アスタリスクに存在する雷属性の上級魔法だ。
上空に雷の魔力による雷雲を発生させ、目標の上空から雷を雨の様に落とす、広範囲の殲滅魔法だ。
本来は敵味方関係無しに範囲内にいるものを無差別に攻撃するという、乱戦などでは不向きな魔法だが、僕の場合はホーミング魔法と組み合わせる事によって、味方には全く当てずに目標だけに落とす事が出来る。
翼竜の群れは上空から降り注ぐ雷に次々と撃ち落とされ、地上に落ちた時には既に虫の息だった。
『ブリザードブレス!!』
続いてアリアの口から吹雪のブレスが放たれて、地上の走竜を撃ち落とされた翼竜共々纏めて氷漬けにして仕留めた。
氷結系の攻撃だと魔石以外の素材が駄目になる事もあるが、今は非常事態なんだ。
今はとやかく言うのはやめておこう。
そして、僕とアリアの攻撃を潜り抜けて通過できたのは、翼竜が5体だけだったが、これなら後ろに回った人達で対処できるな。
だが、あの下級竜達が見えた時から、僕の探知魔法に一際目立つ巨大な魔力反応があり、下級竜が倒された今もその魔力は健在だ。
しかも、その反応がこちらに近づいてきてる。
「アリア」
『ええ、私にも分かります。これは間違いなく、このスタンピードで発生した中での最強の魔物』
そして、アリアが倒した走竜と翼竜の氷漬けを踏み潰して、その魔力の主が現れた。
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魔物情報
翼竜
腕が翼となっていて、飛行能力に優れた下級竜。主に炎や風の属性の個体が多く、飛行能力もとても高い。基本的には群れで生活するが、稀に1匹のみで発見される事もあり、その場合は何らかの理由で群れから離れたはぐれ竜と呼ばれる。討伐証明部位は逆鱗。
走竜
翼を持たず、走る事に特化した下級竜。足の筋肉が発達し、加えてスタミナも高い為、この竜に適合したものは冒険者の他にも馬車に繋いで走らせる竜車と呼ばれる乗り物の御者になる事もある。戦闘時には足の鋭い爪で斬りつけたりもする。討伐証明部位は逆鱗。
次回予告
ラティとクルスはデスペラード騎士団と合流し、魔物を殲滅していく。
その時、2人の前に一際強力な魔物が姿を現す。
次回、キング×3




