第72話 奥の手を使う時
前回のあらすじ
スタンピードに備えて考えるユーマ達の前に、国を捨てようとするレーザー度侯爵が接触する。
コレットを連れて行こうとしたが、アインの前に失敗する。
そしてそれぞれの対策と思惑が交錯する。
僕達はスタンピードで発生した魔物と戦うべく、防衛戦に参加した人達と合流している。
「君達が銀月の翼だね? 君達の噂は聞いているよ。今日は一緒に頑張ろう」
年配の冒険者の男性に声を掛けられ、僕達は冒険者達の隊列に加わった。
さらにエリアル王国の騎士やデスペラード騎士団も合流して、その数は約1000人。
この人数はこの3日で周辺の街から駆け付けた冒険者や騎士もいる為だ。
本当なら各街からもっと多くの高ランク冒険者も要請したかったけど、スタンピードの余波で発生したゴブリンやコボルトなどのキング種の奇襲で再起不能の怪我を負ったり、それ程ではなかったけどまだ怪我が完治していない者もいた為、元々王都にいた物を合わせて1000人の戦力を集める事が出来た。
そして1000人のうち700人をこの前線に置き、世界樹を守る最終防衛ラインに残りの300人の人数を割いたが、従魔もいる為、まだ戦力が大きく割かれた訳ではない。
また、戦いが3日後というのもあって遠くの他の街から冒険者や騎士が駆け付けるのが間に合わなかったのも大きい。
「とにかく、この戦いは僕達の持てる力を全てぶつけよう。持てる力をね」
「分かってるわ。その為に私も、とっておきの装備を持ってきたんだし」
コレットさんは今回の戦いの合わせ、今までの普通の弓とクロスボウではなく、100年間の冒険でのダンジョンの攻略で手に入れた、僕のミネルヴァと同様の神器の長弓とクロスボウを用意してきた。
長弓は神弓ユグドラシル。
女神イリアステル様が世界樹の枝を使って作ったと言われる伝説の弓で、ハイエルフの魔力に反応して力を発揮するマジックアイテムだ。
魔力を流すと世界樹の一部である枝に宿った世界樹の力が反応して、通常よりも強い魔法の矢が放てるという強力なマジックアイテムだ。
また矢がなくても、魔力を流すと威力の大きい魔力の矢を生成して放つ事も出来るらしい。
クロスボウは神弩アルテミス。
ユグドラシルと同じく世界樹の枝を加工して作られたクロスボウで、これもハイエルフの魔力で力を発揮するマジックアイテムだ。
ユグドラシルと同様の力を持った武器で、威力も射程も通常のクロスボウよりも遥かに優れている。
またユグドラシルと同様に魔力の矢を生成して放つ事が出来る能力が備わっている。
いずれもハイエルフのコレットさんの戦闘スタイルや特技を存分に引き出せる究極の装備ともいえる。
「じゃあ、打ち合わせ通り、皆準備に取り掛かろう」
「ああ」
「うん」
「ええ」
クレイル、ラティ、コレットさんの順に返事が来て、僕達は中央に配置された冒険者組の最前列に立った。
そして間もなくすると、前方の遥か先から地響きが鳴り響き、巨大な土煙が舞い上がっていた。
探知魔法で見てみると、そこから無数の魔物の魔力反応が出て来た。
「来たぞ!! 全員、攻撃準備だ!!」
纏め役の冒険者の合図で、前衛にいた冒険者や騎士団の魔法師が魔法の発射準備に入った。
「ラティ」
「大丈夫よ。もう準備は出来ているから」
ラティは僕の考えを読んで、既に魔力を練り上げて発射態勢に入っていた。
「よし。じゃあ行くか。僕達が使える、最強の魔法で先制攻撃だ」
「オッケー」
僕とラティはエンシェントロッドに魔力を流し、魔法の発射態勢に入った。
僕は杖を媒体に上空に雷の魔力が収束され、それはやがて巨大な魔力のエネルギーとなった。
ラティは杖を媒体に周囲に炎、水、風、土、雷、氷、光、闇の全ての属性の魔力を集め、次第に巨大な魔力となった。
「何だ!? この巨大な魔力は!?」
「あの2人から感じるぞ!」
「一体、どんな魔法を使うつもりなんだ!?」
周りの冒険者達は僕達の魔力を感じて、驚いていたり、注目したりしていた。
そして、魔物の群れが肉眼で見える所まで来たので、僕達は魔法を放った。
「雷龍!!!」
「八岐大蛇!!!」
僕の上空に巨大な前世で言う東洋の龍の形をした雷が、ラティの目の前に巨大な8つの首を持つ巨大な蛇が現れ、魔物の群れに向かって突進し、ぶつかった箇所から壮絶な爆発が起こった。
雷龍、僕が使える最強の雷属性の魔法だ。
前世のある漫画に出てきた魔物の子が使う最強呪文の雷の龍をイメージした、東洋の龍の形をした雷の魔力を制御して攻撃する、威力、魔力の規模、全てを合わせて最強レベルの僕のオリジナル魔法だ。
またこの竜の頭や尻尾などは、僕の意志で操作も可能で、相手が逃げてもその攻撃範囲でなら追撃も可能だ。
八岐大蛇、僕が考案してラティと共に編み出した全ての属性を合わせた最強の複合魔法だ。
日本の神話に出て来る八岐大蛇の姿をイメージして、8つの頭をそれぞれ炎、水、風、土、雷、氷、光、闇の魔力で形成して、それぞれの属性の頭で同時攻撃する最強の威力を誇る複合魔法だ。
因みに、この蛇のもう1つのアイディア元は某カードゲームの5つの頭を持つ融合ドラゴンだ。
僕の雷龍は上空にいる下級竜を中心にその他の魔物を蹴散らし、ラティの八岐大蛇が8つの首を広範囲に広げてバラバラに魔物の群れを攻撃している。
正直ラティの魔法は、魔力の操作が凄い。
八岐大蛇は僕も出来るけど、8つの頭をバラバラに操作するというこれ程の複雑な魔力の操作は僕でも中々できない。
僕の場合ならバラバラに操作するとしても、2~3本の頭がどうしても同じ方向に行ってしまう為、ラティの様に全ての頭を完全にバラバラに操作して攻撃するのは、流石に僕でもできなかった。
その辺は魔力の操作に長けたラティだからこそできる芸当だ。
「すっ……すげえ……」
「あんな魔法、初めて見たぞ……」
「まだ子供なのに、なんて魔法を使うんだ……」
周囲の冒険者は僕達の放った魔法に唖然としていた。
雷龍と八岐大蛇の攻撃が止み、すかさず探知魔法で見てみると最初と比べて3割程、魔物の反応が消えていた。
これで残る魔物の数は7000近くまで減った事になる。
「第1波、成功だ! 続いて第2波だ! アリア!! アイン!!」
『承知しました!』
「任せて!」
僕の合図に反応して、アリアとアインの従魔姉妹が前に出た。
『お姉様、私達の出番ですね!』
「そうよ、アリア! 思いっきり行っちゃいましょう!!」
『はい! お姉様! 私もいよいよ本気で行きます!』
アリアはそう言って、自身をミニサイズから本来の竜神の姿に戻して、僕達の前に立った。
「おい! あの小さな竜、巨大化したぞ!!」
「しかも、あの竜、今喋らなかったか!?」
集まっていた人達も正体を現したアリアを見て、かなり驚いている。
そう、僕達はこの戦いである決意をし、奥の手を使う事にした。
それが僕とラティの最強魔法やアリアの本来の姿での攻撃だ。
今までは、アリアの存在は出来る限り秘密にしていたけど、このスタンピードでは秘密を守る事に固執していては最悪、僕達はおろか、冒険者、騎士に死人が出る危険性があった。
だから、この戦いでは僕達の持てる全ての戦力をぶつけて、圧倒的な力で挑む事を決めた。
動機は甘いと思われるかもしれないが、僕達は絶対に誰も死なせないと決めたんだ。
僕達がたてた作戦は、大きく3つの段階に分けてある。
まず1段階目、第1波に僕とラティの魔法による先制攻撃。
実は、この攻撃では1万を超える魔物を相手にしても、全体の2割から3割を倒すのが限界というのは、最初から分かっていた事だ。
そこで、僕達の魔法で攻撃した後の2段階目、第2波にアリアとアインの従魔姉妹の攻撃を選んだ。
『フォトンバースト!!!』
「エレメンタルバースト!!!」
第2波は、2人の大技をぶつける事で、更に魔物の群れを削る事だ。
アリアの放った青白い閃光の巨大な光属性のブレスと、アインの放った炎、水、雷、土の4つの属性を複合させた巨大な魔力波が先頭にいた魔物を始めとして数多くの魔物を薙ぎ払い、全体の更に6割以上の反応が消滅した。
本来竜のブレスは1体につき1種類のみだが、アリアは全ての属性のブレスを使える竜神である為、ブレスだけでもその種類が多い。
また、一口にブレスと括っても、アリアの場合は下級ブレス、中級ブレス、上級ブレスの3段階のブレスが存在する。
シャインレーザーやファイアブレスなどは下級、ストームブレスなどは中級ブレスに分類され、今回放ったフォトンバーストは上級ブレスに分類される。
上級まで行くと、今放った通り、魔物の群れを千の単位で薙ぎ払う事が出来る。
その結果、これで最初の1万を超える魔物の数は残り1割未満、つまり1000を切ったという事になる。
それも正確には、500未満の数まで殲滅できた。
「魔物の数、残り500未満まで減りました!!」
防衛チームの中にいた探知魔法の使い手が、残りの魔物の数を報告した。
「し……信じられない……」
「たった数分で……それも立った2回の攻撃で一気に9000以上の魔物を一掃しただと……」
「それに、何なんだあの竜は……俺達の味方なのか……?」
皆突然現れたアリアの存在に戸惑っていたり、固まっていたりと動けずにいた。
「狼狽えるな!! あの竜が魔物に攻撃したのを見れば、あれが味方だってのは少し考えれば分かるだろ!! それに、魔物も残りは500未満なら、俺達で対処も可能だ!! このまま一気に殲滅するぞ!!」
『おおおおおおお~~~~~~~~~~!!!!!』
纏め役の冒険者の一喝で、冒険者達は活が戻り雄叫びの様な声を上げた。
あの纏め役の人のお陰で、アリアは味方だと信じてくれた様だ。
「我らエリアル王国騎士団も続くぞ!! 自分達の国は自分達で守るのだ!!」
『はいっ!!!!!』
エリアル王国の騎士も、自分達の国を守るべく、一気に闘気をみなぎらせた。
「デスペラード騎士団も行くぞ!! 友国の危機、決して見過ごす訳にはいかん!! 我らはこの時の為にいるのだ!! この勢いでスタンピードを迎え撃つぞ!!」
『おおおおおおお~~~~~~~~~~!!!!!』
デスペラード騎士団の人達も、隊長らしき人の声に声を上げた。
冒険者、騎士団、デスペラード騎士団のリーダーの掛け声で皆に活が戻り、それぞれが武器を持って己の従魔と共に駆け出した。
「ラティ、念の為に魔力回復のポーションを飲んでおこう」
「うん」
僕とラティは最強の魔法を使って大幅に魔力を消費した為、懐から魔力を一定量回復するポーションを1瓶取り出し、それを飲み干した。
「よし! 僕達も3段階目に移す! ここからは各自の従魔と一緒に遊撃だ!」
「「「了解!!」」」
「行くわよ、クルス!!」
「グルルルルルルゥゥゥ!!」
「来い、レクス!!」
「ウオオオォォォン!!」
ラティとクレイルの合図で、ミニサイズから元の姿に戻ったクルスと亜空間から現れたレクスが飛び出した。
「じゃあ、ここからはバラバラね。皆、また後で会いましょう!」
コレットさんの掛け声で僕達が駆けだそうとしたその時、僕達の背後から突然殺気が飛び込んできた。
『ユーマ、ラティ、クレイルさん、後ろです!』
アリアの声と同時に、僕は身体強化で後ろを向くと同時にラティを抱えてバックステップで後ろに跳んだ。
クレイルも同じく後ろを振り向くと同時に、バックステップで下がった。
すると、さっきまで僕達がいた場所、それも首の部分に3人の冒険者の姿をしたエルフがナイフを振り抜いていた。
そのエルフは感じる魔力の強さからハイエルフだった。
その目は完全に僕達を殺す気が満々だった。
「何をするんですか? あなた達は何者ですか?」
このハイエルフ達が何者かは既に察しはついているが、とりあえず聞いてみる事にした。
「俺達が誰かなんてお前達が知る必要はない。お前達はここで死ぬんだからな」
やっぱりこのハイエルフ達は僕達を殺すつもりみたいだ。
でも残念だったね。それはもう無理だよ。
「さあ、大人しく死に……グハアッ!」
3人の冒険者もどき達は、突然の衝撃に吹っ飛んだ。
「悪いな。さっきので俺を殺せなかった時点で、お前達は既に詰んでんだよ」
ハイエルフの冒険者もどきはクレイルの加速魔法と拳によって、あっけなくねじ伏せられた。
「ユーマ、こいつらはやっぱり」
「うん。間違いなく、レイザード侯爵の手の者だよ。恐らく、僕達をこの場で事故を偽って殺すつもりだったんだ」
結局、レイザード侯爵の思惑は、僕達が予想していた通りの結果になった。
「でも、今ここで取り押さえておけてよかったわね。もしもっと激戦の中でだったら、殺される事はなくても深手を負って戦闘にならなくなった可能性もあったわ」
確かに、今ここでこいつらが動き出したのは正直予想外だった。
もしかしたら、アリア達の存在がこいつらの心を焦らせて、僕達が遊撃に出る直前という光景を見た事で、今ここでという中途半端な局面で殺そうとしたのかもしれない。
「とどのつまり、思わぬ怪我の功名という訳か。クレイル、こいつらは貴重な証拠になる。今は君の亜空間に入れて拘束しておこう」
「あいよ」
クレイルは亜空間を開き、気絶している暗殺者の首根っこを掴んだ。
「ほらよ、暫くここで大人しくしていてもらうぜ」
クレイルは3人の暗殺者を亜空間に放り込んだ。
亜空間魔法は収納魔法と違って生き物も入れる事が出来るから、こうすればクレイルが出さない限り暗殺者は外に出る事も出来ないから、僕達も安心して戦う事が出来る。
「これで何も心配なく戦えるわね。じゃあ改めて、行きましょう!」
コレットさんの掛け声で、僕達はそれぞれの従魔と共に駆けだそうとした。
「じゃあ、皆無事にまた会おう」
「皆気を付けてね」
「油断するなよ」
「また後でね」
その言葉を最後に、ラティはクルスに乗って、クレイルは加速魔法でレクスと共に駆け出し、コレットさんはアインを連れて走り出した。
「それじゃあ、僕達も行こうか」
『はい。私は何処までもユーマと共に行きます』
こうして、僕達はそれぞれの戦いの場へとバラバラに駆けた。
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アリアの凄すぎる所
その8、ブレスの攻撃が3段階別になっている。
その9、上級ブレス1発が魔物を千単位で殲滅する威力を持つ。
次回予告
アリアと共に空から救援に駆け付けるユーマ。
そして2人の前に強力な魔物が群れで襲い掛かる。
次回、最強の援軍




