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第71話 対策と思惑

前回のあらすじ

各地でキング種が発生している現象は、魔物の大量発生のスタンピードの余波によるものだとわかった。

大量発生した魔物達は世界樹に向けて王都に迫っている事が分かり、ユーマ達はそれに立ち向かう事を決意する。

 彼は僕達を見るなり、嫌悪感を剥き出しにした。


「コレットさん、まだその薄汚い人族と獣人と一緒にいたのですか。あなたは誇りあるハイエルフなのです。ですから、早くその者達を切り捨てた方がいいですよ」


 前回と同様、いきなりの暴言にラティ、クレイル、アリア、クルスは怒りの表情になった。

 かくいう僕もかなり苛立っている。


「レイザード侯爵、彼らは私の大切な仲間です。それ以上彼らを侮辱するのであれば、私も黙ってはいませんよ」


 コレットさんは決して譲らず、侯爵にそう言い切った。


「……まあ、いいでしょう。どの道この国はスタンピードで滅びるのです。そうなると分かっていれば、この国にはもう用はありません。さあ、コレットさん、私と共に来てください」


 侯爵はその言葉と共に、コレットさんに手を差し出した。


「何ですか、その手は? それに、何を言っているのか分かりませんが」


「言葉通りの意味です。私は今まで所用があり、少々いくつかの街へ赴いていましたが、戻ってみるとスタンピードの脅威に晒されているではありませんか。しかもその規模は1万以上の魔物で、中には古竜までいるとの事。では、もうこの国に未来はありません。だから、あなたと共に国外へ脱出しようと思い、こうして迎えに来たのです」


 この男、正真正銘のクズだった。

 仮にも上級貴族の侯爵ともあろう者が、そんな簡単に母国を見捨てて自分だけ助かろうなんて、これはとても許される事ではない。


「ふざけないでください!! まだ滅んでもいないのに、滅びるから国外へ脱出する!? それが貴族以前に、ハイエルフの考える事なんですか!!」


 コレットさんも本気で怒っているが、レイザード侯爵は彼女が何故怒っているか理解できていなかった。


「何を怒っているのですか? それに滅んでもいないと言っても、話を聞く限り十中八九、この国は滅びます。なら、より安全な方をとるのは当たり前ではないですか?」


 侯爵の言う事にはある程度の筋は通ってるのかも知れないが、それで頷くコレットさんじゃなかった。


「では、私がその残りの一二を取ると言えば、どうしますか?」


「まさか、あなたは戦うおつもりですか? いくらティターニアがいるとはいえ、1万以上の魔物を殲滅できるとは到底思えませんが」


「私にとって、このエリアル王国は大切な母国です。その国を守る為なら、例え僅かな可能性だったとしてもそれに賭ける。それに、この仲間がいる限り、この国は滅んだりしません。いえ、滅ぼさせたりしません!」


 コレットさんの言葉と気迫に、流石のレイザード侯爵もたじろんだ。


「くっ……! なら、腕尽くでも……!」


 侯爵が再び彼女に手を伸ばそうとした時、彼の前に小さな影が飛び込んできた。


「コレットに触らないで!」


 アインが凄まじい気迫で睨んだ。


「くっ……! ティターニアが相手では流石に分が悪いか……仕方ない……」


 レイザード侯爵は最後に僕らを睨んだ後、馬車に乗り込み去っていった。


「ほんとにクズ野郎だな! あの侯爵!」


「ええ! ちょっと留守にしていた間に、危機が迫ったらあっさりと母国を捨てるなんて! 自分の領民の事は考えていないのね!」


 クレイルとラティは、あの侯爵の態度に酷くご立腹だ。


「まあまあ、それも含めて今後の対策を話し合おう。まずはコレットさんの家に戻らないと」


 僕の掛け声で、皆何とか表向きは落ち着いて帰宅した。


 帰宅して、夕食を食べた後、僕達はスタンピードでの戦いに備えてのミーティングを行った。


「さて問題は、あのレイザード侯爵だ。さっき去り際に僕達を睨んだあの目、あれは恐らくコレットさんが自分の思い通りにならないのは、僕達がいるからコレットさんは戦うという考えに至った。つまり、僕達がいなくなれば、コレットさんは自分の言いなりになると思っているという事だ。つまり……」


「レイザード侯爵は3日後のスタンピードの戦いで、何らかの方法であたし達を殺しに来るという事ね」


 ラティの言葉通り、その可能性は非常に高い。


「あの男の考えそうなやり方だと、自分の配下を冒険者や騎士になり済ませて、戦闘中に事故を装ってクレイル、ユーマくん、ラティちゃんを殺すという所ね。でも、これは逆に好都合だわ」


 コレットさんの言う通り、それは僕達を危険に晒すが、同時に好都合でもある。


「そうか! 俺達がその襲ってきた奴らを逆にぶちのめして捕らえて、あとで国王に差し出せば」


「国王はレイザード侯爵に対する、攻撃の機会を得て、彼を失脚できる!」


「そう。3人には悪いけど、あの男を失脚できるかもしれない千載一遇のチャンスなの。だから、協力してくれないかしら?」


「勿論ですよ。あたし達は仲間じゃないですか。だから、仲間に対する害は皆でどうにかするのが、当たり前という奴じゃないですか」


「ありがとうラティちゃん」


 この2ヶ月間を通して、ラティとコレットさんはとても仲良くなった。

 僕もそれなりに仲良くなったと思うけど、ラティは同じ女の子という共通感覚みたいなもので打ち解け、クレイルは互いに心が通い合っているという感じだから、僕の場合は大切な友人という感じか。


『それでユーマ、私達はどのようにすればいいのでしょうか?』


 アリアも戦う気満々で、僕に自分の役割を尋ねた。


「うん。それなんだけど……」


 その後も僕達は打ち合わせを続け、翌日は丸1日を使って戦いに対する準備で行くという形で纏まった。

 同時に、僕はアリア達従魔に、ある作戦を話した。


――――――――――――――――――――


 その頃、とある屋敷で1人の男性がグラスに注がれたワインを飲み干し、乱暴にテーブルに置いた。


「くそっ!! あのガキ共め! 私のコレットを惑わして仲間を名乗るとは、断じて許せん!!」


 レイザード侯爵は、自分が目を付けたハイエルフの女性、コレットが自分と一緒に国外へ脱出しようとしなかったことに、酷く憤っていた。

 その原因はコレットと共にいた、人族と獣人の子供の所為だと、彼は信じて疑っていない。

 あの3人と一緒にいるから、コレットはハイエルフの誇りを忘れ、自分の妻にならないんだとそう思い込んでいた。


 レイザード侯爵は、幼少期から自分が選ばれし者だと思い込んでいた。

 彼は侯爵家の嫡男として生まれ、跡取りとして厳しく育てられた。

 その際、両親からエルフの模範たる存在になれ、国の誇りとなるようになれと言われて育ち、彼はいつしか他の種族を見下し、エルフこそが崇高な種族だと思い込む様になった。

 両親は彼に他の種族から好かれる立派なエルフとなれと教えて来たが、彼はその才能を過信し、両親の言葉に耳を傾ける事はなかった。


 そして200歳になった時、ハイエルフへの試練を達成し、念願のハイエルフとなり、彼の傲慢さは拍車がかかる様になった。


 彼はハイエルフのなった事を多くの人から祝され、元々貴族の家に生まれた事で人の上に立つ事に優悦感を覚えていた彼は、ハイエルフこそが全種族の頂点に立つ存在なのだと思い込む様になってしまった。


 ハイエルフ化を機に侯爵家を継いだ彼が最初にした事は、国王にエリアル王国にいる他種族を全て排除するように進言する事だった。

 だがロンドベル国王は、その進言を却下しハイエルフとしての誇りを逆に説かれる結果となった。

 ハイエルフは決して全種族の頂点に立つ存在ではなく、エルフやダークエルフなどの全てのエルフを良い正しき道へと導く存在なのだと。


 自分の考えを否定されたレイザードは、ロンドベル国王はハイエルフだがその誇りを忘れた愚王だと考える様になり、いつかあの玉座に座る自分を妄想するようになった。


 その後彼はエリアル王国に存在するハイエルフの貴族を尋ねて回り、自身の理想や信念を話しそれに共感させ、自分の味方を作った。

 その過程で時が進むにつれ、気付いた頃にはハイエルフこそが真のエルフであり、エルフやダークエルフなどはエルフに非ずという考えにまで至り、自分の領民のエルフや他種族に排斥的な態度をとる様になった。


 そのやり方に異を唱えたのが、彼の両親だった。

 だが、彼らはエリアル王国の貴族では珍しいエルフの貴族だった為、既に両親すらも見下していた彼はそれを聞き入れず、遂には彼らを暗殺し国王には事故と偽って報告した。


 それから更に時が流れ彼の味方が増えてきた頃、彼の耳にある情報が流れ込んできた。

 それは、あるハイエルフの女性の情報だった。

 その女性は、何と若干20歳でハイエルフへの試練を達成し、更に伝説の妖精と言われたティターニアを従魔にしていて、今ではAランクの冒険者だという事。

 この経歴を聞いて、彼はその女性こそが自身の妻に相応しいと考えた。

 その女性を妻に娶り、伝説のティターニアを手中に収め、ロンドベル国王を王から引きずりおろし自身が新たな国王になると、彼はそう決意した。


 そこからは彼が行動に出るのは早かった。

 彼は早々にコレットに会いに行き、唐突に自分と結婚するように言い寄った。

 だが、コレットは長年の冒険者の勘から彼の邪な心をすぐに見抜き、自分はあなたとは結婚しないと一蹴した。


 だが、これで諦める様なレイザードではなかった。

 彼はその後も何度も彼女に自分の妻になるよう言い寄り、何度も自分のハイエルフの理想論を唱えたが、それは逆に彼女からの評価を下げる結果になったが、彼はそれが真剣に理解できなかった。


 そして遂に彼女からもう2度と自分の前に現れないでくれと言われてしまったが、彼はそれで諦めたりせず、ある日また彼女の前に現れた。

 しかし、その時彼が見たのは今まで以上に楽しそうにしているコレットと、一緒にいる冒険者らしい人族の男女と獣人の少年だった。

 特にコレットはその獣人とかなり親密な雰囲気を出していた。

 レイザードはその3人が彼女を惑わしていると決めつけ、すぐに彼女の前から去るように命令したが、逆にコレットから批判されてしまい引き下がらざるを得なかった。


 その後、約2ヶ月をかけ各地を回ってハイエルフの貴族を尋ねて自分が王になる下準備を重ね、1度王都に戻ってみると、このエリアル王国がスタンピードの脅威に晒されていた。


 それを聞いたレイザードは、この国を捨てる事を簡単に決め、コレットを連れて行く為に彼女に接触した。

 だが結果は彼女には断られ、しかもスタンピードに立ち向かうと決意したと言われた。

 彼はこれに激しく憤り、無理矢理連れて行こうとしたがティターニアのアインに阻まれて失敗した。

 そして、こうなった原因はコレットと共にいた3人の他種族の冒険者だと決めつけ、今に至る。


「しかしよく考えれば、これは逆にチャンスだな。あのガキ共が死ねば、コレットは目を覚まして私の妻になる。そして、このスタンピードで国が滅べば、私が生き残ったハイエルフを纏めて新たな国王になれる。そうすれば、私が理想とするハイエルフだけの国が築け、他の下等種族は我らハイエルフの奴隷にできる」


 レイザードは自分が新たな国王になった姿を妄想して、醜い笑みを浮かべていた。


「しかし、もしあのガキ共が生き残れば、コレットはあのままだ。それなら、確実にあのガキ共を葬るしかないか」


 彼は手元に会ったベルを鳴らし、少しすると執事の格好をしたハイエルフの男性が入ってきた。


「旦那様、お呼びでしょうか?」


「うむ。実は……」


 彼の話を聞いて、執事は何かを閃いた。


「でしたら、旦那様の配下の者を冒険者や騎士に成りすませて、背後から殺すというのはどうでしょうか?」


「成程、単純だがやはりそれしかないか。では、早急に腕の立つ者を冒険者に偽装して潜り込ませろ。冒険者ならいくらでも身分をごまかせられるからな」


「畏まりました。ではすぐに」


 執事は一礼して、部屋から出て行った。


「ククク。見ていろ、生きる価値のない下等種族のガキ共よ。お前達の命も3日後までだ。そして待っていろ、コレット。必ずお前を救い出し、目を覚まさせてやろう」


 レイザードは再びワインを注いだグラスを掲げ、気分良さそうに呟いた。

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お待ちしております。


次回予告

魔物の群れを迎え撃つべく、討伐隊に加わったユーマ達。

そこで彼らは自分達の持てる力を全てぶつける決意をする。


次回、奥の手を使う時

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