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第53話 決勝戦

前回のあらすじ

決勝戦にコマを進めたユーマ達は、準決勝で戦ったバロン達と親しくなり、彼等からパーティーの同盟、アライアンスを結ばないかと提案されそれを承諾する。

同時にゼノンとイリスとも再会し、彼等もアライアンスに参加する事が決まり、ユーマ達は心強い仲間を得た。

 僕達の決勝戦の相手はクレイル・クロスフォード。

 僕達が旅に出て初めてできた同年代の友人にして、僕達と同じEXランクの魔物、フェンリルのレクスを従魔にしている、狼人族の少年だ。


 彼は今大会には僕達と同じく、最年少で出場したが、僕達とは違う意味でこの大会で注目を集めていた。

 クレイルは武闘大会では極稀にいる単独で出場した、1人で1チームとなっている。

 1回戦は彼がまだ成人仕立ての若者だという点から、初戦敗北が確実視されていたが、彼は獣人でも他の獣人を遥かに凌駕した戦闘能力で全試合を圧勝で勝ち進み、決勝戦まで勝ち上がってしまった。


 そして今、僕達はコロシアムのフィールドで、彼と向かい合っている。


 僕らの装備は、僕は準決勝と同じく完全装備、ラティはエンシェントロッドに加え2本のミスリルの短剣を両腰に差している。

 おそらく、クレイルに接近された時の事を想定しての装備だろう。

 そしてクレイルは、最初に出会った時、そしてこれまでの全試合で見た時と同様、両手両足に手甲と脚甲を装備した状態だった。


「遂にここまで来たな。俺はお前達とこの場で戦える時を、ずっと待っていたぞ」


 試合が始まる前に、クレイルは僕達にそう言った。


「僕達もだよ。だから、今日は思う存分戦おう!」


「どっちが勝っても、恨みっこなしよ!」


「当たり前だ! 互いに悔いのない戦いにしようぜ!」


 僕達の会話が聞こえたのか、コロシアム全体が歓声に包まれた。

 中には、「早く始めてくれ!」や「どっちも頑張れ!」など、様々な声が聞こえる。


 僕は白百合とジルドラスを抜いて構えた。

 それと同時に、ラティとクレイルもそれぞれ構えだした。


「それではこれより、銀月の翼とクレイル選手による、決勝戦を始めます! では……始め!!」


 審判の掛け声と同時に観客席からは大歓声が上がり、僕達の戦いの火蓋が切って落とされた。


 クレイルは早速身体強化で加速して、僕に突っ込んできた。

 まずはリーダー同士による1発での挨拶をご所望の様だ。


「勝負だ、ユーマ!」


 クレイルは僕まであと2メートルを切った距離で、一瞬で僕の目の前まで飛び込んできた。

 僕は左手のジルドラスを刀槍に変形させて刺突を繰り出し、突き出された右ストレートを迎え撃った。


 その瞬間、衝突した互いの武器から衝撃波が生まれ、僕らは互いに弾き返された。


「大丈夫、ユーマくん!?」


「うん、平気だよ。それより、さっきの加速見た?」


「うん。間近で見ると、あれは身体強化と獣人の身体能力だけでできる技じゃないわ」


 確かに、いくら獣人の動きに身体強化で全体のスピードが上がっているからって、あんな瞬間移動みたいな動きは不可能だ。

 となると、考えられる可能性はただ1つ。


「クレイル、そのスピード、それが君の無属性魔法なんだね」


 僕の言葉に、クレイルはニヤッと笑みを浮かべた。


「やっぱりお前達は面白いぜ。こんなに早く俺のスピードのカラクリを見破るんだからな。そうだ。俺の固有魔法は加速魔法。この魔法の発動中は自身の速度を段階別に加速できるんだ。最高段階での加速状態は周りの時間が止まってる様に見えるぜ」


 まるで某サイボーグ漫画の加速装置みたいだな。

 でも確かに、この加速魔法と身体強化に獣人の身体能力を組み合わせたら、もはや肉眼で捉える事が出来ないな。


「でもね、クレイル。超高速で動けるのは、何も君だけじゃないんだよ。僕もこうすれば、君に対抗する事が出来る!」


 僕はジルドラスを背中に戻し、代わりに黒薔薇を抜いた。


「ラティ、ここからは僕も姿が見えにくくなる。だから、少し大雑把に魔法で援護して」


「分かったわ、気を付けて」


 僕は複合強化の更にその上をいく、身体強化を発動した。


「ハイブリッドエンチャント! ライトニング! ソニック!」


 僕は雷と風の魔力を同時に展開して、体に纏った。


 ハイブリッドエンチャント、複合強化における属性を2種類同時に展開する身体強化だ。

 発動する属性の組み合わせによって、その効果が強くなる物もあれば、特定の組み合わせによって単体ではできない事も出来る様になる。

 今回は全体の身体能力を大幅に上げる雷と、速度上昇に長けた風の組み合わせにより、スピードにより特化した強化にした。

 更に白百合の神速の効果がプラスされれば、そのスピードはクレイルにも匹敵出来る筈だ。


 だが、このハイブリッドエンチャントには大きなリスクもある。

 それは、2種類の属性を同時に展開する分、魔力の消費も大きいという事だ。

 今の僕の魔力量なら、10分程しかこの状態を保つ事が出来ない。

 でも、クレイル1人なら十分持つ筈だ。


「行くよ、クレイル!!」


「上等だ! 掛かって来い、ユーマ!!」


 その瞬間、ラティを始めとする殆どの人からは、僕達の姿は消えた様に見えただろう。

 それもその筈。

 だって、僕達が超高速の速さで動き回ってるから、誰にも、僕達の動きが見えないんだ。


 僕達は高速での中、接近しては剣とガントレットが激突して、合間にラティの放った氷や土の槍がクレイルの周辺に着弾して、動きを僅かに止めようとしてもクレイルの加速魔法の前では魔法の攻撃は止まっているも同然な為、魔法は当たらない。


 僕も接近しては二刀流で攻撃しているけど、クレイルは手甲で受け流したり、脚甲での回し蹴りしながらの移動と反撃などで僕の攻撃を何度も躱している。

 クレイルも距離を開けて自分から突っ込んできては、その加速による勢いのパンチやキックを繰り出すが、僕も雷の効果で強化された反射神経で回避して距離を開けている。


「やるな、ユーマ! でも、このスピードならどうだ!」


 その瞬間から、僕の視界からクレイルの姿が消え、次の瞬間僕の腹部に重い衝撃が伝わり、僕は大きく吹っ飛ばされた。


「ううぅっ……! 今のは一体……」


 僕は何とか立ち上がれた。

 衝撃が伝わったのがかろうじて魔竜のローブの上からだったから、直接的なダメージはなかったがその衝撃で吹っ飛ばされたみたいだ。

 しかも、今の衝撃でエンチャントも解除されてしまった。


「ユーマくん!」


 ラティは僕の傍に駆け寄ってきた。


 そこにクレイルがラティの目の前に現れ、彼女は左手に抜いた短剣で攻撃したが、その加速の前に難なく躱されてしまった。


「クレイル……まさか、今の衝撃は君が……」


「そうさ。さっきも言った筈だ。俺の加速魔法は、俺のスピードを段階別に加速できるって。俺が今までの試合とさっきまで使ってた加速は1段階目の加速だ。だが、今お前を吹っ飛ばした時の加速は2段階目の加速だったのさ。少なくとも、お前達が初めてだぜ。俺に2段階目の加速を使わせたのは」


 その言葉に僕達は絶句した。


 今までの加速が第1段階だって!?

 それじゃ、そこから2段階目に加速して、それに身体強化が加わったら、クレイルは何処まで速くなるんだ!?


「でも、そこまで魔法の重ね掛けと出力を上げたら、魔力の消費も大きい筈よ。どうしてそんなに平気でいられるの?」


 確かに、ラティの指摘は正しい。

 魔法は、その威力や効果が大きければ大きい程、消費する魔力量も大きくなる。

 しかもクレイルは、その加速魔法と身体強化の重ね掛けをしているから、消費する魔力の量も凄い筈だ。


「それに関しては、こいつが解決してくれるのさ」


 クレイルはそう言って、右手に装備した手甲を見せつけた。


「こいつはメルクリウスっていうマジックアイテムでな、左右の手甲と脚甲の4つを合わせて1つのマジックアイテムなんだ。この手甲と脚甲で打ち付ければ、その威力に比例して自分の魔力が回復するのさ。更にこいつは魔力を流せば、強度はオリハルコン級に硬くなる。つまり俺がこいつで殴ったり蹴ったりする事で、その威力に比例して俺の魔力は全快とは言えないがそれになりに回復されて、俺は通常よりも長く戦えるという訳だ」


 僕達の魔剣や杖と同じく、クレイルの武装もとんでもないチートな武器だった。

 打ち付ければその分魔力が回復するって、クレイルの戦闘スタイルを考えれば、これ以上の相性がない程の強力なマジックアイテムだった。


「さて、そろそろお喋りはお終いだ。後はお前達を倒せば、俺の優勝だからな。悪く思うなよ」


 クレイルはそう言って、僕達との距離を詰めてきた。

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次回予告

クレイルの強さに苦戦するユーマは、奥の手の魔法を使い反撃に出る。

そして遂に、今大会の優勝が決定する。


次回、決着

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