第50話 神剣ミネルヴァ
前回のあらすじ
ラティとの婚姻を賭けた試合で、ユーマは1人でAランクのマッハストームの3人を相手にする。
だが、それぞれの種族の特徴と魔剣などを組み合わせた戦いに苦戦する。
それでもあきらめないユーマは得意の二刀流に切り替える。
ラティside
あたしは試合が始まってから、フィールドの端っこでユーマくんの戦いを見守っている。
本当は、あたしも魔法でユーマくんを援護してあげたい。
でも、昨日のあの貴族の所為で、あたしは手出しする事が出来ない。
こんな時になって、あたしは自分の無力を思い知っている。
あたしの傍にはいつもあの人がいた。
楽しい時も、辛い時も、あの人が一緒なら、どんな事も乗り越えられると信じていた。
ユーマくんが前世の事を話した時、あの人はあの小さな体でそんな大きな重い苦しみを背負っていたと知った時、あたしは悲しくなった。
更に、あたし達があの人を気味悪がったり、突き放すんじゃないかと思われていたと知った時は、とても悲しかった。
ユーマくんは、あたしの事をいつも守ってくれていた。
この前、あたし達が盗賊と戦って、初めて人殺しをして自分の行いに震えていた時も、あの人はあたしが落ち着くまで抱き締めてくれた。
あの人はいつもあたしを気遣ってくれた。
なのに、今のあたしは見守るだけで何もできない。
そうしている間に、ユーマくんはあの人達にエンシェントロッドを弾き飛ばされて、その後ジルドラスで応戦して少し巻き返せたけど、やっぱり、1対3の不利を覆す事は出来ず、ジルドラスまで弾き飛ばされてしまった。
今度は魔剣の二刀流で行くみたいだけど、ユーマくんの目はまだ諦めていない。
今のあたしにできる事は、あの人の勝利を祈る事だけ。
ユーマくん、勝って。
そして、いつもの格好いい笑顔をあたしに見せて。
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ユーマside
「ライトニングエンチャント!!」
僕は再びライトニングエンチャントをかけて、ダグリスさんに向かって突っ込んだ。
ダグリスさんは僕の神速と雷速にしっかり反応した辺り、そこは流石魔族でAランクの冒険者と言ったところか。
彼は杖を使って僕の攻撃を防御したが、僕はその衝撃を利用して体を空中で捻り、ダグリスさんの腰に向けて空中回し蹴りを放った。
「ぐほぁっ!?」
「次!」
そのままダグリスさんを吹っ飛ばし、続いてトロスさんに切り掛かった。
彼も両手の2本の剣で向かってきて、僕達の合計4本の剣が激しい鍔迫り合いとなった。
「俺を忘れちゃ、困るぜ!」
そこにバロンさんが風斬剣を振り被って、迫ってきた。
「くっ! フレイムウェーブ!!」
僕は黒薔薇を地面に差し、それに火の魔力を流した。
それにより自分を中心に、炎を波状に放ちトロスさんとバロンさんを同時に攻撃した。
「うおっ!?」
「これはっ!?」
2人は炎の波に飲まれ、そこから脱出した時には体の一部が焦げていた。
「まだまだです!」
僕は更に炎から飛び出して2人の懐に突っ込み、両手の魔剣に雷の魔力を流した。
僕は両手に雷を纏った魔剣を振り、右手でバロンさんを、左手でトロスさんを攻撃したが、2人の剣に受け止められた。
だが、これが僕の狙いだ。
今の僕はライトニングエンチャントを発動し、両手の魔剣にも雷の魔力を流している。
「ライトニングショック!」
そこに僕の2本の剣を伝って、バロンさんとトロスさんは感電した。
「のわっ!? 体が、痺れる!」
「僕達の剣を伝って、体に電気が!」
この魔法は金属を伝って電気を送る事で、対象を感電させる魔法だ。
魔剣は刀身が金属でできているから、結果2人は金属の刀身を伝って、僕の流した電気に感電している。
「エアロジャベリン!」
その瞬間、脇腹に強い衝撃が伝わり、僕は吹き飛ばされた。
「うっ……!」
突然の衝撃に意識が飛びそうになったが何とか立ち上がり、周りをよく見ると攻撃のあった方でダグリスさんが僕に杖を向けていた。
どうやら、さっきの衝撃は彼の放った風魔法による物だったみたいだ。
この魔竜のローブの上からだったからその効果のお陰で、直接によるダメージはなかったけど、それでも伝わる衝撃だけはどうにもできなかった。
この魔竜のローブはダメージこそはないけど衝撃だけは無効にできないというのは、ゼノンさんとの戦いで証明されているからな。
しかも今の攻撃で、バロンさん達が集まり、大勢を立て直されてしまった。
「助かったぜ、ダグリス。今のはちょっと危なかった」
「ええ。あのまま電流を浴びていたら、意識を持って行かれたかもしれません」
くそ……やっぱりこの人達、Aランクの冒険者パーティーなだけあって、僕の出す戦術に次々と対応して封じて来る。
流石に、僕も勝てるイメージが湧いてこなくなってきた。
でも、ふとラティの方を見ると、彼女の辛そうな顔が見えた。
その時僕の脳裏に、ラティがあのデイツと結ばれた未来を想像し、僕は激しい吐き気に襲われそうになった。
それは絶対に考えてはいけない未来だからだ。
ラティは僕のお嫁さんだ。
それに約束したんだ。
必ず勝つと、そして僕と一緒に幸せになろうと、僕達はまだそれが出来ていないのに、僕はこのまま負けてあいつにラティを渡してしまってもいいのか?
いや、それは絶対に駄目だ!
その時にこう思った。
これ以上、あの子にあんな顔はさせたくない、ラティには笑顔でいてほしい!
そう思うと、僕の中に沸き始めた敗北感が消えた。
「僕はまだ戦える」と自分の心が訴えてくる感覚がした。
だが、これ以上は二刀流も限界かもしれない。
そう判断した僕は、魔剣を鞘に納め、背中の大剣に手を伸ばした。
僕の切り札でもあり、最強の剣に。
神剣ミネルヴァ、お父さんが僕に贈ってくれた3本目の剣で、僕が持ってる中で1番強いマジックアイテムだ。
女神イリアステル様が創ったと言われる武具、神器の1つで、神剣と呼ばれている大剣だ。
その性能は僕が持っている魔剣や魔槍の中では最も高い、僕の最強の剣だ。
何故、もっと早くこの剣を使わなかったかは、その強さだ。
旅に出てから武器の練習や道中に出くわした魔物との戦闘で、この剣を使った事があったが、この剣は神剣というだけあって余りにも切れ味がいいだけではなく、魔力を流して起動させた際の性能が他の魔剣や魔槍を大きく凌駕していたんだ。
だからあまりこの剣に頼っていると、その強さに溺れる可能性を考えた僕は、余程の事がない限りこの剣の使用を控える事にした。
だが、エンシェントロッド、ジルドラス、白百合と黒薔薇、先の4つのマジックアイテムでは、この人達には勝てないと踏んだ為、僕はミネルヴァを抜き、構えた。
「それが、お前の切り札か」
「確かに、その剣から漂う魔力、通常のマジックアイテムではありませんね」
「見るからに、とんでもない魔剣だってのは分かるぞ」
3人は一目見ただけで、このミネルヴァの凄さに気付いたみたいだ。だが、僕は何も言わずに剣先を3人に向けた。
「あいつの武器は、あの大剣が最後だ! あの大剣での戦いを封じれば、事実上俺達の勝ちだ! このまま一気にカタを付けるぞ! インフェルノジャベリン!!」
ダグリスさんは巨大な獄炎の槍を放ってきたが、僕は落ち着いてミネルヴァに魔力を流し、左から右へと薙ぎ払った。
その瞬間、僕の目の前まで迫っていた槍は一瞬で霧散して消滅した。
「なっ!? 俺の魔法が消えただと!?」
案の定、ダグリスさんは目の前で起きた現象に驚いていた。
「まさか……ユーマくんは魔力を斬ったのでは!?」
トロスさんはいち早く、僕のやった事に気付いたみたいだ。
「そうです。これは魔剣ではなく、神器の1つである神剣ミネルヴァ。この神剣ミネルヴァは、ただ物を斬るだけでなく、肉体を傷つけずに魔力だけを斬る事も出来るんです。その魔力を肉体ごと斬れば、肉体は傷つかないけど一時的に魔力炉が損傷して、暫くの間は魔法が使えなくなり、意識も失います。これが、僕の最強の剣、神剣ミネルヴァの能力の一つです」
この説明に、バロンさん達は驚いていた。
「神器って……そんな物を持っていたのか……」
「申し訳ありませんが、僕も負ける訳にはいきませんので、このまま一気に片を付けさせて貰います」
僕は再びミネルヴァを構え、ライトニングエンチャントの効果による雷速でトロスさんに目掛けて駆けだした。
トロスさんは咄嗟に両手の剣を交差させて防ごうとしたが、僕はミネルヴァに再び魔力を流して振り落ろした。
その結果、トロスさんの剣は2本とも折れて、トロスさん自身もミネルヴァによって斬られて倒れた。
だが、トロスさんの中にある魔力炉だけを斬った事により体に損傷はなかったが、魔力炉を斬られた事で魔力が一時的に霧散してしまった事で彼は意識を失い、その場に倒れ伏した。
「トロス!!」
「あいつがたった一撃で!?」
僕は続けてダグリスさんに剣を構えた。
「次はあなたです」
「ぐっ……舐めるな! ダークネスフレイム!!」
ダグリスさんは杖から闇属性を加えた巨大な火炎弾を放った。
「ソニックブレード!!」
それに対して、僕は剣を振って巨大な風の刃を放ち、魔力の塊ともいえる火炎弾を霧散させその刃は同時にダグリスさんを切り裂いた。
体に損傷はないが、さっきと同じく魔力炉だけが斬られた。
「が……っ!? 俺の魔力が……無くなっていく……だと……」
トロスさんと同じく、体の損傷はないが魔力の欠乏によって、ダグリスさんも倒れた。
「後は、あなただけです。バロンさん」
これで、マッハストームはリーダーであるバロンさんだけとなった。
「凄いな、お前。たった1つの武器に変えただけで、トロスとダグリスを一撃で倒しちまうなんて。お前みたいな奴が、将来本当の大物になっていくんだろうな。だが、俺も前回の優勝チームのリーダーにして、Aランクの冒険者! そう簡単にはやられないぜ!」
バロンさんは風斬剣を握りしめ、僕に向かって駆けた。
確かに、バロンさん達はとても強い。
その強さはAランクに恥じない強さだ。
だが僕だって、10年の間Sランク冒険者4人の下で修業していたんだ。
そう簡単に負けたりするもんか。
僕は風を纏った剣を躱して、返しでミネルヴァを振ったが、バロンさんは身体強化で体を捻ってそれを躱し距離を開けた。
おそらく、ミネルヴァの効果を警戒しているんだ。
無理もない。
既に2人、この神剣の力で倒したばかりなんだ。
普通に受け止めれば、風斬剣ごと自身も斬られて負けるのが分かってるから、剣による打ち合いを避けているんだ。
僕はライトングエンチャントの効果による最速で距離を詰めて攻撃したが、バロンさんは僕の攻撃を体を捻って躱し、また距離を開けた。
「それなら、このスピードでどうですか! ソニックエンチャント!!」
僕は一旦ライトニングエンチャントを解除して、全身に風の魔力を纏って、身体強化を掛けた。
ソニックエンチャント、複合身体強化の風属性バージョンで、ライトニング、バーニングと違い攻撃力は普通の身体強化と遜色ないが、風の力で移動速度、攻撃速度などのあらゆる動きを音速で行える様にするスピード重視の複合身体強化だ。
僕はそのスピードで、一気にバロンさんとの距離を詰めた。
そして、両手に持ったミネルヴァを振り被った。
「は、速い!?」
これにはバロンさんは反射的に剣を構えて、攻撃を防ごうとしたが、それが勝敗を分ける事となった。
「これで、終わりです!!」
僕はミネルヴァを振り下ろし、風斬剣を刃の根元から斬り落とし、バロンさん諸共切り裂いた。
「あ……っ、み……見事だぜ……俺達に、勝つなんてよ……」
それにより、バロンさんは魔力の欠乏によって倒れ伏した。
「そこまで!! 勝者、銀月の翼!!」
審判の掛け声と共に、観客席からは大歓声が上がった。
僕は勝った事に対する喜びで一杯だった。
ふと、後ろの方を向くと、ラティが泣きながら駆け寄ってきた。
「ユーマくん!!」
彼女は僕の胸に飛び込んできて、頭をグリグリと押し付けてきた。
人前だから恥ずかしいけど、僕はそれに構わず飛び込んできたラティを抱きしめた。
彼女もそれによって抱きしめ返し、僕達は抱擁を交わした。
「よかった……ユーマくんなら勝ってくれるって信じてたけど……あたし何もできなかったから……」
「安心して、ラティ。僕は約束通り、勝ったよ。これで、あの次男貴族も文句を言えないだろう」
「うん。ありがとう、ユーマくん」
暫くの抱擁を交わした後、僕達は僕の落とした武器を回収して、フィールドを後にした。
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次回予告
戦いを終えたユーマ達は、バロン達に事情を話しその事後処理へ。
そして、決勝戦の相手を予想する。
次回、後始末




