第49話 1vs3
前回のあらすじ
ラティに結婚を申し込む貴族が現れ、彼女は既にユーマがいるからと申し入れを断る。
しかし諦めきれない貴族は彼女との婚姻を賭け、ユーマに不利な条件を出す。
それは準決勝の対戦チームにユーマ1人で戦い、ラティは一切手出ししないという条件だった。
だがユーマはその不利を承知で、それを承諾する。
翌日になり、僕達は現在コロシアムの控室にいる。
僕は今日の試合の装備を確認した。
左右の腰には白百合と黒薔薇、背中にはジルドラス、エンシェントロッドを交差させる様に、そしてその上に神剣ミネルヴァを差している。
今日は全ての装備を構えた完全装備でいく事にした。
相手が前回の優勝チームである以上、万全の状態で臨まなければいけないからね。
その時、控室の扉からノックがして、扉を開けると昨日のデイツ様の後ろにいた執事さんが入ってきた。
「失礼します」
「あなたは、昨日の」
「昨日は挨拶できなくて申し訳ありませんでした。私はトーラス家にお仕えする執事、チャルスと申します」
「昨日名乗ったと思いますが、ユーマ・エリュシーレです」
「婚約者の、ラティ・アルグラースです」
「ユーマ様、ラティ様、申し訳ありませんでした」
そういってチャルスさんは突然頭を深く下げた。
「どうしたんですか、チャルスさん? もしかして、昨日の事ですか?」
謝られる心当たりと言えば、昨日のあれしか思いつかない。
そうしたら、彼は頭を下げたまま肯定した。
「はい。デイツ様が無茶な条件を出した事、深くお詫び申し入れます。デイツ様は普段は分別の良い方なのですが、1度こうと決めたら中々譲らない頑固な一面がありまして。今回のラティ様の婚約者に関しては、デイツ様も本当は頭の中では分かっておられるのです。しかし、デイツ様にとっては今回が初恋だったのでしょう。よって、中々御2人の仲を認められない自分がいて、それが今回の条件を呼んでしまったのでしょう。その事を含めまして、深くお詫び申し入れます」
成程。この人は今の時点で結構信用できる人だな。
自分の主が起こした問題に、こうして態々僕達の所に赴いて深く謝罪を入れるその姿勢、僕は嫌いじゃない。
「頭を上げてください、チャルスさん。僕は自分の意志でこの条件を飲んだんです。だから、あなたが責任を負う事はありません。それに、僕は大人しく負けて、彼女との婚約を破棄する気も、まして彼に婚約者を譲る気も毛頭ありません。だから、大船に乗ったつもりで任せてください」
「ありがとうございます。本来ならデイツ様の味方をしなければならないのですが、今回はユーマ様の勝利を祈ります。頑張ってください」
「任せてください」
それから間もなくして、僕達の試合の時間になった。
フィールド内に入ると、既に凄い歓声が響いていた。
これには理由はいくつかある。
何せ今回の僕達の相手は、前大会の優勝チームなのだ。
その相手は既に僕らの前に立っている。
チーム名は、マッハストーム。
彼らは冒険者パーティーでもあり、そのランクもAランク。
人族のバロンさんをリーダーに、豹人族のトロスさん、イリスさんと同じ魔族、悪魔族のダグリスさんで構成されたチームだ。
装備は、バロンさんが両手剣、トロスさんが長剣と小剣の二刀流、ダグリスさんが魔法杖。前衛と後衛のバランスの取れたチームとなっている。
3人は既に武器を持って構えている。
僕もそれに合わせて、背中のジルドラスとエンシェントロッドを抜いた。
「お前達の戦いはこれまで全て見ていた。その年で大したものだ」
「だからこそ、僕達も戦い甲斐がありますよ」
「俺達を楽しませてくれよ」
バロンさん、トロスさん、ダグリスさんの順に、僕達に言葉を放った。
「今日はよろしくお願いします。僕も、前回の優勝チームと相まみえる事になって、光栄に思っています」
「そうか。なら、これ以上は言葉はいらないな。掛かって来い!」
「はい!」
僕達の会話を皮切りに、審判の掛け声が放たれた。
「これより、マッハストームと銀月の翼の試合を始めます! では、始め!!」
それと同時に、ラティは打ち合わせ通り、フィールドの端っこに向かって走り出した。
「ユーマくん、頑張ってね!」
「任せて!」
僕は改めて、3人に向き合った。
「いざ、参ります! ライトニングエンチャント!!」
僕は得意の複合身体強化を発動し、雷の速さで3人の懐に飛び込んだ。
「メイルシュトローム!!」
左右の武器に魔力を流し、自分を中心に巨大な渦潮を発生させ、3人をその流れに巻き込もうとした。
「甘いぜ!」
その時、バロンさんが両手剣を振り上げ、そこから強烈な風が巻き上がり、渦潮を吹き飛ばした。
「今だぜ!」
「覚悟!」
そこに左右から、トロスさんが剣を突き出し、ダグリスさんが魔法の発動体制に入った。
「フラッシュ!」
僕はエンシェントロッドを上にかざし、光の魔力で閃光を出した。
「ぐっ……!」
「目晦ましか……!」
僕はその隙に3人から距離を開けた。
「剣から出た風。その両手剣は魔剣ですね?」
僕はバロンさんに問いかけた。
目晦ましから回復したバロンさんは、僕の質問に頷いた。
「そうだ。こいつはマジックアイテムで、風斬剣という魔剣だ。こいつに魔力を流して振ると、風を起こす事が出来る。流した魔力の大きさに比例して、風の強さも上がるんだ。俺の魔剣に気付いた辺り、お前のその武器もマジックアイテムだろ? 今までの試合で見て来たが、随分と凄い武器を持ってるな」
「確かに、僕達の武器は全てマジックアイテムです。これらは、僕達が旅立ちの際に、両親が贈ってくれた大切な物です」
「そうか。なら、大切にしないとな。そろそろ再開といこうぜ」
気が付くと、僕はバロンさん、トロスさん、ダグリスさんに囲まれていた。
「処で、あなたの相方はどうしたんですか? さっきから端っこにいたまま魔法を全く使ってこないんですが」
「そういえばそうだな。てっきり遠距離から魔法を放ってお前さんを援護するのかと思ったが、その様子もない。どうしてあの嬢ちゃんは戦わないんだ?」
トロスさんとバロンさんがさっきから戦わないラティに違和感を覚えた。
でも今デイツとの事を話すのもなんだから、とりあえず今の僕達の現状は言って置こう。
「実は、僕達はとある事情で、彼女が戦う事が出来ないので、僕が頑張らないといけないんですよ」
そう言うと、バロンさんとダグリスさんの表情が険しくなった。
「おいおい、そりゃあ、俺達を舐め過ぎじゃねえのか? いくらお前が子供離れした強さを持ってるにしても、俺達3人を同時に1人で戦うだと?」
「確かに、あのお嬢ちゃんが試合開始と同時に後ろに跳んだのは見えたが、あれは後方から魔法で仕掛ける為じゃなかったのか」
「理由はこの試合が終わった後に話します。今は、少しでも早く終わらせて、彼女を安心させてやりたいので」
僕はジルドラスを背中に戻し、両手でエンシェントロッドを握り魔力を流し、杖を地面に差して魔力を流した。
「行きますよ! アーススパーク!!」
地面に差した杖を中心に、3人の足元に電気が発生した。
アーススパーク、自分を中心に外側に大きく雷の魔力が広がり、周りにいるものを足元から感電させる雷魔法の中級魔法だ。
だが、僕はそこに探知魔法を組み合わせる事により、外側に広げるのではなく特定した場所に直接電流を流す事で、通常のアーススパークよりも正確に尚且つ素早く感電させることが出来る。
3人はこれにより、感電するはずだったが、
「アンチスパーク!」
ダグリスさんが足元に魔力を流し、周囲の雷の魔力を霧散させてしまった。
「隙ありだぜ!」
そこに、バロンさんとトロスさんが同時に切り掛かってきたが、僕はそれを杖で防ぐ。
しかし、途中バロンさんが風の魔力を加えてきて、手に持ったエンシェントロッドはその風圧で飛ばされてしまった。
「ぐっ……! まだです!」
僕は再びジルドラスを手に取り、それを双頭の刀槍に変形させて2人に剣戟を受け止めた。
「魔力で変形する魔槍ですか。厄介な物を持ってますね」
「まだまだこれからです! 雷竜牙撃!!」
僕は2人の剣を弾き、雷を帯びた槍で刺突を繰り出した。
これは、5回戦で戦ったゼノンさんの竜人魔法を参考にした、自身の武器を竜の牙に見立てての攻撃だ。
幸い僕にはアリアがいるから、より鮮明なイメージで繰り出す事が出来る。
結果、トロスさんの右肩に槍を刺し、彼にダメージを与える事が出来た。
「ぐぁぁぁっ……!」
トロスさんは素早く後退して強引に槍を抜き、距離を開けた。
「俺もいる事を忘れるな。ブレイズキャノン!!」
そこに、ダグリスさんが巨大な火球を放ち、それに合わせてバロンさんも距離を開けた。
「ボルテックスキャノン!!」
僕はそれに対抗して、巨大な雷球を放って相殺させた。
「ソニックブレード!!」
続けて僕はその場で1回転してバロンに向かって槍をふるって放った風の刃で、バロンさんに仕掛けた。
「俺に風で攻撃か、おもしれえ!!」
バロンさんはこれで何度目であろうか、魔力を流して振り上げた風斬剣で発生させた暴風で、僕のソニックブレードを掻き消してしまった。
「アイシクルスパイク!!」
そこに、ダグリスさんが僕の足元に目掛けて無数の氷の棘を一直線に生やして、僕はそれをハルバードに変形させたジルドラスを振り下ろして足元の氷を砕いた。
だが、すかさずに現れたトロスさんの二刀流に、ジルドラスまで弾き飛ばされてしまった。
「これで、杖に続き槍も失いました。取りに行こうにも、それを僕達が許す筈がありませんよ」
確かに、トロスさんの言う事も尤もだ。
この状況で落とした武器を拾いに行こうとしたら、確実に彼らの追撃に晒されてしまう。
だから僕は、最もオーソドックスな魔剣の二刀流に切り替え、2本の魔剣を抜いた。
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次回予告
ユーマは二刀流で戦うが、数の差を埋める事は出来ない為、次第に追いつめられる。
しかし、ラティの顔を見たユーマは。再び闘志を燃え上がらせる。
そして最強の剣に手を伸ばす。
次回、神剣ミネルヴァ




