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第48話 大切な人の為に

前回のあらすじ

ユーマとゼノンの戦いは一度はゼノンの優勢となるが、ユーマはジルドラスの力を引き出し形勢を巻き返し、最後は互いの全力の魔法で勝負する。

結果はユーマの勝利で幕を下ろし、イリスはユーマ達に激励する。

 武闘大会も4日目になり、準々決勝になった。


 ここからは4日目に準々決勝、5日目に準決勝、6日目に決勝戦という流れになる。


 僕達は現在、準々決勝を終えてアリア達を引き取り、コロシアムを出ようとしている。


 その試合の相手は、2回戦と同様獣人だけのチームだった。

 全員が片手剣や大剣、短剣などの近接武器を装備しての、獣人族の高い身体能力を重視した速攻での戦いを得意とするチームだった。

 魔法に対しては、相手が魔力を練り上げるまでの時間を利用しての接近戦でここまで勝ち抜いてきたが、ラティの素早い魔法攻撃の前にその目論見は崩れ、僕が接近戦でリーダーを倒したので勝利できた。


「失礼、そこのお嬢さん。少し宜しいですか」


 宿に帰る為コロシアムを出ると、突然目の前に1人の少年が出て来た。

 その少年は僕達と同じぐらいで、見た感じ、貴族みたいだった。

 その後ろには燕尾服を着た執事らしき初老の男性がいる。


 どうやら彼の目的はラティみたいだ。


「はい、何ですか?」


「試合でのあなたの姿、見させて頂きましたが、あなたのお名前を聞いてもいいでしょうか?」


「はい、ラティ・アルグラースですが」


 名前を聞いて、その貴族の少年はうっとりとしていた。


「ラティ。いい名前だ。その人を吸い寄せる様な可憐な容姿、ここまで大会を勝ち抜いてきた魔法の実力、平民にもこの様な者がいたとは。申し遅れました。私はデスペラード帝国のトーラス伯爵家の次男、デイツ・フォン・トーラスと申します。ラティさん、私はあなたに一目惚れしました。ぜひ私と婚姻を結んでくれませんか?」


 は?

 この貴族今何て言った?

 ラティに婚姻を結んでくれ?

 それって、ラティにプロポーズ!?

 冗談じゃない!

 彼女は僕の婚約者だ!


「申し訳ありません。私には、既に将来を約束した婚約者がいますので」


 ラティはそう言って、僕の左腕に抱き着いてきた。


「初めまして、デイツ様。ラティ・アルグラースの婚約者、ユーマ・エリュシーレです」


 僕は彼にお辞儀をして挨拶した。


 お母さんの授業では、貴族と話をする事になった際の社交辞令も教わっている。

 だからこの挨拶が正解な筈だ。

 さて、この貴族はどう出るか。


「そんな……やっと、私の妻に相応しい女性を見つけられたと思ったのに、既に他の男が……」


 デイツはかなりショックを受けたみたいだ。

 ……と思ったら、彼はガバッと顔を上げてラティに何やら語りだした。


「しかし、ラティさん! 彼は平民です! 対して私は、次男ですが貴族。それも、デスペラード帝国のトーラス家のです! 平民よりも貴族の私と結婚した方が幸せになれます!」


 デイツは貴族と結婚した際の魅力を語りだした。

 曰く食事は常に最高級の食材を使った物ばかり、曰く毎日豪華なドレスやアクセサリーを着たり付けられる、他にも何も不自由なく生活が出来る等々、まあ、人によっては魅力的だし幸せそうだとは僕も思う。

 世の中にはお金では幸せは買えないというのは綺麗事だと言う人もいるし、それに関しては僕も一定の理解が出来る。

 だが問題は、それを本人がどう思うかだ。


「デイツ様、確かに魅力的な話かもしれませんが、私は、そんな見た目だけの幸せじゃなく、自分が本当に愛した人と生涯を共に過ごす。そんな幸せを望んでいるのです」


 ラティは僕の腕に少し力を入れて自分の幸せを語った。

 正直僕がその本当に愛した人というから、とても嬉しい。

 よく見たら、後ろの執事さんも目元をハンカチで抑えている。

 どうやら今のラティの言葉に感動している様だ。


「ぐっ……では、その男ならあなたを幸せにできるという事ですか?」


「はい、私はこの人を信じています」


 デイツの質問に、彼女は迷いなく答えた。


「では、証明してください。そちらのあなた、ユーマと言いましたな」


 彼の対象が僕に変わった。


「はい」


「明日の準決勝、対戦相手のチームに、あなた1人で勝利してみてください。ラティさんがいなければ出場できないので、彼女にはフィールド内にいるだけにしてもらいます。その試合は、ラティさんは一切手出しせず、ユーマさんのみで戦って貰います」


 デイツの出した条件は、リアルかぐや姫ともいえるある意味無理難題だった。

 なぜなら、明日の僕達の対戦相手は、前大会の優勝チームだからだ。

 そんなチームを相手に僕1人だけで戦うなんて、普通に考えたら無茶苦茶だ。

 だが、この人は見た所勢いで言ってる様にも見えるけど、もし分かってて言ってるならそれはそれで質が悪い。


 この条件に、ラティは絶句し、アリアとクルスは殺気を込めて睨みつけ、執事さんは呆れた眼差しを彼に向けていた。


「では、それで僕が勝ったらどうするんですか?」


「その時は、私はラティさんへの求婚を諦めて引き下がる。だが、あなたが負けた場合は、あなたにはラティさんを幸せにできないと見做し、彼女との婚約を破棄して貰います」


「何を言ってるんですか!? そんな条件、受けるわ……「分かりました。その条件、受け入れます」……ユーマくん!?」


 僕はラティの言葉に口を挟んで、その提案に同意した。

 ラティだけでなく、従魔達も僕の決断に驚いている。


「約束ですよ。では、本日はこの辺りで。また明日」


 デイツはそう言って、後ろの馬車に乗り去っていった。

 執事さんは去り際に深く頭を下げていた。


「ユーマくん! 何を考えているの!? 勝手にそんな約束して、もし負けたら……負けたら……」


 ラティは次第に涙を流してきた。


 僕はそんな彼女を抱きしめた。


「ごめんね、勝手に決めたりして。でも、これは僕もある程度覚悟していた事なんだ。これから先、僕や君には貴族や商人なんかが今みたいな事をして来る事がある筈だから」


 そう。

 ラティは今の時点で、100人が見たら100人は振り返るんじゃないかという程の美少女。

 僕もお父さんとお母さんの特徴を上手く分けたかなりの美少年に成長している。

 だから、婚約していても今みたいに、そんな男もしくは女より自分と結婚した方がいいと言う者は確実に現れる。


 本当は国王から授かった王家のメダルがあれば、デイツの様な相手も追い払う事は出来るが、あまりあれに頼っていると癖になって自分の力では何もできない駄目人間になりそうな感じがするから、僕もラティもあれは最終秘密兵器として温存している。

 故に、できる事なら自分達の力で乗り越えようと僕達は普段から決めている。


「だから、これから先、君を必ず守る為にもこれくらいの覚悟が無ければ君を幸せにする事は出来ない。その為にも、明日の試合は絶対に勝つ。そして、君を守り抜き、幸せにすると約束する」


 僕の言葉を聞いて、ラティは嬉しそうに微笑んだ。


「分かったわ。あたしも、ユーマくんを信じます。だから、明日の試合勝ってね」


「うん、約束する」


 それからは、宿に戻った後、僕達はアリア達を厩舎に預けた。


――――――――――――――――――――


 その夜、僕達はベッドの上で激しく交わっていた。

 それはもう激しくだ。

 ラティを誰にも渡したくない、そんな独占欲を込めるかの様に僕は彼女を抱いた。

 そしてラティもまた、そんな僕の想いに応えて身を委ねてくれた。


 そんな彼女の想いを無駄にしないべく、僕は明日の試合、必ず勝つと改めて誓った。

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お待ちしております。


次回予告

ラティとの未来を懸けた準決勝、ユーマは対戦相手のチームに約束通り1人で対峙する。

しかし、相手は全てがAランクの冒険者だった。


次回、1vs3

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