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第47話 ユーマvsゼノン

前回のあらすじ

ラティはイリスと魔法対決をし、その実力は拮抗する。

しかし、ラティの固有魔法による無尽蔵の魔力の前に、イリスは魔力切れを先に起こしてしまい、自ら降参しラティの勝利となる。

 ユーマside


 時は戻り、僕がゼノンさんと激突した所まで遡る。


 僕はライトニングエンチャントと白百合の神速を掛け合わせたスピードで、ゼノンさんに突っ込み白百合で突きを出した。

 対するゼノンさんも、こっちに向かって突っ込みながら右腕を突き出してきた。


竜撃爪りゅうげきそう!!」


 ゼノンさんが突き出した右手はさっきと違って腕全体が竜の鱗で覆われ、更に爪が長く鋭くてまるで竜の腕その物だった。


 その腕と白百合の激突で、僕は弾き返され一旦距離を開けた。


「腕が竜みたいになるなんて……もしかして、それが竜化魔法という奴ですか?」


「ほう。竜化魔法を知っていたのか。その年で中々博識なようだな。如何にも、今のは竜化魔法の1つ、竜撃爪。己の腕を竜化させて、その爪で敵の体を引き裂く魔法だ。私は武器で戦うのではなく、竜化させた体での体術で戦うのを得意としているのだ」


 竜化魔法、以前お母さんの授業で習った、竜人族のみが使える無属性の固有魔法だ。

 己の体を竜の体にしたり、8属性と組み合わせて竜が使うブレスが使えたりと自身の身体を竜に例えて攻撃する魔法だ。

 その威力は大きく、竜人族が単独で高ランクの魔物を倒す事も出来ると言われる所以(ゆえん)にもなった魔法だ。

 それに加え、どうやらゼノンさんは身体強化を重ね掛けするという高等技術で、竜化させた技による攻撃力を何倍にも強めている様だ。


「それは凄い。だったら、僕も出し惜しみせずに全力を出します!」


 僕は再び、ゼノンさんに突撃した。


 僕は複合強化と白百合の相乗効果による加速で斬りかかったが、ゼノンさんは竜化させた腕で防いでしまった。

 以前盗賊を斬った時は簡単に真っ二つにできたのに、今回は簡単に防がれた。

 そこにゼノンさんは回し蹴りをしてきたが、今度は僕が黒薔薇で受け流して防御した。

 その時の感触から、靴や服越しだから分かり辛いけど脚も竜化させている様だった。


 さっきもそうだったが、どうやら竜化魔法で竜化させた箇所は、竜その物に近い防御力になるのかも知れない。

 修業時代にアリアと模擬戦した事があったが、その際武器を当てた感触があの時に似ていたからだ。

 ……まあ、竜人族のゼノンさんと竜神のアリアを比べるのはおかしいかもしれないけどね。


 ゼノンさんは防いだのと同時に竜化させたもう片方の腕での手刀を繰り出したが、僕はライトニングエンチャントの効果による強化され反射神経で回避して、1度距離を空けた。


「行きます! ブルークリムゾン!!」


 僕は大きくジャンプして、白百合に炎の、黒薔薇に氷の魔力を纏わせて斬りかかった。


「受けて立つ! 竜昇脚りゅうしょうきゃく!!」


 ゼノンさんも脚部に魔力を流して飛び上がって、竜化させた足による蹴り上げを繰り出してきた。

 僕の剣と彼の脚が衝突したが、竜の蹴りとして放たれた脚に剣が2本とも弾かれた。


「隙あり! 降竜烈火脚こうりゅうれっかきゃく!!」


 続けてゼノンさんは体を1回転させての、炎を纏った竜の脚で踵落としを繰り出し、僕はそれを右肩にもろに喰らい地面に叩きつけられた。


「ガハ…………ッ!!?」


 背中から地面に叩きつけられた衝撃で、一瞬肺の空気が全て出たかの様な感覚に襲われた。


 僕は肩に受けた衝撃に耐えながら、何とか立ち上がった。

 だが、衝撃によりライトニングエンチャントは解除されていた。


「ほう、今のを受けて立ち上がれるか。見た所怪我的な怪我は見受けられないが、その様子からダメージは入ってる様だな」


 直接的なダメージは、この魔竜のローブの効果で無効になってるけど、やっぱり内側に来る衝撃だけは防ぎようがなかったな。


「ええ……今のは効きましたよ……でも、僕はまだ戦えます! 勝負はこれからです!」


 さっきの一撃を受けた際、剣を放してしまったので、今度は背中に差したジルドラスを抜いて構えた。


「次は槍か。複数の武具を扱える辺り、お主は良い師匠の下で修業していたらしいな。1つの武具に特化するのではなく、様々な状況に対応できる様に修業を付けられた様だ」


「ありがとうございます。僕らの両親の事を褒めて頂き、感謝します」


「そうか、両親か。良い親に恵まれている様だな。では、そろそろ再戦といこうか」


「はい!」


 僕はジルドラスを両手で持ち、魔力を込めて薙ぎ払いに振った。


竜剛腕りゅうごうわん!」


 ゼノンさんはその攻撃を竜化させた腕で防いだ。

 これもさっきと同じだが、今のゼノンさんは腕に目掛けた攻撃に意識が行っている。

 つまり、他の場所はノーガード状態だ。


「貰いました! これはどうですか!」


「何!?」


 僕はその隙を見逃さず、ジルドラスの石突に魔力を流し、双頭の槍にして下から振り上げた。


「ぐあっ……!!」


 流石のゼノンさんもこの攻撃に反応が遅れ、胸元を切り裂かれた。


 彼はこの試合で初めて自分から距離を開けた。


「見事だ、ユーマ殿。私に傷をつけ、さらに後退までさせた事、お主の強さを改めて認めよう。しかし、私は誇り高き竜人族! これしき程度で負けを認める様な軟弱者ではない!」


 ゼノンさんは再び距離を詰め、竜化させた両腕両足による連打を繰り出してきた。

 僕はそれをジルドラスで受け止め、流し、反撃に出たりと、ゼノンさんと互角に戦えていた。


 その時、ゼノンさん突然距離を空け、竜化させた両腕を突き出し、そこに魔力を集中させた。


「我が敵を打ち払うは、全てを焼き尽くす竜の息吹!」


 ゼノンさんの口から、何か言葉が綴られた。


 これって、まさか詠唱!?


「竜化魔法奥義! 火炎竜哮波かえんりゅうこうは!!」


 ゼノンさんの両手から、巨大な炎が放たれ、僕に襲い掛かった。


「ソニックブレード!!」


 僕はジルドラスに風の魔力を流し、炎に向けて槍を振り巨大な風の刃を放った。


 ゼノンさんの炎は僕の風に切り裂かれた。

 僕が槍に流した膨大な風の魔力と、ジルドラスの力でこの刃は、魔力をも切断する程の破壊力になったんだ。


「くっ……!」


 ゼノンさんは咄嗟に回避して、風の刃を受けずに済んだ。


「何と、私の奥義に打ち勝つ魔法とは……これ程血が騒ぐ戦いは久方振りだ!!」


 その時、ゼノンさんは別の方を見た。


「どうやら、向こうの戦いは終わった様だな」


 ふとゼノンさんの見ている方に視線をやると、巨大な魔法同士が消滅して、息を切らしているラティ達の姿があった。


「どうやら、魔法勝負はお主の相方に軍配が上がった様だ。イリスが降参を申請した様だしな」


 そうか、ラティは勝ったのか。

 なら、僕も負けていられないな。


「では、僕達も決着をつけるとしましょう。疲れている彼女を待たせる訳にもいきませんので」


 僕はジルドラスに魔力を籠めて、矛先をゼノンさんに向けて構えた。


「そうだな。疲弊している女子を待たせるのはよくない。では、私も最強の技で、決着を付けよう」


 ゼノンさんはどうやら次の技で決着をつける気の様だ。


 でもその前に聞く事がある。


「ゼノンさん、決着をつける前に聞きます。さっきの炎の魔法を放つ前の口上、あれは何ですか?」


 僕がこの質問をするのには訳がある。


 何故なら、この世界の魔法の発動には()()()()()()()からだ。

 魔法は、使う魔法のイメージを明確に纏め、魔法名を唱える事で発動できると、お母さんとエリーさんからそう教わったからだ。

 だから、さっきのゼノンさんの様な詠唱は本来は必要ない筈だ。


「ふむ。確かに本来は魔法の行使にあの様な言葉を綴る事は必要ない。しかし、私は奥義を放つ際、それに似あった前口上を(つづ)る事により、その奥義の完成度をより明確にして放つ事が出来るのだ」


 成程、その言葉を聞いて、僕の頭の中で1つの仮説が出来た。

 それは所謂、言霊の類の様な物かもしれない。


 「自分が想った事、口にした事は現実になる」という言葉が前世にはあった。

 ゼノンさんは奥義を放つ時、その技に因んだ言葉を綴り、それに魔力を通す事でただイメージを込めるだけではなく、心を込める様にその前口上で自身の言葉に魔力を込める事で、その技の完成度をより明確にイメージして放つ事が出来るんだ。


 それに、よく考えたら、僕達は魔法を使う時に魔法名を唱えているが、あれも()()()()()なのかもしれない。

 魔法名を唱えるという事は、その言葉に魔法の効果のイメージを乗せているという事だから、それが1つの魔法として顕現しているのかもしれない。

 それなら、僕が探知魔法を使う時に「サーチ」といった時の方が、より広範囲の索敵が出来るというのもそれが原因なら頷けるな。


 他にも、無属性魔法は属性魔法と比べて魔力の制御が簡単だから、基本的に無属性魔法や固有魔法は魔法名を唱えなくても発動させる事が出来る。

 これは単純にイメージがしやすいから言霊を乗せなくてもいいからだ。

 勿論魔法名を唱えても使えるのは、僕が探知魔法で「サーチ」と言っている事で実証されている。

 でも基本的には無属性魔法は前世で言う完全な無詠唱で使われているけどね。


 僕は思わぬ所で、魔法の根幹に触れてしまったのかも知れない。

 という事は、ゼノンさんは言霊の事は分からなくても、直感でこの事に気付いたのかも知れない。


 僕の反応が表情に出ていたのか、ゼノンさんは不敵に笑って口を開いた。


「どうやら理解して貰えた様だな。では行くぞ。最後の勝負だ!」


 ゼノンさんは離れたここからでも判る程に両腕を竜化させて、右腕に炎の、左腕に雷の魔力を纏った。

 どうやら、竜人魔法の複合魔法みたいだ。


「この技は先の火炎竜哮波と同様、竜化魔法の奥義。だがその威力は今の私が使える中でも最も強い、我が最大奥義。行くぞ、ユーマ殿!」


 彼はそう言って、僕に突っ込んできた。

 僕もそれを迎え撃つべく、ジルドラスに巨大な雷と風の魔力を込めた。


「我が内の炎と(いかずち)の力を一つに合わせ、万物を打ち砕く一撃を生み出さん!!」


 ゼノンさんの前口上により、両手の魔力の勢いが更に強く増した。


「竜化魔法奥義! 豪熱爆雷、獄雷爆裂撃ごくらいばくれつげき!!」


「ボルテックステンペスト!!」


 向かってくるゼノンさんに向かって槍を振るい、雷の暴風を放った。


 ボルテックステンペスト、雷を風の魔力で制御して雷のエネルギーを加えた風を放つ、カオスインフェルノに匹敵する僕のとっておきの複合魔法の1つだ。


 ゼノンさんは両腕を交差させて、暴風を捩じり込む様に引き裂いていったが、風の勢いで次第に動きが鈍っていき、僕まであと1メートルもない所で動きが止まった。


「ぐっ………おおおお……っ!? これ程に……力の差が……!?」


「もういっちょ!!」


 僕は更に風の魔力を籠めて槍を振るい、ゼノンさんにかけている風圧を倍にさせた。


 結果、彼はその勢いに耐えられず、遂にその体が持ち上がり壁まで吹き飛ばされた。


「ぐはぁ…………っ!?」


 そこで僕は魔法を解除して、ゼノンさんを風圧から解放したら、彼は力なく地面に倒れ込んだ。


「そこまで! 勝者、銀月の翼!!」


 審判に掛け声で、この大会で何度目だろうか凄まじい歓声が鳴り響いた。


 僕は魔力の消耗とダメージの疲労による影響で、ジルドラスを地面に差して杖にしながら立っていた。


「ユーマくん!」


 そこにラティが抱き着いてきて、2人分の体重を支えきれなくなり倒れてしまった。


「ラティ……流石に僕も魔力の消耗や疲労で疲れているから気を付けて……」


「ごめんね。でも、ユーマくんが勝つ姿を見たら嬉しくて」


 ラティはそう言って天使の様な笑顔を向けて来る。

 だから思わず、彼女の頭を撫でる。


「おめでとう、2人共」


 僕達の前に、ゼノンさんを担いだイリスさんが来た。

 ゼノンさんは意識がないのか、イリスさんに担がれても全く動かない。


「イリスさん、ゼノンさんは」


「大丈夫よ。このフィールドから出れば、肉体は入った時の状態に戻るから。最も、この戦いで受けたダメージは残るけどね」


 そういえばそうだった。

 だからゼノンさんは、こんなになるまで全力で向かってきたんだ。


 今のゼノンさんは、ボロボロだった。

 僕がやったとはいえ、かなりの重傷を負っている。

 両腕は肘の関節が変な方向に曲がり、探知魔法で確認してみると肋骨の何本かが折れていた。


 イリスさんは僕の心配そうな表情で察したのか、口を開いていった。


「心配しなくていいわよ。竜人族は、肉体の頑丈さに優れていて自然治癒能力も高いの。ここから出て肉体が元に戻って、後はゆっくり休めば元気になるわ」


「それを聞いて安心しました」


「今日は楽しかったわ。私達はここまでだけど、あなた達ならきっと優勝できるわ。頑張ってね」


 イリスさんはそう言って左手を差し伸べた。


「はい、頑張ります」


「任せてください」


 僕達は握手を交わし、フィールドから出た。

 その際に、僕達の怪我は中に入った時の状態に戻り、あとは魔力の回復を待つだけだった。


――――――――――――――――――――


「キュイ(どうやらユーマ達が勝った様です)」


「クルルゥ(ラティは?)」


「キュイ(彼女も無事勝った様です。やはり私達の予感は当たりましたね)」


「クルルゥ(そうだね)」


 アリアとクルスは自分達の主の勝利を感じ、安堵していた。

※ユーマの探知魔法で「サーチ」と唱える場面は、「第23話 実戦訓練」を参照してください。


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お待ちしております。


次回予告

武闘大会もいよいよ準決勝となり、ユーマ達は気合を入れる。

しかしそこに、2人へ大きな試練が立ちはだかってしまう。

それは、2人が今後幸せに生きるのに、ユーマが覚悟してい事だった。


次回、愛する人の為に

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