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第42話 3人目の適合者

前回のあらすじ

武闘大会の参加登録をしたユーマ達は、街でクレイルと名乗る狼人族と出会う。

そのクレイルはユーマ、ラティと同じだと言い、何かを呼び出した。

「来い、レクス!」


 クレイルが呼んで渦から出て来たのは……


「ウォン!」


 全長3メートルはありそうな体に白銀の体毛をした巨大な狼の魔物だった。

 しかも、その魔力の強さはバルバドスよりも遥かに上を行っている。


「こいつは俺の従魔のレクス。種族はフェンリルという魔物で、EXランクの魔物だ」


「EXランク!? 君もEXランクの魔物と適合していたの?」


 僕の言葉に、クレイルは不敵に笑った。


「『君も』って事は、やっぱりお前達もそうだったのか」


 彼には既に確信を突かれていたから、もう隠さずに話した方がよさそうだ。


「……うん、そうだよ。実は僕達もEXランクの魔物と適合していたんだ。ラティ」


「うん」


 僕達はアリア達に目で合図を送り、それを理解した2匹は元の姿に戻って、クレイルにその姿を見せた。


「これは……想像以上の覇気だな……」


 クレイルも突然目の前に巨大な竜が現れた事で、若干口元を引き攣らせてる。


「クレイル、改めて紹介するよ。この子は僕の従魔、EXランクの魔物の竜神で、名前をアリア」


『クレイルさん、初めまして。ユーマの従魔のアリアです。以後、お見知りおきを』


「それで、この子はあたしの従魔の、特異種のグリフォン、名前をクルスよ」


「グルルゥ」


 アリアとクルスはそれぞれ、クレイルに改めて挨拶した。


「特異種って事は、グリフォンはSランクでそれが1つ上がってEXランクか。そんで、アリアはレクスと同じEXランクの魔物、しかも竜神か。確かに、そりゃあ人目に目立たない姿になるよな」


 クレイルは僕らの従魔の正体と事情に納得していた。


『あなたこそ、あのフェンリルを従魔にしていたのには驚きました』


 アリアが口を開いた。


『私竜神が全ての竜の頂点に立つのと同じ様に、フェンリルは全ての獣の頂点に立つ存在です。その力は、雄叫び一つで並の者なら一瞬で絶命させる程の力を持ち、その爪は如何なる物をも切り裂き、その牙は如何なる物をも砕くと言われています』


「そんなに強いんだ……」


 フェンリルはアリアと同じEXランクというだけあって、その強さは並じゃない様だ。


「確かに、レクスは今でも十分強いぜ。でも、こいつはまだ成長中だからまだまだ強くなるぞ。まあ、それでも今の時点でSランクに匹敵する力があるけどな」


「なら、それもアリアと同じだよ。アリアもまだ成長段階だから、まだまだ大きくなるし強くなるよ。実際にこの前もデビルスコーピオンを圧倒した程だし」


「そうか。なんか、俺達気が合うかもな」


「そうだね」


 僕らが男同士というのもあるのか、なんか妙に気があった。


「処でクレイルくん。さっき、黒い渦からレクスが出て来たけど、あれって何? 収納魔法じゃ生きている者は収納できない筈だし」


 ラティが質問した事はさっきのレクスの出現した、あの渦だ。

 確かに、あれは収納魔法とは違うものだ。

 収納魔法は死体なら入れられるが、生きている者は入れる事が出来ない。

 という事は、あれは収納魔法とは別の魔法という事だ。


「ああ。あれは、亜空間魔法っていうんだ」


 亜空間魔法?

 聞いた事のない魔法だな。


「知らないのも無理はないさ。これは古代に存在した魔法、ロストマジックという奴に含まれる魔法なんだ」


 ロストマジック、以前お母さんの授業で聞いた事がある。

 遥か昔、それも人族と亜人族との戦争があった頃に存在していた無属性の固有魔法だ。

 しかしその戦争が終結した後、使用者がこの世を去った事で今では失われた魔法ともいわれる魔法だ。

 確か、今ではその効果が記された魔法書がダンジョンで攻略した際のドロップアイテムで極稀に出て来ると言われているけど。


「これは、俺の死んだ両親が遺した魔法書に記されていてな、こことは全く別の空間をイメージして創り出す。その中は収納魔法とは違うものだから、生き物も出入りできる。俺はこれにレクスを入れる事で、こいつの存在を隠しているんだ。表向きでは俺の従魔は戦闘向きじゃないから、故郷の実家に預けている事にしている」


 クレイルから教えられた魔法は僕達の常識を超えていた。

 まさか、別空間を作りそこに生き物を入れるなんて……。


「確かに、それならレクスを入れる事で、人目を避ける事は出来るね」


「クレイルくん、その魔法書はまだ持ってるの?」


 ラティが尋ねた。

 やっぱり魔法を中心にしている分、魔法書にはかなり興味があるんだろう。

 目を輝かせながら尋ねているから。


「残念だが、魔法書はもうない。あれは魔法の技術が外に漏洩するのを避ける為か、俺が読んで使える様になったら灰の様になって消滅したんだ」


「そうなんだ……」


 そう言われて、ラティは明らかに落胆した。


「でもクレイル、君の両親はどうしてそんな魔法書を持ってたの?」


 僕はもっと根幹な質問をした。

 その魔法書は彼の死んだ両親が遺したと言ったが、何故そんな秘宝級な書を持ってたのか。


「悪いが、それは俺も分からない。俺の両親は冒険者夫婦でな、住む家もなく旅をしながら生計を立てていたんだ。うろ覚えだが、俺の親がダンジョンで魔法書をドロップして手に入れたってのを聞いた事がある。だが、11年前俺が4歳の頃に魔物との戦いで2人共命を落としてな、俺は母さんが施した魔道具の結界にいたから生き延びたんだ」


 クレイルの過去はとんでもない重い過去だった。


「ごめん、クレイル。知らなかったとはいえ……僕は……」


 僕は無神経に聞いた事を謝罪したが、クレイルはまったく気にしていない様に返事した。


「気にするな。俺はちっとも気にしていないから。んで、生き残った俺は父さんの戦いを見て覚えていたから、見様見真似で魔物と戦い食料を確保しながら生きていて、5歳になって母さんが遺していた従魔召喚の魔法陣で従魔を呼び出し、レクスと出会ったんだ」


 4歳から魔物と戦っていたなんて、それじゃ、あのチンピラ達じゃ敵わない訳だな。


「それからは、その魔法書に記されていた亜空間魔法を覚えて、人目を避ける為にレクスを入れる為に使ってきたんだ。だから、俺は父さんと母さんがいつどこのダンジョンであの魔法書を手に入れたのかは、全く分からない」


「そうだったんだ。ありがとうクレイルくん」


「いいって。俺も自分の事を話せる相手に出会えて、良かった」


 僕達は会って間もなくして、友達になれた。


「そういえば、お前達は2週間後の武闘大会に出るんだろう?」


「えっ、何で分かったの?」


 ラティが真顔で尋ねた。


「お前らの首に下げてる、そのタグは何だ? そりゃ、大会に出る参加者の証だからな」


 クレイルの指摘に、ラティはアッというような表情になった。


「実は、俺も大会に参加するんだ」


「参加するって事は、クレイルは誰かとチームを組んで出るの?」


「いや、俺は1人で出場する。俺は今までレクスと2人だけで旅をしてきたから、一緒に出る仲間がいないんだ」


 クレイルは1人で出るという事は、彼はあの受付嬢さんが言っていた極稀にいる参加者になるな。


「なら、いずれは何処かで僕達と当たるかもね。その時は正々堂々といい戦いにしよう」


「約束よ」


「ああ、約束だ」


 僕達3人は拳を合わせ、戦う約束を交わした。


「じゃあ、俺はそろそろ宿に戻るわ。俺は今、月の狐って宿に泊まってるんだ」


「あれ? 僕らもその宿に泊まってるんだけど」


「マジか!? 泊ってる宿まで一緒なんて、なんか俺達つくづく気が合うな」


「同感だよ」


 結局僕らは一緒になって宿に戻った。

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魔物情報


フェンリル

世界に数種存在するEXランクの獣種の魔物。すべての獣の頂点に君臨する存在で、獣人からは神の御使いと崇められている。雄叫び一つで並の者なら一瞬で絶命させる程の力を持つと言われ、すべてを切り裂く爪と噛み砕く牙を持ち、閃光の速さで駆ける俊敏性を誇る。また決して群れる事なく、1頭だけで暮らし生涯を過ごすという記録も残っている。その体毛は如何なる攻撃、魔法を受け付けないという、竜神に似た特性も持ち合わせ、その戦闘力は測定不能とされている。


次回予告

久し振りに神の間へ訪れたユーマ。

しかしそこで彼は、思いがけない再会を果たす。


次回、ヴォルスガ王国での祈り

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