第40話 王国に到着
前回のあらすじ
旅の途中ユーマ達は盗賊の襲撃を受ける。
だが、冒険者の覚悟を持ち、2人は盗賊を返り討ちにして殺す。
初めて人を殺した不安に打ち勝ち、2人は冒険者として心身共に成長していった。
盗賊を討ち取ってから数日後、僕達は遂にヴォルスガ王国の王都に到着した。
シェイルさんが言っていた通り、もうすぐ武闘大会が開催される影響で、城壁の検問所は行列ができていた。
約1時間程待って、僕達も検問所を通過して王都に入る事ができた。
国内に入ると、街中は獣人の国民が多かった。
ヴォルスガ王国は獣人の国と呼ばれ、獣人族が人口の中心となっている。
他の種族もいるが、この時期だと武闘大会に出る人とかが主だから、それを入れてもやっぱり獣人が多い。
僕達は馬車をしまってから、僕達は宿を探して歩きだした。
だが……
「ごめんなさい。もう部屋がいっぱいなんです」
「すまんがもう空いている部屋がねえんだ」
「申し訳ありません。ついさっき部屋がすべて埋まってしまったんです」
武闘大会が近い影響で、どの宿も満員で、中々泊まれる所が見つからなかった。
あの検問所の列である程度は覚悟していたが、ここまで見つからないといよいよ困ってきた。
「どうする? 最悪、道外れで馬車を出してそこで寝泊まりするという手もあるけど」
「もう少し探してみましょう。もしかしたら、見つかるかもしれないし」
「そうだね」
僕達は部屋が空いている宿を探して、再び歩き出した。
その時、目の前に泣いている獣人の女の子が見えた。
その子は猫の耳と尻尾をした猫人族の子で、見た目は5歳ぐらいだった。
「どうしたのかしら?」
ラティはその子に近づいて、目線を下げて尋ねた。
「どうしたの? もしかして、迷子?」
女の子は泣きじゃくりながら、頷いた。
「うん……ママと離れちゃって……ここは何処なのかが分からなくて……もう……どうしたら……」
こんな小さい子が泣いていると、僕も放っとけなくなる。
僕も目線を下げて女の子に声を掛けた。
「大丈夫だよ。お兄ちゃん達が君のお母さんを探すから」
「ヒクっ……ほんとに……?」
女の子はまだ泣いていたが、僕の言葉に少し落ち着いてきた。
「任せて。僕なら見つけられるかもしれないから」
僕にはこの子のお母さんを探し出す術がある。
「そうか、ユーマくんの探知魔法なら」
そう、僕の探知魔法でこの子の魔力と同じ波長の魔力を探せば、その魔力はこの子の仲間、つまりこの子の家族だと分かるからだ。
「ありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「いいんだよ。君の名前は?」
「スーの名前は、スー」
「スーちゃんか……分かったよ。後は僕に任せて」
僕は探知魔法を発動し、スーちゃんの魔力と波長が一致した魔力を探した。
結果、ここから数百メートル先の場所で、スーちゃんの魔力と波長が一致した魔力を見つける事が出来た。
「見つけたよ。さあ、スーちゃん、一緒に行こう」
「うん!」
僕とラティはスーちゃんと手を繋ぎ、魔力を感じた場所まで移動した。
少し歩いて大きな噴水広場まで出ると、そこで一人の獣人の女性が辺りをキョロキョロしていた。
「あっ! ママ~~!」
スーちゃんがその女性に向かって走り出した。
「スー! よかった、ほんとによかったわ!」
女性はもう離さないぞと言わんばかりに、スーちゃんを抱きしめた。
「もう、勝手に何処かに行っちゃ駄目じゃない」
「ごめんなさい、ママ」
スーちゃんは僕達を指して、何かを話していた。
多分、僕達がここまで連れてきてくれたんだと話しているんだろう。
女性はスーちゃんと手を繋ぎながら、僕達の前まで来て頭を下げてお礼を言った。
「ありがとうございます。うちの娘を助けてくれたばかりか、私の所まで連れてきてくれて本当にありがとうございます」
「いいんですよ。僕達は困ってるスーちゃんを放っておけなかっただけです」
「それでもです。何かお礼をしたい所ですが、生憎今は何もお礼できる様な物が無くて」
「気にしないでください。それなら、今この辺で部屋が空いている宿があったら、教えてくれませんか?」
「でしたら、うちの宿に来ませんか? 今なら部屋が空いているので、料金をサービスしますから是非お越しください」
女性の言葉は、まさに渡りに船だった。
宿を経営している人で、しかも部屋が空いているなんて、やっぱいい事はするものだな。
それに、ちょっと失礼だが、この展開に前世の浦島太郎や舌切り雀を彷彿してしまったのは僕だけの秘密だ。
「はい。こちらこそお願いします」
「ありがとうございます」
「申し遅れました。私はスーの母で宿屋、月の狐の女将をしておりますセイナと申します」
この人が女将みたいだ。
「僕は、冒険者のユーマ・エリュシーレです。こちらは、従魔のアリアです」
「キュイ」
「同じく冒険者の、ラティ・アルグラースです。こっちは従魔のクルスです」
「クルルゥ」
「よろしくお願いします。では、宿へご案内します」
セイナさんの案内で、僕達は歩き出した。
途中、ラティがある事を尋ねた。
「あの、セイナさんはその耳と尻尾から狐人族ですよね? でも、スーちゃんは猫人族みたいですが」
うん、それは僕も思った。
最初、スーちゃんのお母さんも猫人族だと思ったが、セイナさんの耳は猫ではなく狐の耳で、さらに尻尾もスーちゃんは猫の細い尻尾だったが、セイナさんのはふさふさとした狐の尻尾だ。
「はい。私は見ての通り、狐人族です。そして、スーは猫人族ですよ」
「じゃあ、どうして……」
「私とスーは別の種類の獣人なのかですね? 初めて獣人の家族を見た人はみんなそう思います。でもそれは、人ならではの先入観からくる考えです。私達獣人は、1人1人の体に、先祖の遺伝子が強く残った種族なんです。つまり、私には狐人族の、スーには猫人族のそれぞれの遺伝子が現れて生まれたんです」
「つまり、獣人は異性と子をなした時、その両親の先祖の遺伝子を受け持って生まれるんですか?」
「そうです。例えば、犬人族と猫人族の間に熊人族が生まれたら、その両親のどちらかの先祖に熊人族がいたという結論になるんです」
獣人は思った以上に神秘的な種族だという事が分かった瞬間だった。
お母さんはそんな事は教えてくれなかったけど、もしかしたら中には自分達の目で見た方がいいという、お母さんの意図だったのかもしれない。
そうして、獣人について知っていく内に、セイナさんが女将をしている宿屋に到着した。
「着きました。こちらが宿屋、月の狐でございます」
中に入り、部屋のチェックインを始めた。
「皆さんは何日の宿泊をご希望ですか?」
「それなんですが、近々この国で武闘大会が開催されると聞いたのですが、開催はいつですか?」
「はい。武闘大会は2週間後の開催となっています」
「大会は何日やるんですか?」
「その年の参加人数で変わる事もありますが、基本は1週間です」
開催に2週間で期間が1週間、合わせて3週間か。
「では、余裕をもって1ヶ月の宿泊を希望します。皆もそれでいい?」
ラティ、アリア、クルスは全員頷いた。
「はい、1ヶ月の宿泊ですね。食事代は宿泊費に含まれます。部屋は1つで、ベッドは2つでよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
「畏まりました。料金は今一括で払いますか? それとも最終日のチェックアウトに払いますか?」
どうやら宿屋の支払いのシステムは風の花と同じの様だ。
この分だと、宿屋の支払いはその場かチェックアウト時と相場が決まってるのかも知れない。
「料金はいくらですか?」
「2人部屋で1ヶ月ですので、お礼のサービスも含めまして銀貨5枚になります」
「では、今一括でお支払いします」
僕はセイナさんに銀貨5枚を渡した。
「はい。ありがとうございます。ではこちらの鍵の番号のお部屋をご利用ください」
僕達は鍵を受け取って部屋へ移動し、中に入ってベッドに腰を下ろした。
「ユーマくん、武闘大会にはやっぱり出場するの?」
「明日、会場に行ってまだエントリーできるようだったら参加しよう」
僕達は大会への参加を決めたが、この時はまだ知らなかった。
この大会で、僕らに訪れる幾つもの出会いに。
そしてその出会いの1つが、すぐ明日に起こる事にも。
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次回予告
武闘大会が行われるコロシアムへ訪れた2人は、参加登録をする。
だがそこで、2人はある出会いをする。
それは、
次回、新たな出会い




