第39話 初めての人殺し
前回のあらすじ
親しくなった者達との別れの挨拶をし、ユーマ達はヴォルスガ王国を目指して、ローレンスの街を旅立った。
ローレンスの街を出て数日経ち、僕達を乗せた馬車は着々とヴォルスガ王国へ近づいていた。
僕は御者台に座り、前方を確認しながら探知魔法で周囲の警戒に当たっている。
アリアは現在僕の膝の上で寛いでいる。
『やはり、ユーマのお膝の上は最高ですね』
アリアはそう言いながら、ミニサイズ特有の円らな瞳で僕を見上げて来る。
この眼は、あれを御所望している眼だ。
「分かったよ、アリア。よしよし、よしよし」
僕はその期待に応え、アリアの体を左腕で固定し、右手で背中や頭を撫でてあげた。
アリアは僕に膝の上で撫でられるのが大好きなのだ。
こうしている間のアリアはまるで、子猫の様に愛くるしい。
『はああ~~。極楽ですぅ』
「アリアはこうしていると、本当に子猫みたいだね」
僕は暫くこうして、従魔とイチャイチャしていた。
「ああ! アリアズルい! あたしもユーマくんになでなでされたい!」
そこに幕から顔を出したラティが、僕に撫でられているアリアに焼きもちを妬いた。
だから僕は、左手をラティの頭に置き、アリアと一緒に撫でてあげた。
「ふぁぁぁぁぁ。ユーマくんの手、とっても気持ちいいぃ」
ラティもうっとりしたような表情になった。
「心配しないで、ラティ。僕は君をほったらかしにしたりしないからね」
「えへへ。ユーマくんのその優しい所が、大好き」
僕は婚約者ともいちゃつき、楽しく幸せな旅を続けていた。
だが暫くして、僕の探知に魔力反応が現れた。
「魔力の反応を感知! 場所はこの馬車の周囲一帯! 数は40以上! この反応は……人の反応もある!」
『人間の魔力もですか。ユーマ、その魔力は全て同じ波長ですか?』
「うん。全ての魔力反応の波長が同じだ。それでこの数は、多分……」
『ええ、その多分ですね……』
「アリア、クルスと一緒に馬車の奥へ」
2匹を馬車の奥へと移動させた直後に、馬車を取り囲むように20人を超える男性が現れた。
その周囲には、ゴブリンやグリーンウルフといった従魔らしき魔物もいる。
しかも、男達は全員が剣や槍などで武装していた。
「そこの馬車、止まれ!」
男の一人が、馬車の前に立ち僕は馬車を止めた。
僕とラティは馬車から降りた。
男達は僕達を値踏みする様に見て、ラティには欲望の籠った視線を向けている。
「ほう、2人だけか。どうやら2人とも成人したばかりの様だな。俺達は盗賊だ。お前達は積み荷ごと俺達が頂く。後はそうだな……両方とも顔立ちがいいからな。このまま奴隷商に売るとするか。だから大人しく俺達に捕まりな。女の方は体つきが良いからな。奴隷として売る前に俺達の慰み者になって貰うぞ」
やっぱりこいつらは盗賊だった。
このまま捕まれば、このリーダーらしき男が言った通り、僕らは奴隷になるだろうな。
だが、僕とラティは目を合わせ、僕は白百合と黒薔薇を、ラティはミスリルダガー2本を取り出し、構えた。
盗賊たちはそれを見て、顔つきを険しくした。
「チっ! こいつら冒険者か。野郎共、男の手足の1本は仕方ねえ! だが女は傷つけずにこいつらを取り押さえるんだ!」
盗賊達が動き出す前に、僕達は同時に飛び出し、両手に持った武器で盗賊達に切り込んだ。
「ぐぁぁぁ……っ!」
僕の振った剣が盗賊の1人の胴体を真っ二つにした。
ラティも両手の短剣で、盗賊の胸や首を切り裂き、次々と盗賊を絶命させた。
今僕達は、人を殺している。
人を切る感触は魔物よりも鮮明に感じる。
正直に言って気持ち悪い。
だが、これが冒険者の在り様でもあるんだ。
ここで僕達がやらなければ、僕らは奴隷になるし、僕らの様な被害者がまた出て来る。
だから、こいつらはここでやらなければいけない。
それに、ワッケンさん達にも言ったじゃないか。
僕達はいざ人を殺す状況になった際でも、僕達は大丈夫だって、そう言ったじゃないか。
それに、以前イリアステル様に言われた事も思い出す。
命を奪う事に不安を覚えるのは、僕が人だから。
それを何とも思わないのは、ただの獣。
命を奪う事に不安を覚えるのは、僕達が人間としてまともだからだ。
だからこそ僕は誓った。
もう僕は命を奪う事を恐れたりはしない、奪った命の分までそれを背負って生きていくと。
僕達は次々と盗賊や従魔をを絶命させ、残ったのはリーダーの男のみとなった。
「なっ……何なんだよ、お前ら……っ! ただの冒険者のガキじゃなかったのかよ!」
リーダーは仲間が全滅したのを見て、僕らを恐れる目で見た。
「よくも、俺の仲間を! 覚悟しろ!」
リーダーは僕に切り掛かろうと片手剣を振り被ったが、僕は動揺で隙だらけとなったその瞬間を逃さなかった。
「シャドウバインド」
僕が発動した闇属性魔法に拘束され、男は剣を落とした。
「ぐっ……っ、放せ……!」
僕は黒薔薇を向けて、男の首筋にあてた。
「せめてもの情けです。あなた達の魂がイリアステル様の下へ行ける様、お祈りします」
「ま……っ、待て……っ!!?」
僕はそう言って、男の頸動脈を切り裂きリーダーを絶命させた。
戦闘が終わり、僕とラティは互いの状態を確認した。
「ラティ、怪我はない?」
「あたしは平気。ユーマくんは?」
「僕も大丈夫。でも……」
僕達は自分達が殺した盗賊を見回した。
「あたし達、殺したんだよね……人を……」
ラティの短剣を握る手は若干震えている。
無理もない、初めて人を殺したんだ。
覚悟していたとはいえ、やはり実際にやると結構堪える。
僕は彼女を抱き寄せ、優しく抱きしめた。
「大丈夫だよ、ラティ。僕も不安だったから。それに、いつかはこうなる事は僕達も分かってたはずだ。僕達は冒険者。いずれは人を殺す事にはなったんだ。それが今だ。だから、一緒にこの気持ちを乗り越えよう」
「……うん……」
暫く抱き合い、漸く気分が落ち着いた僕達は盗賊達の死体を1カ所に集めた。
「じゃあ、燃やすよ」
「うん、お願い」
僕は火の魔法を放ち、盗賊の死体を焼却した。
こうしないと、疫病が広がったり、死体がアンデットになる可能性が出て危険だからだ。
僕達は死体が燃えるの見ながら、その魂が清められる事を祈った。
僕達は決して聖職者ではないが、何かせずにはいられなかった。
この魂が清められ、来世は良き人生が訪れる事を、僕達はその奪った命を背負って生きていく事を祈り、僕達はこの奪った命の分まで生きる事を誓った。
焼却が終わり馬車に戻って、僕達は再びヴォルスガ王国に向けて出発した。
それから暫くは、僕はアリアを、ラティはクルスを撫でたりブラッシングをしたりして、心をリラックスさせた。
この出来事を通して、僕達は冒険者として、心身共に成長していった。
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次回予告
『これで第3章が終わりですね』
「ねえ、アリア。いつもの次回予告と、なんか違うね」
『はい、ユーマ。次章の第4章から、私達の物語が大きく動き出しますから』
「僕達が幸せに暮らせる場所を探して、他の国々を回っていくんだよね?」
『そうです。そして、それにはいくつもの大きな試練が待ち構えていますが、私達なら乗り越えられます』
「そうだね。僕達も成長しているんだ。きっと乗り越えられる」
『他にも、私達と共に戦ってくれる、新しい仲間も次々と登場します』
「僕達の旅ももっと楽しく賑やかになるね」
『はい』
「それでは、次回から第4章、ヴォルスガ王国になります」
『次回は、王国に到着、です』
「次回も、」
『とても、』
「『動き回るので、是非読んでください』」




