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第37話 領主との揉め事

前回のあらすじ

デビルスコーピオンを討伐し、魔の平原の調査を完了したユーマとラティはDランクに昇格する。

その夜、夜明けの風から一人前の冒険者になる為の覚悟、つまり人殺しの覚悟を問われるが、2人は大丈夫だと答える。

 『魔の平原』の調査の後、僕達は地道に依頼をこなしていた。

 ラティから盗賊の討伐依頼を受けないかという意見もあったが、クエストボードにはそういった依頼がなかった為、僕らは魔物の討伐依頼をこなし数日がった。


 それに夜は彼女と……ゲフン、ゲフン!

 ……とまあ、そんな感じに、僕達は順調に冒険者活動をしている。


 今日は宿のチェックアウトの前日なので、僕達は初日の打ち合わせ通り食料や日用品の補給をしに、街を歩いている。

 時には出店でオークの串焼きなんかを買っての食べ歩きをしたりと、僕らは街での時間を楽しんでいた。


「失礼、少々よろしいですか?」


 後ろから声を掛けられて振り向くと、鉄の鎧に身を包んだ衛士が3人いた。


「何でしょうか?」


「冒険者パーティー、銀月の翼のユーマ様、ラティ様でよろしいでしょうか?」


「はい、そうですけど、あたし達に何か用でしょうか?」


「我々は、このローレンスの街を警護している者です。領主のハラントス男爵様が、あなた達を屋敷までお連れするようにと命じられたので、お迎えに上がりました」


 この街の領主が僕達を呼ぶとなると、理由は1つだけだな。


(ユーマくん、領主があたし達を呼ぶ理由はおそらく)


(うん。大方、『魔の平原』の一件さ。とりあえず余計な騒ぎにはしたくない。ここは従おう)


(分かったわ)


 僕らは囁き合って、領主の所に行く事を決めた。


「分かりました」


「では、こちらへどうぞ」


 衛士たちが用意した馬車に乗り、僕らは領主の屋敷へ向かった。


――――――――――――――――――――


 暫く進んで、大きな屋敷が窓から見えた。あれが領主の屋敷か。

 御者の衛士が門番に通してもらい、僕達は馬車から降りて屋敷の中に案内された。


 暫く歩いて、領主の部屋の前に着いた。


「ペルス様、命じられた冒険者の者達を連れて参りました」


『ウム、入れ』


 衛士が扉を開け、中に入ると肥満体の成人から中年になるくらいの男性がソファに腰かけていた。


「よくぞ来たな。まずは座りなさい」


 男性に促され、僕達は向かいのソファに腰かけた。


「私がこの街の領主のペルス・フォン・ハラントス男爵だ」


 ハラントス男爵が名乗ったので、僕達も自己紹介をした。


「Dランクパーティー、銀月の翼のリーダーのユーマ・エリュシーレです。こちらは私の従魔の、幼竜のアリアです」


「同じく、銀月の翼のラティ・アルグラースです。こちらは、私の従魔のグリフォンの子供のクルスです」


 アリアとクルスは敢えて声を出さず、軽く頭を下げて挨拶した。


「では、私が君達を呼んだ理由を言おう。君達には、私の部下になって貰う」


「「えっ?」」


 僕らは言葉の意図が分からず、揃って間の抜けた声を出した。


「報告によると、君達はあの『魔の平原』でAランクのデビルスコーピオンを瀕死とは言え討伐し、再びあの平原が安全に通過できる様にした。あの依頼にはもう一組、冒険者パーティーがいたそうだが、魔物の討伐に大きく貢献したのは君達だと聞く。それ程の人材、是非私の為に役立てて欲しい」


 このおっさん、何を言ってるんだ。

 しかも、僕達がこの人に仕える事がもう決定したかの様な口振りだ。


「勿論、君達が仕える以上、その竜とグリフォンは間接的にだが私の物という事になる。さあ、その2匹を私に」


 成程、本命は()()()か。


 デビルスコーピオンは瀕死の状態で遭遇したという事になってるから、討伐したと報告しても僕達の実力が完全に把握された言うのは難しいから、人材面での勧誘は建前。


 本命はアリア達だ。


 貴族にとって従魔とは、ランク、戦闘力、希少性、この3つから統合して格付けされるのが基本だそうだ。

 つまり、ランクが低い、弱い、珍しくない、このどれかでも引っかかるとその貴族は最悪家を勘当されてしまう事もある。


 アリアとクルスはミニサイズ化で幼竜とグリフォンの子供としているが、厳密には希少な竜と希少種の魔物である事に変わりはない。

 ランクと希少性はクリアされていて、戦闘力はまだ子供だから低いが、そこは成長次第でどうにもなるという事だろう。

 故にそんな珍しい従魔を欲しがる貴族は多い筈だ。


 男爵はそう言って、僕らに手を差し出してきた。

 このあまりにも身勝手な要求に、流石の僕も我慢の限界が来てしまった。

 そして、それは静かな怒りとなって口を開いた。


「ふざけた事を言わないでください」


 ハラントス男爵は一瞬呆けたが、すぐに顔を怒りで真っ赤にして勢い良く立ち上がった。


「貴様! 領主であり、何より貴族の私に向かって、その口は何だ!」


 その怒声に怯む事なく、僕は冷静に言葉を紡いだ。


「私達はあの『魔の平原』の件で、あなたが何をしていたのかを夜明けの風のワッケン氏から聞いています。1度調査隊を派遣したけど、それが全滅してからは費用を渋ってギルドの反対を押し切って低ランクの調査依頼で出したと」


「そして私達が受けるまでの約半年間、ずっとあの平原の問題を放置していた事をです」


 僕達の指摘に、男爵はたじろいだがすぐに強気な顔に戻った。


「それは仕方のなかった事だ。それと、その件はいつまでも依頼を受けなかった冒険者達が悪いのだ」


「それなら、アルビラ王国に報告して、兵士や冒険者を派遣して貰う手もあった筈です」


 ラティの指摘は的を得ていたが、領主の口からは信じられない言葉が出て来た。


「それでは私の面子が立たん。消息不明者が出ているので、他の場所から冒険者を派遣してもらうなど、私のプライドが許さん」


 その言葉に、僕達は絶句した。

 自分のプライドの為に国に報告せず、それからずっと他人に責任転嫁して問題を放置していた事に。


「……そうですか。分かりました」


 僕の言葉に、男爵は歓喜の顔になった。


「おお、私の言い分に納得してくれたか。では、私に仕えてくれるのだな?」


「勘違いしないでください。あなたは仕えるに値しない、貴族のいえ、人間の恥さらしだという事にですよ」


「何だと!?」


 僕とラティは目を合わせ、懐から()()()を出した。

 それは……、


「そっ……そのメダルは……!」


 アルビラ王国を旅立つ前、国王陛下から貰った王家の紋章が刻まれたメダルだ。

 言うならば、僕達の対面倒臭い連中用の最終兵器。


「これは、アルビラ国王陛下から賜った王家のメダルです。これを持ってる限り、僕達は国王の庇護下に入ってる事を意味します」


 その意味を理解したのか、男爵の顔が真っ青に染まっていった。

 アルビラ国王の庇護下に入ってる者に手を出そうという事は、アルビラ王国に喧嘩を売ってると思われる可能性があるからだ。

 そうなった場合、最悪国家転覆を謀ったと思われ、厳罰に処されるからだ。


「そっ……そんな……ユーマ殿、ラティ殿、この度は私が申し訳ありませんでした。どうかお許しください……」


 男爵は両手と膝をつき、そんな事を言ってきた。

 だが、今回は流石に僕も許しがたい。

 アリア達を奪おうとしただけならまだしも、あの平原の問題をここまで放置していた事は、流石に見過ごす事は出来ない。

 そんなくだらないプライドの為に、多くの消息不明者――犠牲者が出たのだから。


「残念ですが、今回の事はアルビラ国王に報告させていただきます。近い内に王国から使者が来る筈ですので、覚悟しておいてください」


「決して、逃げようなどと考えないように」


 僕達はそう言って、部屋を出てそのまま屋敷を後にした。

 部屋を出る際にちらっと見たのは、これからの未来を想像したのか真っ青になったまま、全く動かなかった男爵の姿があった。


――――――――――――――――――――


 その後は、補給を終えて宿に戻った後、僕達はお父さん達に手紙を書いた。

 内容は、この短期間でDランクまで上がった事などの近況報告、男爵の『魔の平原』に対しての対応、その男爵が僕達にした事などを書いて、アルビラ国王にも伝えてくれと書いた。


 こうして、この街での最後の夜は過ぎていった。

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次回予告

宿をチェックアウトし、街を出発するユーマ達。

それは、親しくなった者達との暫しの別れを意味していた。


次回、暫しの別れ


0時に幕間を更新します。

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