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第36話 冒険者の覚悟

前回のあらすじ

魔の平原の調査に訪れた直後に、ユーマ達の前に現れたのは第一級危険生物のデビルスコーピオンだった。

その強さに苦戦するユーマ達と夜明けの風だったが、正体を明かしたアリアとクルスにより形勢が逆転し、ユーマ達はデビルスコーピオンを討伐した。

 その後、僕達はワッケンさん達にアリア達の秘密を話した。


「つまり、アリアはEXランクの竜神で、クルスは特異種のグリフォンで、普段は人目を避ける為に小さくなって幼竜とグリフォンの子供として振舞っているのか」


「そうです。もし、アリアとクルスの正体がバレたりしたら……」


「十中八九、質の悪い貴族とかが黙ってませんね。連中は強い選民思想の塊です。そんな自分達を差し置いて、平民が最強ランクの魔物と適合していると知ったら、どんな手に出るか」


 トーマさんが僕達が懸念している事を言ってくれた。


「その通りです。だからユーマくんは、先に他言無用と言ったんです」


「そうだな。分かった。アリアとクルスの事は俺達も黙っている。そもそも、お前達のお陰で俺達はこうして助かったんだ。そんな恩人達を売る様な真似はしねえよ。それに、伝説の竜神を敵に回す様な馬鹿な真似はしたくないしな」


 その言葉に、夜明けの風の皆は激しく頷いた。


「ありがとうございます」


「なら、話が纏まった所で、あの蠍の解体をして、早く街に戻って報告しましょう」


 ソニアさんの提案で、僕達はデビルスコーピオンの解体作業に取り掛かった。

 この魔物の討伐証明部位は分からなかったが、アリアが鋏1本だと教えてくれたので僕がクルスが破壊した右の鋏を1本回収した。


 その後、蠍の甲殻や尻尾などの部位や素材を回収して、僕達は夕暮れ頃にローレンスの街へ帰還した。


 街に帰還して、僕達はすぐにギルドに報告に向かった。

 ギルドにいた人達は僕達が魔の平原から生きて戻ってきた事に驚いていたが、そんな事は放っといて、僕達は受付カウンターに報告をした。


「デビルスコーピオンですって!?」


 受付嬢の叫び声に、ギルドの中は更に騒がしくなった。


「はい。それで、そのデビルスコーピオンが例の消息不明事件の元凶でした。ですが、僕達で力を合わせて何とか討伐できました。これがその証明になります」


 僕が異空間から巨大な右の鋏と魔石、売る分の素材を取り出して、その証拠を出した。


「これが、デビルスコーピオンの鋏……こんな魔物があの平原に潜んでいたなんて……しかし、これほどの魔物をどうやって討伐したんですか?」


 これが一番の問題だが、僕達はあらかじめ考えていた設定で話した。


「それなんですが、僕達がデビルスコーピオンに遭遇した時、奴は既に瀕死の状態でした。おそらく、何か別の魔物に襲われたんじゃないかと思ってあの平原を調べたんですが、こいつ以外に他の魔物の姿や魔力の反応はありませんでした。ですから、デビルスコーピオンは他の魔物を瀕死になりながらも住処にしたあの平原から追い出したと思われます。それでもその抵抗は激しかったので、僕達が遠距離から魔法を当てて討伐しました」


 この設定にしたのは、僕達銀月の翼と夜明けの風が、まだ()()()()()()()()だからだ。

 もし「デビルスコーピオンが万全の状態で討伐しました」と報告したら、確実に僕達の実力が疑われ、最悪アリアとクルスの事がバレる恐れがある。

 だから遭遇した時には瀕死だったと報告すれば、そこまで疑われる事もないと判断したのだ。


 それにデビルスコーピオンを瀕死にさせた魔物というのも、厳密には嘘ではない。

 現にそこまで追い詰めた魔物(アリア)は僕のすぐ傍にいるんだし。


 この説明に受付嬢さんは納得の顔をした。

 受付嬢さんやギルドの職員の人達がお礼を言った。


「そうですか。皆様、危険を冒してまでこの街の脅威を取り除いてくれた事、心より感謝します」


 そして受付嬢さんは依頼用紙を出し、依頼完了の作業に入った。


「それでは依頼の結果をお伝えします。まず、こちらが依頼報酬の銀貨5枚となります。1つのパーティーにつき1袋ございます。お確かめください。次に、こちらの魔石と素材は討伐証明部位と共に換金でよろしいですか?」


「はい、お願いします」


「畏まりました」


 少しして、受付嬢さんが袋を持って戻って来た。


「ではこちらがデビルスコーピオンの討伐報酬です。魔石と素材の換金も含めまして、金貨600枚になります。お確かめ下さい」


 やはりAランクの魔物だけあって、デビルスコーピオンの報酬は凄かった。

 なんせ、日本円に換金したら、6億円に相当する金額なんだから。


 僕達はこの金貨を山分けし、それぞれのパーティーに300枚の金貨を分配した。

 半分に分けても、片方に3億円の収入が入るので文句はなかった。


「そして、今回の調査の結果と瀕死とはいえ第一級危険生物の魔物を討伐した実績により、ユーマ様、ラティ様をDランクに、ワッケン様、シェイル様、ソニア様、トーマ様、カーマ様をCランクに昇格とします。皆様、ギルドカードを提示してください」


 どうやら瀕死とはいえ、Aランクの魔物を討伐した事には変わりはない為、そのまま実績になった様だ。

 それに抵抗が激しかったという説明も良い方向に働いた様だ。

 それにランクアップにはそれ相応の実績の必要だけど、この場合は半年間放置された曰く付きの調査依頼を受け、危険を冒してまでのその原因を突き止め、平原を元通り安全にした事がその実績になった様だった。


 僕達はカードを差し出し、マジックアイテムでランクアップの手続きをして貰った。


「はい。以上で、夜明けの風はCランクの、銀月の翼はDランクのパーティーとなりました。これからも頑張ってください」


 僕達はそれぞれ緑と青の色になったカードを受け取り、ランクが上がった事を確認した。


「ありがとうございました」


 僕達はお礼を言って、ギルドを後にして風の花に帰った。

 宿に入ると、シナさんが突然僕とラティを抱きしめてきた。

 どうやら、僕達が『魔の平原』の調査に出た事が既に噂になっていて、その噂がシナさんの耳にも入り心配させたみたいだ。


 僕達はシナさんにギルドでの事を話し、シナさんはとても喜んで今日はご馳走だと言いながら厨房に入っていった。


 暫くして、シナさんが部屋で休んでいた僕たちを呼び、食堂に降りるとすごいご馳走が並んでいた。

 

「では、今回の調査以来の成功、デビルスコーピオンの討伐、そして、俺達夜明けの風とユーマ達銀月の翼のランク昇格を祝って、乾杯!」


「「「「「「乾杯!」」」」」」


 ワッケンさんの掛け声で食事は宴会となり、皆食べたり飲んだりで賑やかになった。

 僕達はもう成人しているが飲み物はフルーツジュースにした。

 あまり飲んで体を悪くしても意味ないからね。


 ラティ、アリア、クルスの食いしん坊組は一心不乱に料理を自分達の胃袋に押し込んでいた。

 その壮絶な食べっぷりにソニアさん、トーマさん、カーマさんは唖然とし、ワッケンさんとシェイルさんはその勢いに便乗し食べ比べに持ち込み、シナさんは3人がよく食べるのを見て更に張り切って、追加の料理を持ってきてくれた。

 そんな騒がしい様子に、僕は苦笑いしかできなかった。


「あの、シナさん。そんなに作ってくれるのはありがたいんですが、代金はいいんですか?」


 僕が若干思った不安を聞いてみたら、


「心配しなくていいよ。今夜はあたしの驕りだからね。ユーマちゃんも遠慮せずに、じゃんじゃんお食べ!」


 シナさんの言葉はあまりにも太っ腹だった。


 それからは皆料理やお酒で盛り上がっていたが、途中ワッケンさん達が真面目な顔になって口を開いた。


「ユーマ、ラティ、今回の昇格はおめでとうだ。だが、これからの依頼で、忠告する事がある」


「何ですか?」


「冒険者はDランク以上になると、Cランクの依頼が受けられる様になる。そんで、その依頼からはこれまでの様な魔物の討伐や今回の様な調査だけではなく、貴族や商人の護衛依頼もあるし、何より盗賊などの犯罪者の討伐依頼も出て来る」


「それはつまり……人殺しですね……」


 僕は目を細めて答えると、ワッケンさんはそうだと頷いた。

 隣ではラティも真剣な目で聞いている。


「一流の冒険者になるには、魔物を倒せる実力、貴族や商人なんかに対する言葉遣いや礼儀作法、そして人を殺せる覚悟、最低でもこの3つが必要になるんだ。2人は今日の依頼と昨日の俺達との一件で、実力と礼儀作法は十分にあるという事が分かった。後はいざという時、人を殺せる覚悟があるかどうかなんだ。お前達に、今の時点でその覚悟があるか聞きたいんだ。どうだ、出来そうか?」


 僕達は互いに頷き、口を開いた。


「ワッケンさん、僕達は5歳の時から僕らの両親から冒険者になる為の修業を付けてもらいました」


「その過程で、あたし達は冒険者になる為の覚悟という物を何度も問われてきました。最初は戸惑ったりしたけど、盗賊を放っといたら一般の人達に悲しい涙が流れ続けるという事に気付きました」


「だから決めたんです。僕達は人の命を奪う事を恐れたりしないって。だから、いざという時になったらの覚悟は、故郷を旅立った時点でできています」


「だが、相手は犯罪者とはいえ、人を殺すんだぞ? それで正気を保てるか?」


「大丈夫です。できなかったら、こうして冒険者はやってません。それに、僕達は既に人を殺めた時は、その命の分まで生きていこうと決めているんです。これは、決して軽はずみな気持ちでいっているわけじゃありません」


 実際にあの時、イリアステル様の言葉があったからこそ、僕はこうして決意を固める事が出来たのだから。


 その言葉を聞いて、ワッケンさん達の顔が笑顔になった。


「そうか。その言葉が聞けただけで十分だ」


「実は心配だったんです。あなた達は確かに強いですが、人を殺した時にあなた達のままでいられるかが」


「でも、2人の覚悟は本物みたいだから安心したよ」


「これからの活動、頑張ってね」


「何かあったら、私達はいつでも力になるからね」


 ワッケンさん、トーマさん、シェイルさん、カーマさん、ソニアさんの順に僕達に激励を送ってくれた。


「ありがとうございます、皆さん」


 その後は、また楽しい宴会に戻りそれは朝まで続いた。

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お待ちしております。


次回予告

魔の平原での活躍を聞きつけた領主に呼び出されたユーマ達。

そこで、領主のやり方を目の当たりにする。


次回、領主との揉め事

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