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第35話 悪魔の名を持つ魔物

前回のあらすじ

ラティとの初夜を迎えた翌日、ユーマ達は銀月の翼初の依頼を受けようとするが、1つの依頼に目が留まる。

それは半年間放置された曰く付きの調査依頼だった。

ユーマ達はそれを受ける事に決め、同行を願った夜明けの風と共に魔の平原へと向かった。

 全員馬車から降りて、馬車をしまってから、すぐに辺りを見回した。


「周りにはこれといった障害物もないから、これなら魔物が迫ってきたらすぐに分かる筈だ」


「そうですね。今から、僕が探知魔法で魔力反応を探してみます」


「ああ、頼む」


 僕は一歩前に出て、魔力を集中させた。


「サーチ」


 少しすると、大きな魔力の反応が猛スピードでこっちに迫ってきた。

 しかも、この反応はフラウロスと同じ強さの魔力だった。


「反応あり! 数は1! しかもこの強さは、Aランクの魔物です!」


 その言葉に全員はすぐに周囲を警戒したが、周りには何もいなかった。


「ユーマくん! 何もいないけど、本当に感じるのかい!?」


 シェイルさんが後ろの僕にそう言ってくる。


「間違いありません! この反応は……はっ! 敵は地上じゃありません! 地面の下からです! 全員そこから離れて!!」


 僕の掛け声で、全員そこから瞬時に跳んで離れた。

 その瞬間、皆のいた足元から巨大な尻尾の様な物が5本現れて、続いて本体らしき影が出て来た。


 出て来たのは、4本の鋏に5本の長い尻尾、それに全身が堅い殻に覆われた10メートルはありそうな巨大な(さそり)の魔物だった。


「馬鹿な!! あれはデビルスコーピオンじゃねえか!!」


「なんでこんな所に第一級危険生物の魔物が!?」


「どうやら、こいつが消息不明者を襲った奴みたいですね」


「ああ、地中から奇襲を受けたから、皆1人残らず奴の餌食になったんだ。これじゃ、正体が解らなかったのも頷ける。皆、あの尻尾の毒針に気を付けろ!! あの尻尾の毒にやられると、一瞬でお陀仏だ!!」


 ワッケンさんの言葉を聞いて、僕達は全員武器を構えた。

 僕は魔槍ジルドラスを出して構えた。


「いいか! 奴の甲殻はとても堅いと聞く! だが、あいつは炎の攻撃に弱いらしい! 魔法が使える奴は炎の魔法を中心に攻撃するんだ!」


「「「「「「了解!!」」」」」」


「行くぞ!!」


 ワッケンさんの言葉を合図に、デビルスコーピオンとの戦闘が始まった。


 僕は破壊力を重視してジルドラスに魔力を籠め、刃をハルバードの形に変えた。


「いつもはライトニングだけど、今回は……バーニングエンチャント!!」


 僕は全身に炎の魔力を纏って身体を強化した。


 バーニングエンチャント、ライトニングエンチャントの炎属性バージョンの複合魔法だ。

 速さは通常の身体魔法とほぼ同じだが、パワーはライトニングより上で、筋力増加と破壊力に優れた複合強化だ。


「ユーマ、それは複合魔法か!」


 隣にいたワッケンさんが驚いて聞いてくる。


「はい! 僕が奴の注意を引きつけます。その間に隙を見て攻撃してください!」


「わっ、分かった」


「行くよ、アリア!!」


「キュイ!」


 僕はミニサイズのアリアと一緒に、デビルスコーピオンに向かって突撃した。

 デビルスコーピオンは向かってくる僕に反応し、5本の尻尾を伸ばしてきた。


 僕は横に跳んで躱し、右側に回り込んでハルバードのジルドラスを振りかざし、その他脚目掛けて振り下ろした。

 だが、ジルドラスの刃は脚部の殻に弾かれてしまった。


「何!?」


 そこに尻尾がまた襲い掛かって来て、僕はジルドラスを後ろに刺して棒高跳びの要領で後ろに跳んで躱し、距離を開けた。


「「フレイムジャベリン!!」」


「「フレイムアロー!!」」


 続いて、ラティとソニアさんの放った炎の槍と、トーマさんとカーマさんが放った炎を纏った矢が、左側から炸裂した。


「キシャ~~~!!!」


 デビルスコーピオンは炎の攻撃に少し怯んだが、すぐにラティ達に反撃の鋏を振り下ろした。


「魔力障壁!!」


 ラティは魔力を集中させて作った障壁で、4本の鋏の攻撃を防いだ。


 更に後方から、クルス達従魔の放った魔力攻撃が当たったが、堅い装甲によりダメージは小さかった。


「喰らえ!!」


 ワッケンさんとシェイルさんもそれぞれの武器で攻撃を仕掛けたが、僕の時と同じく奴の硬い殻に弾かれてしまった。


「アリア!!」


 上空からアリアの放った炎のブレスが奴を包み込んだが、奴はその中から尻尾を伸ばしてアリアに襲い掛かった。


「キュイッ!!」


 アリアは空中で身をよじって尻尾を交わして、射程外まで上昇した。


 アリアが奴を牽制しているその間に、僕達は一度集まった。


「ワッケンさん、あの魔物は本当に炎に弱いんですか? まるで平気みたいなんですが」


 ラティが尋ねる。


「すまんが、俺もあいつと戦うのは初めてなんだ。炎に弱いってのも、以前噂で聞いた程度だったんだ。だが見ろ、炎の攻撃が当たった箇所、僅かだがダメージの跡がある」


 確かに、さっきのジルドラスが弾かれた所や、ラティ達の炎攻撃が当たった箇所や、アリアの火炎を受けた所はあちこちが若干焦げていた。


「焦げている部分が、ダメージを与えた場所ですか。でも、それでも勢いが全然落ちてないですね。もしかしたら、甲殻の内側なら炎の攻撃が効くんじゃないでしょうか?」


 トーマさんが正確に分析して、意見を言う。


「ああ。正直、もっと大きい一撃が欲しいな。だが、俺達じゃ奴には僅かしかダメージを与えられない。俺やシェイルは危険すぎて中々近づけない。これじゃあ、正直ジリ貧だな」


「大きい一撃か……ワッケンさん、それなら1つだけ方法があります」


「何!? 本当か!?」


 ワッケンさんが目を見開いて聞いてくる。


「ですがその前に、ワッケンさん達にはこれからの事は一切の他言無用でお願いしたいんです」


「よく分からないが、それしか手がないんだろ? なら、その案を受けるぜ」


 夜明けの風の人達が頷いて同意してくれた。


「ありがとうございます。ラティ」


「うん。クルス、本気で戦っていいわよ!」


「クルルゥ!」


「アリア、本気で戦って大丈夫だ!!」


 僕は空中で牽制しているアリアに、叫んで伝えた。


『承知しました!』


 アリアが突然喋りだした事に、ワッケンさん達が驚いた。


 次の瞬間、アリアと飛び出したクルスの体が光りだし、2匹は本来の姿に戻ってデビルスコーピオンと対峙した。

 アリアはこの5年でまた更に大きくなり、今は20メートルを超える大きさだ。


「んな!? でかくなった!!」


「まさか、あの2匹は特異種だったの!?」


 夜明けの風の皆は突然の出来事に、驚いて口が閉じれていなかった。


「詳しい話は後です! 今はあの蠍を倒すのが先決です!!」


「そ、そうだな。よし、行くぞ!」


 僕の一喝で、気を取り直したワッケンさん達と一緒に、再びデビルスコーピオン突撃した。


「アリア、まずはあの尻尾を何とかしてくれ!」


『承知しました!』


「クルスはあの鋏をお願い!」


「グルルルルルルゥゥゥ!」


 アリアは前足の爪に魔力を纏い、デビルスコーピオンに飛び掛かった。

 デビルスコーピオンは尻尾の毒針を伸ばして、アリアの体を捉え5本全ての針を突き刺した。


「アリア!!」


 僕は目の前の出来事に動揺して、アリアの名前を叫んだ。


『ご心配なく、ユーマ。これしきの毒針、今の私には通用しません!』


 よく見ると、デビルスコーピオンの毒針は全てアリアの硬い鱗に受け止められ、その上、針から滲み出る毒液もアリアの体には通用していなかった。


『私を捕まえたつもりの様ですが、捕まったのはそちらの様ですね』


 アリアはそう言って前脚を上げ、横に振りデビルスコーピオンの5本の尻尾を全てバラバラに切断した。


「ギシャァァァァァァァァァ!!」


 尻尾を全て失った痛みで、デビルスコーピオンは4本の鋏を振り回して暴れまわった。


「グルルルルルルゥゥゥ!!」


 続いてクルスが身体強化による素早い動きで、前足の爪でデビルスコーピオンの鋏の腕を1本、また1本と砕いたり斬り落としたりした。


 ワッケンさん達も尻尾の脅威が去った事で、それぞれ攻撃を入れてデビルスコーピオンにじわじわとダメージを与えられる様になった。


「さっきは弾かれたけど、これならどうだ!」


 僕はジルドラスの刃と柄に魔力を注ぎ、柄を伸ばしてデビルスコーピオンの背に目掛けてその刃を振り下ろした。

 結果、魔力を籠めた一撃と落下の勢いで今度は弾かれず、デビルスコーピオンの背中の殻に大きな罅を入れる事に成功した。


『次は私です!』


 続いてアリアが上から急降下して、魔力を纏った右の前脚を突き出しその爪でデビルスコーピオンの背中を攻撃した。

 通常ならEXランクのアリアが一撃入れた時点で、デビルスコーピオンはバラバラに吹き飛んでいそうだが、アリアはまだ成長中でその力はまだ完全なEXランクではないが、その力は既にSランク相当のパワーがある。

 その結果、さっきの僕がいれた罅にアリアが加えた一撃で、デビルスコーピオンの背中の殻が粉々に砕け、殻の内側が剥き出しになった。


 ちょうどクルスも奴の腕を全て破壊した。


「もう奴に攻撃を防ぐ手立てはない! ラティ、止めだ!」


「オッケー!」


 僕はジルドラスを左手に持ち、右手で収納魔法から自分のエンシェントロッドを取り出し、ラティと一緒に魔力を集中した。


「ワッケンさん、準備が出来ました! そこから離れてください!」


「分かった! 全員、退避だ!!」


 ワッケンさん達が安全圏まで離れたのを確認し、僕達は特大の魔法を放った。


「「カオスインフェルノ!!」」


 僕達の杖から放たれた黒い炎が殻の砕けた部分に当たった瞬間、デビルスコーピオンの体は黒い炎に包まれた。


 カオスインフェルノ、炎と闇の属性を合わせた複合魔法だ。

 目標に当たるとそこを中心に全体に火が回り、目標が死ぬまで生きたまま外側と内側から焼き殺す、僕達が今使える中で特に強力な複合魔法だ。


 デビルスコーピオンは生きたまま焼かれた事で、最初は辺りをのたうち回っていたが、次第に動きが弱っていき動きが止まって少ししたら炎が消え、黒焦げとなった本体が現れた。


「もう大丈夫です。炎が消えたという事は、奴が死んだ事を意味します」


 念の為に、探知魔法で確認もしたが、もう奴から魔力の反応はなかった。


「そうか……俺達、勝ったんだな……」


 ワッケンさんは感慨深そうにつぶやいた。

 シェイルさん達も、奴に勝てた事に喜んでいれば、生きている事が不思議そうに思ってたりしていた。


 無理もない。

 Aランクの魔物相手にEランクとDランクの冒険者だけで勝てたんだ。

 しかも、誰1人犠牲が出ず、全員五体満足で生き残れたんだ。喜ばない方がどうかしている。


 かくいう僕達も嬉しく、ラティが僕の胸に飛び込んできた。


「やったね、ユーマくん!」


 僕は抱き着いてきたラティの頭を撫でた。


「うん。僕達はAランクの魔物に勝ったんだ」


 僕らは暫く勝利の余韻に浸っていた。

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お待ちしております。


アリアの凄すぎる所

その5、その鱗は強力な毒を通さない。


魔物情報


デビルスコーピオン

世界に数種存在する「デビル」の名を持つ、Aランクの昆虫種の魔物。住み着いた場所の生態系を崩してしまう事から、第一級危険生物に指定されている。4本の鋏と5本の毒針の尾を持ち、加えてAランクの中でも指折りの凶暴性を持つ。挟む力は1トンを誇り、毒針から出される毒はミスリルをも腐食させてしまう。その為、遭遇してしまうと生き残る確率はわずか1割未満という記録も残っている。討伐証明部位は鋏1本。


次回予告

無事にデビルスコーピオンを討伐し、ギルドへ報告する。

そしてその夜、ユーマ達はワッケン達からある覚悟を問われる。


次回、冒険者の覚悟

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