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第34話 曰くつきの依頼

前回のあらすじ

ローレンスの街へやってきたユーマ達は、ギルドで魔物の討伐の報告をし、その結果でEランクへ昇格する。

その街で泊まる事となった宿で、夜明けの風のパーティの面々と親しくなり、その夜ユーマとラティは初夜を迎えた。

 朝目が覚めると、僕の目の前には天使の様な美少女が、全裸で同じベッドで寝ていた。

 その美少女――ラティはうっすらとだが、瞼を開け、僕を見ると顔を赤くしながらキスをしてきた。


「おはよう、ラティ」


「うん、おはようユーマくん」


 ラティは上体を起こして挨拶した。

 その際に何も身に着けていない豊かな胸がブルンと揺れる。


「その……体は大丈夫? あそことか……痛くない?」


「うん。まだ、あそこがジンジンする様な感覚がするけど、何だかこうフワッとした感じがして、とても幸せな気分」


 そう言いながら微笑むラティの笑顔は、昨日までの彼女とは雰囲気が違った。

 これは、昨日の行為で彼女が女になったという証拠なのだろう。


 因みに、この世界には避妊が出来る魔法が存在し、その避妊確率は100パーセントだという。

 ラティはエリーさんからこういう時の為に教わっていたらしく、僕と体を重ねる前にその魔法をかけていたのだ。


「そう言って貰えて嬉しいよ。じゃあ、着替えてアリア達を迎えに行こう。今日は初めての依頼に行くからね」


「うん」


 僕達は服を着て部屋を出て、アリア達を迎えに行った。

 その際アリアに昨夜の事を聞かれ、僕達は真っ赤になってしまった。


――――――――――――――――――――


 今僕達はギルドに来ている。

 目的は依頼を受ける為だ。

 昨日Eランクに上がったから、僕達は受けられる最高ランクのDランクの依頼を選んでいる。


「さて、何を受けようか」


 その時、ラティが何かを見つけた。


「ねえ、ここに何か張ってあるよ」


 よく見ると、他の依頼用紙に埋もれて見えにくい場所に、1枚の依頼用紙があった。

 取り出して、その内容を見てみた。


「何々……この街から馬車で2時間ほどの平原で、商人を乗せた馬車や旅人が次々と消息を絶っているので、その調査を頼みたい。依頼人はこの街の領主で、依頼枠はパーティー2組まで、それで報酬が銀貨5枚。調査の依頼か」


 調査の依頼は、基本的には何か異常があった場合冒険者を派遣してその原因を調べる依頼だ。

 調査の内容でランクが変化するが、これはちょっとおかしい。


「消息が不明となると、きっと何か恐ろしい事が起こっているに違いない。それが、Dランクの依頼で出て来るなんておかしいよ」


「そうね、あたしもそう思うわ」


「それはちょっとした曰く付きの依頼なんだ」


 後ろから掛けられた声に振り替えると、昨日宿で知り合った夜明けの風のワッケンさんがいた。


「ワッケンさん。おはようございます」


「おはようございます」


「ああ、おはよう。2人は依頼か?」


「はい。あの、ワッケンさん、この調査依頼が曰く付きってどういうことですか?」


 ワッケンさんは難しい顔をしながら、口を開いた。


「ああぁ、実はな……」


 ワッケンさんの話を纏めるとこうだ。


 その平原は、元々これといった危険な魔物が出るわけでもなく、商人や旅人がこの街へ通じる道としてよく利用されていた。

 だが、半年くらい前から突然その道を使った人々が消息を絶ち、平原は瞬く間に『魔の平原』という危険地帯となり、領主も1度調査団を送ったが、結果は誰1人戻って来なかった。

 その失敗で、これ以上の損害や費用を出す事を渋った領主は、この調査をDランクの依頼としてギルドに出したそうだ。

 ギルドもそのランクの低さに危険だと反対したが、領主は一歩たりとも譲らずごり押しで通されたらしい。

 だが、その平原での出来事が既に街中に広まっていた為、結果誰も受けてくれる冒険者が出ず今に至るという訳だ。


「……という訳だ。悪い事は言わねえ。2人とも、その依頼だけは止めときな。もし、何かあったら全部2人の自己責任で片付けられちまうから」


 ワッケンさんは心から僕達の事を心配してくれている。

 その心遣いは嬉しい。


 でも、僕らは互いに目を合わせ頷き合った。


「ワッケンさん、心配してくれてありがとうございます。でも僕達は、この依頼を受けようと思います」


「どういう事だ!? 俺が今言った事、聞いてなかったのか!」


「勿論聞いてました。でも、このまま誰も調査に出なかったら、また犠牲者が出る恐れがあります。そんな事になるなら、今受けなかった方を後悔します」


「あたし達は冒険者です。依頼内容や報酬額などの損得勘定で決めたりせずに、あたし達がやろうと思った事をやる。それがあたし達、銀月の翼です」


 僕達は自分達の在り方を譲る気はなかった。

 暫く睨み合って、やがてワッケンさんの方から溜息が出た。


「……はあぁ……分かったよ。おまえ達がそこまで決めているなら、同じ冒険者としてこれ以上言うつもりはない。だが条件が1つある」


「条件ですか?」


「その依頼に、俺達夜明けの風も同行させる。それが条件だ」


 その言葉と同時に、夜明けの風全員が現れた。


「このまま黙っていかせたら、夢見が悪くなるからね」


「昨日の件の罪滅ぼしも兼ねて、一緒に行かせて」


「戦力は多い方がいいですからね」


「私達も力になるわ」


 シェイルさん、ソニアさん、トーマさん、カーマさんの順に僕達の同行を申し出た。


「分かりました。それじゃあ、各自準備が出来たら、1時間後に検問所で落ち合いましょう」


 話が纏まって、僕達銀月の翼と夜明けの風は合同で謎の調査依頼を受ける事になった。


 受付では、例の調査依頼に難しい顔をされたが、僕達冒険者が選んだ依頼としてなんとか受理された。


――――――――――――――――――――


 それから1時間後、僕達は各自の装備を整えて、検問所の前で合流した。


「待たせたか?」


 ワッケンさん達は全員がレザーアーマーやローブといった動き易さを重点にした装備だった。

 武器はワッケンさんがハルバード、シェイルさんが両手の手甲の鉤爪、ソニアさんは魔法杖、トーマさんとカーマさんが弓だった。


「僕達も今来た所ですので大丈夫です。僕達はいつでもオッケーですよ」


「俺達もだ。それから、俺達の従魔を紹介する」


 ワッケンさんの従魔はフォレストウルフという魔物で、名前がアイル。


 シェイルさんの従魔はアクアベアーという魔物で、名前がジオグ。


 ソニアさんの従魔はレッドファルコンという魔物で、名前がロッソ。


 トーマさんとカーマさんの従魔はどちらもピクシーという妖精の魔物で、トーマさんがリリー、カーマさんがミリーという名前だった。


「わああ! 可愛い!」


 ラティはリリーとミリーの可愛らしさに夢中で、2匹を掌に乗せていた。


 因みに、その近くではクルスが妖精に夢中になってるラティが面白くなく、拗ねているのをアリアが宥めていた。


「それじゃ、互いの自己紹介が済んだ所で、出発しましょう」


 僕の収納魔法から出された馬車に乗り込み、ゴーレムに魔力を注ぎ検問所を出て出発した。


 それから2時間程馬車を走らせ、僕達は依頼にあった例の『魔の平原』にやって来た。

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魔物情報


フォレストウルフ

深い森に生息するCランクの狼の魔物。基本は1匹で行動し群れずに生きる。木々の中を潜り抜けられる程の高い瞬発力と敏捷性を誇り、森といった障害物のある場所でもその機動性を十分に引き出せる。討伐証明部位は尻尾。


アクアベアー

紺色の毛皮に包まれた熊の魔物。Cランク。牙や爪に水の魔力を纏わせ、水属性の追加ダメージを与えられる。また水の中では自身の魔力を干渉させ、巨大な水の牙や爪で攻撃もできる。討伐証明部位は頭部の毛皮。


レッドファルコン

Cランクのハヤブサの魔物で、翼の羽毛の隙間から火の粉を吹き散らしながら飛行する。全身に火の粉から発する炎を纏って敵に突進したり、炎を纏った翼で攻撃したりする。討伐証明部位は嘴。


ピクシー

妖精種の魔物でCランク。背中に2対、つまり4枚の翅を持ち、高い知能を持ち合わせる。人の様に魔法が使える為、その希少性から欲しがる貴族も多い。極稀に人語を話せる個体も存在するが、その数は少なく、人語を話せるのは上位種のハイピクシー以上のクラスとなる。討伐証明部位は2対の翅。


次回予告

調査依頼で魔の平原へとやって来た銀月の翼と夜明けの風。

そこで彼らが遭遇したのは、あまりにも強大すぎる相手だった。


次回、悪魔の名を持つ魔物

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