第33話 最初の街、そして初夜
前回のあらすじ
旅の道中、ジャイアントマンティスの襲撃を受けるが、ユーマとラティの新たな武器の力で難なく討伐される。
旅立ってから1週間が経ち、僕達はアルビラ王国の領土からヴォルスガ王国の領土の境目辺りにあるローレンスの街に着いた。
僕は御者台に座り、検問所の門番にギルドカードを出して身分証明を行った。
「はい、冒険者パーティー、銀月の翼ですね。確認しました。どうぞ、入ってください」
僕は馬車を走らせローレンスの街に入り、皆が降りたのを確認して馬車とゴーレムを収納魔法に収納した。
その瞬間を見て、周りの人達が驚いていたが、敢えて気にせず僕達はギルドを目指した。
暫く歩いてギルドに着き、中に入った僕達は受付のカウンターに向かい、受付嬢に声を掛けられた。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「こんにちは。僕達は冒険者パーティー、銀月の翼です。今日は、この街に辿り着くまでに討伐した魔物の報告と、魔石と素材の換金に来ました」
僕達はカードを差し出し、リーダーである僕が代表で目的を話した。
「畏まりました。それでは、別室をご用意しますので、少々お待ちください」
受付嬢さんの言葉で、少し待って職員の人がやってきた。
「お待たせしました。それではこちらへどうぞ」
僕達は職員の人についていき、用意された部屋に入った。
「こちらで、報告と換金に精算を行います。討伐した魔物の証明部位をお持ちですか?」
僕達は収納魔法の中から、討伐した魔物の証明部位と魔石を取り出して、床に置いた。
「成程、収納魔法を使えるのですか。これはなかなか将来が楽しみな若手の冒険者ですね。それでは、精算が完了しましたら、カウンターまでお越しください」
そう言われ僕達は部屋を出て、ギルドの中で待つことにした。
「時間が空いたね。それまで、何か食べていようか」
「そうね。ギルドの中には飲食スペースもあるし」
僕達は飲食席に座り、軽く食べられるサンドイッチを頼んだ。
その待ってる間、僕達は適当に話合っていた。
「お待たせしました。ご注文いただいたサンドイッチでございます。ごゆっくりどうぞ」
職員の女性が置いたサンドイッチを早速食べた。
「へえ、ギルドの食事って美味しいね」
「ほんと。このサンドイッチ、美味しいわ」
アリアとクルスも美味しそうにサンドイッチを食べている。
「クルゥ」
「キュイ」
今の「キュイ」という声はアリアの声だ。
彼女は竜神という事が知られて余計なトラブルになる事を避ける為、普段は人前では幼竜として振舞っている。
クルスも、人前ではグリフォンの子供として振舞っている。
それでも竜とグリフォンの子供という事で注目を浴びると思うが、本来の姿ほどの注目はないだろう。
「銀月の翼の皆様、精算が終了しました。カウンターまでお越しください」
ちょうどサンドイッチを食べ終えた頃に、さっきの職員の人に声を掛けられ、僕達は席を立ちカウンターに向かった。
「お待たせしました。皆様がお持ちになった魔物ですが、ジャイアントマンティス1体、ファングボア5体、オーク5体となり、それに魔石と素材も入れまして合計、金貨5枚、大銀貨5枚、銀貨8枚となりました。御2人は現在Fランクですが、今回の報告でCランクのジャイアントマンティスがいましたので、それを討伐した実績により、御2人をEランクに昇格とします。1度、ギルドカードの提示をお願いします」
なんと、僕達はこの報告だけで、ランクアップが出来る様になった。
だがこれは、嬉しい誤算であった為、僕達はギルドカードを出し渡した。
僕達の出したギルドカード受け取った受付嬢さんは、それにスタンプの様な物、恐らくマジックアイテムだろう。
それをかざし、魔力を注いだ。
すると、僕達のギルドカードの色が黄色へと変わっていった。
「はい、これでランクアップは完了です。そして、銀月の翼も、御2人が昇格したことでEランクのパーティーとなりました。こちらは精算のお金となります。これからも頑張ってください」
「「ありがとうございます」」
「キュイ」
「クルゥ」
僕達は硬貨の入った袋を受け取って異空間に入れ、ギルドを後にした。
「じゃあ、宿を探しに行こうか」
「うん」
僕達は少しして、風の花という宿に辿り着き、中には入ってみた。
別にここにしようと最初から決めていた訳じゃない。
ただ、宿の外見から感じる雰囲気から、ここにしてみようと思っただけだ。
「いらっしゃい」
中に入ると、前世でいう食堂のおばちゃん的な女性が笑顔で出迎えた。
この笑顔、どうやら当たりみたいだ。
「2人部屋が1つ空いていたら、1週間泊まりたいんですが」
「はい、空いていますよ。部屋は2人部屋でよろしいですか? それとも、異性という事も考えて2つの方が宜しいですか?」
この質問は、前から想定してた。
成人仕立てとはいえ、若い男女が1つの部屋で寝るのは色々と思う所もあると思う。
だが僕達は互いに頷き、こう答えた。
「僕達は婚約者なので、部屋は1つで大丈夫です」
「あら、そうなの。いいわね、お嬢ちゃん。こんな格好いい男の子がフィアンセなんて」
「は……はい……」
宿の人にそう言われ、ラティは嬉し恥ずかしで顔を赤くしながら下を向いた。
この仕草はほんとに可愛いな……。
僕らは婚約者なので、一緒の部屋でも問題なく受けいれられる。
まあ、もっとちゃんとした公の場なら、ベッドは勿論別々の部屋もちゃんと受け入れるけどね。
「それじゃ宿代だけど、1週間の滞在なら一括で先払いにしますか? それとも、最終日に纏めて払いますか?」
今この場で払えるなら、すぐに払っておいた方がいいよな。
「なら、今この場で先払いします」
「分かりました。では2人分で1週間なので大銀貨2枚になります」
僕は懐の袋から、大銀貨を2枚取り出して渡した。
「はい確かに。それじゃあ、この鍵の番号の部屋を使ってくださいね。ああ、そういえば申し遅れたね。あたしはこの宿の女将のシナっていうんだ。食事はさっきの代金に含まれていて、朝と夜にそれぞれ用意するからね。その他にも何か必要な事があったら、いつでも言いなさい」
「ありがとうございます、シナさん。僕は冒険者のユーマ・エリュシーレです。こっちは従魔の幼竜のアリアです」
「キュイ」
「同じく冒険者で、婚約者のラティ・アルグラースです。この子は従魔のグリフォンの子供のクルスです」
「クルゥ」
「おや、可愛い従魔だね。それに竜とグリフォンの子供とは珍しいね」
「僕達の大切な家族ですので」
そういって僕らは階段を上がり、鍵の番号と同じ、202の部屋に入った。
中には、ダブルサイズのベッドに、大きめのテーブル、それにクローゼットがあるだけだったが、とても綺麗な部屋だった。
僕達はテーブルの椅子に腰かけた。
「ユーマくん、この1週間はこの街にいるの?」
「うん。冒険者として依頼を受けて、少しでも路銀を稼ごうと思うんだ。修業時代に稼いだ資金はまだ残ってるし、さっきの換金したお金もあるけど、いつ何があってもいいようにお金を稼いでおくのに越した事はないよ」
『そうですね。幸いな事に、ユーマ達はさっきの報告でEランクにランクアップしました。これで、Dランクの依頼も受けられます』
「そう。Dランクはある程度実力を認められた冒険者のランクだから、危険度は増すけど報酬もそれなりの依頼がある筈だからね」
冒険者は基本はどんな事が起こっても、それらはすべて自己責任になる。
つまり、例え依頼で命を落としたり、四肢欠損する様な重傷を負っても、それらは全て冒険者の自己責任となりギルド側は一切責任を取らない。
しかし、危険を冒してでも依頼をこなし、ランクを上げれば今度は知名度が上がる。
冒険者とは、まさに命がけの職業なのだ。
「この1週間は依頼を受けての冒険者活動。そして、チェックアウトする前日に物資の補給をしよう。食料も、活動中の昼だけの分なら十分な量がある」
「分かったわ。じゃあ、明日またギルドに行きましょう」
それから暫くは雑談をしていて、シナさんから食事の用意が出来たという知らせが来たので、僕達は食堂へと移動した。
食堂に入ると、他の宿泊客の人達がすでに食事をしていた。
その人達は僕達が入ってくるのを見ると、驚いたりしていた。
「おい! あれ、竜じゃねえか!?」
「ああ! それにあの嬢ちゃんの方に乗っかってるはグリフォンじゃねえか!?」
周りの人達は僕らの頭や肩に乗っているアリアとクルスを見て驚いている。
中には怯えている人もいた。
「はいはい! あんた達、この子達はこの宿に泊まっている大切なお客さんだ! そんな目で見るのはお止しな!」
そこにシナさんが来て、驚いている人達を一喝した。
それにより、周りは次第に静まり、落ち着いた。
「ごめんね、2人とも。あたしがちゃんと言わなかったから、こんな騒ぎになってしまって」
「いえ、注目されるのには慣れてますし、悪気が無いのは分かってますから」
「だから、シナさんも気にしないでください」
「あんた達はいい子だねえ。分かったよ。じゃあ、あそこの席に座りな。沢山食べて、冒険者の活動に備えておくれ」
僕達はシナさんの指した席に座り、用意してくれた夕ご飯を食べ始めた。
ここの食事はシナさんが作っていて、その味は凄く良かった。
その味わいはまさにお袋の味という物だった。
「なあ、ちょっといいかい?」
そこに、さっき驚いていた人達の何人かが寄ってきた。
「えっと……何でしょうか?」
「さっきは、驚いて済まなかったな。竜とグリフォンなんて滅多に見ないから驚いちまって、お前達には不愉快な思いをさせた事、申し訳ねえ」
人族の男性の言葉と共に、後ろの4人も頭を下げてきた。
「僕達は気にしてませんよ。だから、頭を上げてください」
「そうですよ。もう終わった事ですし、元気出してください」
その言葉を聞いて、その人達は涙を流しながら顔を上げた。
「ありがとうな、許してくれて。俺達は、Dランク冒険者パーティー、夜明けの風だ。俺はリーダーのワッケンだ」
ワッケンさんに続いて、順に犬耳の獣人族の男性、人族の女性、エルフの男女と自己紹介された。
「僕はシェイル。獣人の犬人族です。よろしくね」
「あたしはソニア。よろしく」
「僕はエルフのトーマです。こっちは双子の妹の……」
「カーマです。よろしくです」
僕達も自己紹介した。
「僕はEランク冒険者パーティー、銀月の翼のユーマです。こっちは従魔のアリアです。よろしくお願いします」
「キュイ」
「同じく銀月の翼のラティです。この子は従魔のクルスです。よろしくお願いします」
「クルゥ」
僕達と夜明けの風の人達は打ち解け、一緒に食事して親睦を深めた。
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その後、僕達は部屋に戻ってお風呂に入って旅の疲れを癒した。
「はあ、さっぱりした。気持ちのいいお風呂だったね」
ラティは濡れた髪をタオルで拭きながら話し掛けた。
「そうだね。やっぱり、お風呂のある所は最高だ」
それから少しして、僕らは明日ギルドに行くことを打ち合わせると、アリアとクルスは従魔の小屋へ行くと言い出した。
『ユーマとラティの最初の夜ですから、ちょっと気を利かせようと思いまして』
アリアはそう言ってクルスを連れて出て行ってしまった。
最初は思考が止まってしまったが、こうしてラティと2人っきりになると、自然とアリアの言葉の意味が分かってしまった。
僕達は顔を真っ赤にして、見つめ合った。
「ラティ、僕達まだ結婚はしていないけど、いいかな?」
「うん……ユーマくんとそういう事が出来るなら、あたしは嬉しいし、いいよ。あたしの初めて……あげる……」
ラティはそう言いながら明かりを消し、僕の前でゆっくりと寝間着と下着を脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿になった。
窓から差し込む月の光に照らされたその裸身は、まるで女神の様に綺麗だった。
月光に反射して輝く銀色の髪、純白だが健康の良さそうな色の肌、見る者を全て魅了する様な豊かな胸、その胸とは対照的に細くくびれた腰、そこから更に一転して肉付きの良いハート形のお尻、スラリと無駄な脂肪がついていない綺麗な脚、その全てが完璧な最高の裸身だった。
「綺麗だよ、ラティ。君の初めて、大切にするから」
「うん……優しくしてね……」
僕はベッドから立ち上がり、寝間着を脱ぎ去ってラティと同じ姿になった。
そして僕達は生まれたままの姿になって、互いに抱きしめ合いキスを交わした後、僕はラティをベッドへとゆっくりと押し倒した。
この日、僕とラティは初めて体を重ねた。
アリア、気を利かせてくれてありがとう。
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魔物情報
ファングボア
2メートル程のEランクのイノシシの魔物。突進しながらの顎から突き出た牙で攻撃するが、その攻撃のコースが予測しやすく、訓練を積んでいれば猟師でも討伐可能。その肉は美味で、平民の食卓では角兎、オークに並んで需要がある。討伐証明部位は牙。
次回予告
初の依頼を探すユーマ達だが、そこである曰くつきの依頼を発見する。
次回、曰くつきの依頼




